3話 庇ったら罵声の嵐だよオイ!
「あなた方の思惑通りってのは癪だけど、分かりました。引き受けましょう!」
六条が魔王討伐を引き受けた。
「ちょっと待って!これは六条君だけで返事して良い問題じゃないでしょう?!」
異議を唱えたのは初瀬綾音、クラス委員長で生徒会副会長もやっている優等生だ。
因みに生徒会長は3年男子で此処には居ない。
そして何より彼女は4大美人の一角なのだ。
4大美人というのは、うちの高校の2年生3クラス全体の中で突出した4人の美人を指している。
まさに選ばれし女神と言った所だ。
まあこんなファンタジーな世界が存在するのなら安易に女神に例えるのは良くないかもだけど。
身長は俺より少し低い162〜3センチくらい、黒髪ロングが似合うスレンダー体型だけど出るところは結構出ている。そしてキリッとした中に意思の強さと優しさを秘めた顔立ちは超が付く程美しく整っている。
うん、やっぱ女神だな。
そして俺は正直なところ委員長に恋しちゃってる。
まあ話した事は無いんだけど。
でも俺がクラスの男子から嫌がらせされている時に何度かそいつの事を注意してくれた。
その時にビビッと来たんだよな。
要は一目惚れってやつだ。
委員長はさっきまで泣き崩れていた女子に寄り添って慰めていたのだが、王女様がする対価の話が俺たちにとってあまりにも夢いっぱいな内容だった為、女子が『さっきまでの号泣は何だったのか?』っていうくらいノリノリで王女様の話を聞き初めたので、委員長も流れで事の成り行きを見ていたのだ。
そして今、六条の独断専行に物言いを立てた。
俺的には委員長がここから巻き返して話の主導権を六条から奪い取って欲しいのだが。
果たしてどうなるのか?
六条は委員長へ向き直った。
「ん?初瀬か。ならお前は今の話を聞いてそれでも拒否出来ると思ってるのか?」
「難しいとは思うわ。でもだからって六条君一人で進めて良い話じゃない。みんなの意見も聞かないと」
「はぁ、初瀬、俺は無駄を省きたい。さっきまでの俺と王女との駆け引きは何だったのか考えてみろ。その上で一体何を話し合うっていうのか、正直時間の浪費だと思うが・・・まあ良い。なら初瀬、後のまとめは委員長のお前に任せる。良い意見が出るといいな」
そう言うと六条はひらひらと手を振ると委員長に場所を譲るように下がっていった。
うっわー、嫌味だなおい。けどここまで話を進めたのは六条だし仕方ないか。それにしてもやけにあっさり引き下がったよな?
まあいいか、俺は断然委員長の味方だよ、頑張れ委員長!
委員長がみんなの前に出る。
「じゃあみんな、今回の事だけど...」
「委員長よぉ、優馬の邪魔してんじゃねえよ!」
「そうよ!散々六条君が話をまとめてきたのに今更しゃしゃり出てんじゃないわよ!」
ヤバい、ブーイングが結構ひどい。
まさか六条はこうなる事を見越していたのか?
委員長は思わぬブーイングに戸惑いながらも何とか纏めようとしている。
「私は只、みんなの意見も聞いて...」
「意見って、そんなの分かり切ってるじゃない!」
「だよな。魔王ってのをぶっ倒して元の世界へ帰るの一択っしょ!」
ブーブーと委員長への批判が止まらない。
ええいもう!俺の委員長に何してやがる!
「みんな、今は仲間割れしてる場合じゃないだろ!!」
俺は盛大に割って入った。
本来ならそんな柄でも立ち位置でもないのだが、みんなの批判に晒されている委員長がほっておけなかった。
当選、矛先がこっちに向くのは分かり切っていたけど、まあ俺は慣れてるしな。
「ああ?嘘つき野郎がなにカッコつけてんだよ?」
「騙り野郎はお呼びじゃねえんだよ!」
「何勝手にしゃしゃり出てんだよ?消えろ!」
「テメエの出番なんて永遠に来ないんだよ!てか何で居るんだよ?」
「だよな、お前だけ日本に取り残されてると思ってたわ」
「・・・・・」
えぇぇ・・・想定してたより酷い言われ様だったよ。流石にヘコむわ。
しかし俺への罵声は続いた。
「どうせ、委員長に気に入られたくて言ってるんでしょ。下心が見え見えなのよ!」
「うへえ、片クリに飽き足らず、委員長にまでストーカーかよ。もうお前死んだ方がいいんじゃね?」
「嘘つきストーカー野郎!」
「ちょっと、私のは違...」
片クリこと片山クリスティーナが何か言おうとしたがみんなの語気にかき消された。
片クリを見ると、彼女と目があった。合った途端、気まずそうな顔をして目をそらす片クリ。
気まずそうな顔も絵になるってのはさすが四大美人の一角だ。
けど俺はお前には靡かないからな。
ちなみに言うと、以前、片クリストーカー事件というのがクラス内で勃発し、俺が犯人としてみんなから責められた事があったのだ。
無実だけどね。
だけどこの事件の事は、俺と片クリと真犯人の3人だけの胸に納める様、担任によって強引に手打ちにさせられた。
実際には片クリの友人などは真相を知ってたりするのだが、他のみんなは聞かされていなくてこの事件が解決済な事も誰が真犯人だったのかも知らない。
担任の終息宣言によって騒ぎこそ収まったものの、その中途半端な幕引きによって未だに俺は犯人だと思われているのだ。
それで何が解決なのか?
