266話 お前は新たな敵なのか?オイ!
「銀影、やれ」
そう命令した。
そして銀影は賀港の首をへし折る・・・その筈だった。
しかし、
ズバッ!
何かを斬ったような鈍い音がした。
すると、目の前の賀港の体が・・・真っ二つに割れたのだった。
・・・え?
俺の攻撃じゃない。
どういう事だ?
そういえばさっき賀港が何かを叫んでいた。それと関係があるのか?
実はさっき賀港が叫んだとき、何を言ってるのか殆ど聞き取れなかった。
最期の叫びだったからなのか、発音から何からグチャグチャに乱れていたのだ。
辛うじて何かを呼んでいたのだけは聞き取れたが・・・
アールなら分かる筈だ。
聞き取れなくたってAIが補正してくれるし。
そう思った瞬間、目の前の視界が霞んだ。
ものすごい勢いで足元の砂埃が舞い上がったのだ。
そして目の前にバリアからの警告文が表示される。
「未確認の攻撃を被弾中。防御に成功しました。攻撃元を調査中・・・」
・・・は?
普段、バリアの表示は最小限に設定している。
そうしないと、必要の無い細かな変化までもが一々表示されるからだ。
それこそ『1分間にバリアが弾いた有害ウィルスの数と種類』なんて研究者しか喜ばないような情報まで報告してくる。
鬱陶しくて仕方がない。
だから最小限にしているのだ。
それが表示されたという事はつまり・・・
絶対に報告しなきゃいけない重要情報という事だ。
≪カガリ、気をつけなさい!≫
・・・分かってるさ!
土埃が止み、視界が開けた。
俺は周囲を確認する。
なんと・・・・・賀港は生きていた。
それどころか、なぜか銀影の拘束から逃れていて、大慌てで逃げ去っている最中だったのだ。
逃すかよ!
俺は賀港の体内に潜入させているナノマシンを起爆させた。
落勇者の称号をひっぺがす為に送り込んでいたやつがそのまま残っていたのだ。
けれど・・・・・ナノマシンからの反応は無かった。
アールが焦ったように言った。
≪ダメ、ナノマシンが破壊されてるみたい!≫
・・・嘘だろ?なんで?
≪分からないわよ!≫
さっきから俺達は完全に訳の分からない状況に陥っていた。
一体何が起こってるんだよ?てか銀影はどこ行った!?
賀港を取り押さえていた銀影3体の姿が消えていた。
いや。
よく見ると・・・・・地面に銀色の液体がドロリと水溜りのように広がっていた。
ピクリとも動かない。
・・・まさか破壊されたのか?!
≪そのまさかみたいね≫
銀影はナノマシン集合体だ。
攻撃を受けて形が崩される事はあっても、ダメージは受け流されすぐに元へ戻る。
水溜りのまま動かないなんてあり得ないのだ。
そもそも、ナノマシンが破壊されるなんて今までの戦いでは経験した事が無い。
≪壊されたのは安物よ。それでもまさかナノマシンを破壊する奴がいるなんてね。油断したわ≫
油断か・・・油断!?
俺はハッとした。
・・・綾音と真村は?!
良かった、無事だったよ。
しかし二人とも様子がおかしかった。
俺と同じ攻撃を受けたのかもしれないな。
じゃあ・・・アレンは・・・?!
いた筈の場所に・・・彼の姿は無かった。
「アレン・・・そんな・・・」
そう呟いたのは・・・真村だった。
彼女は・・・放心しているようだ。
「真村!」
「留美!アレンさんは・・・」
「・・・めちゃくちゃに切り刻まれて・・・目の前から・・・消えちゃった・・・」
・・・マジか。
真村が言うのだ。嘘な訳がない。
にしても影も形も無いってのはどういう事だ?
まさか謎の攻撃で跡形もなく消滅したってのか?
綾音と真村にはバリアを張っていた。
俺と同じ最高ランクの硬さのやつだ。
でもアレンには張っていなかった。
つまりアレンは・・・
・・・死んだ・・・のか?
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
≪生きてるわ!≫
・・・アールうううぅぅぅ!!
それはまさしく救世主の声だった。
≪今、肉片をこっちへ転送して再生しているところよ≫
・・・肉片て・・・やっぱ死んでるじゃん!!
≪飛び散りたての肉片よ?しかも血の一滴まで100%回収出来た。だから元通りに復元可能なのよ。超科学的にはまだ『重傷』扱いよ!≫
・・・重傷?・・・本当なのか?
≪ええ。アレンが死んだら、守れなかったカガリを真村は一生許さないわよ。表向きは平静を装ってもね。だから絶対に死なせない。カガリはカガリの仕事をしなさい!≫
・・・分かったよ。アール、ありがとな!
あのアールが俺の女じゃない真村をここまで積極的に助けるなんて・・・ハーレム入りへの道筋をまだ探っているのかもしれない。
例えそうだとしても、恋人を死なせるより真村自身の気持ちを優先してくれた事に俺は感謝した。
「アレンは俺が避難させた。生きてるぞ!今怪我の治療中だ!」
二人へそう伝えた。
ガシッ!
真村が俺に抱きついてきた。
「ありがとう海月君!アレンが消えた時・・・一瞬、ぐちゃぐちゃになる彼が見えて・・・もうダメだと思ったんだよ!あれは見間違いだったんだよね?ううん、いいの。君の事、信じてるから。お願い・・・助けてあげて!」
「大丈夫だ。任せろ」
真村が感情をこんなに激しく表現するのを初めて見た気がする。
よほど動揺していたのだろう。
「良かった。本当に」
綾音もそう言って涙を拭う。
そこへ、逃げ去っていた賀港が遠くから吠えたてて来た。
「ヒッヒッヒッ!残念だったねえ爬虫類!長々と話したのは時間稼ぎさ。この瞬間のためのねえ!どうだい?私は逃げ延びたよ?体の中に入り込んでやがった異物も取り除かせた!勇者の称号?んなモン要らないね!まあ未練が無いとは言わないが。今となっちゃ落勇者も悪くない。幸せな奴等をぶっ殺して憂さを晴らせるしね。イケメンだって力ずくで幾らでも手に入るんだよ!金心の男は跡形もなく消し飛んだかい?ざまぁ!私の手で殺せなかったのは残念だけどね。おっと、天堂の身柄は返して貰うよ。ヒヒッ!そうだ、良い事を