本当、呆れるよ。
そして真犯人の山本学武はというと・・・
「死ね死ね死ね!ストーカー野郎!」
ドサクサに紛れて俺を野次っていた。
マジか?!流石に恥知らず過ぎだろ。
俺は山本を睨みつけ言ってやる。
「おい山本、お前・・・バラすぞ!」
「ひっ!」
速攻で怯んだ山本学武。
雑魚キャラかよ。
「おい嘘つき、山本君を脅してんじゃねぇぞ!」
「最低!山本君がおとなしい子だからって今度は弱味握って恐喝なんて」
「嘘つきにストーカーに今度は恐喝かよ。こりゃ将来刑務所行き決定じゃね?」
「もう此処で逮捕してもらおうよ!」
更に酷い言葉が俺に突き刺さって来る。
心の傷が秒速で増える増える。
さっきまで夢いっぱいだっただけに、気持ちの落差が辛いよ全く。
けどこれで委員長への批判は逸らされた。思惑通りだ。
あとは頼んだ、委員長・・・ガクッ!
なんて、まあ死にゃしないけどさ。
ブーイングの域を完全に逸脱した強烈な罵声が収束した所で、改めて委員長の仕切りで話し合いが始まった。
話し合いと言っても意見交換は殆ど無くて単に多数決を取っただけだ。
その結果、満場一致で王女様の願いを引き受ける事になった。
これで魔王討伐が決まった。
そしていよいよ俺たちは、勇者の称号を授かる為の儀式に移った。
儀式用の祭壇室に移動した俺達、王女様、そして龍王。
儀式は速やかに行われた。
祭壇に祈りを捧げる王女様、俺を含めクラスメイトのみんなは王女様を見つめたまま微動だにしない。
緊張でガチガチになっているのだ。
そりゃこれから俺たちの体に何らかの変化が起こる訳だからな。
痛みは無いって聞いたが不安は拭えない。
けど、ただ不安なだけじゃ無くて未知への期待もある。
みんなの不安とワクワクが狭い祭壇室に充満していてピーンと張りつめた緊張感が今にもはちきれそうなのだ。
長い祈りの後、王女様は祭壇に背を向け、俺たちの方を向いた。
そして天に向かって手を広げる。
「異なる世界より出でし勇気ある者達に大いなる祝福を!」
次の瞬間、天から暖かな光が俺たちに降り注ぐ。
俺たちはその幻想的な光景に目を奪われた。
それは単なる光では無かった。
さながら光の中から神様が降臨するかのような荘厳さを纏った色であり、自分の存在全てが祝福された様な希望の色であり、世界中の醜さやドス黒さが洗い流される様な赦しの色であった。
俺は心の底から、身体の芯から、脳の髄から打ち震え、目から自然に涙が溢れた。
はっと我に帰ると、光は消えており、周りのクラスメイト達も同様に我に返った風でキョロキョロと辺りを見回している。
俺だけじゃ無い、みんな涙を流していた。
それはこれまで経験したことの無いとても不思議な体験だった。
王女様が俺達の方へ向き直った。
「お疲れ様でした。これで祝福の儀は終わりです。すでに皆様には勇者の称号が与えられている事でしょう」
一瞬の静寂。そして、
「よっしゃあああぁぁぁ!!!」
「うおおおおぉぉぉぉ!!!」
「時は来たぁぁぁぁ!!!」
「やってやるぜぇぇぇ!!!」
歓喜の声がこだました。
飛び上がって喜ぶ奴、拳を天に突き上げる奴、友達とハイタッチする奴、抱き合って喜ぶ奴。
あとは、
黙って只々不敵な笑みを浮かべている奴・・・・・怖いわ!
とにかく反応は様々だった。
俺はというと一人小さくガッツポーズをした。
だって喜びを分かち合う友人なんていないからな。
さっきだって俺が口火を切ったとはいえ散々な言われ様だったし。
そんなクラスカースト最下位の俺でも嬉しいものは嬉しいのだ。
あとはどんな力を授かってるかだよな。
楽しみもあるし不安もある。
しょぼい力だと嫌だな。
あ、これってもしかしてフラグ立った?




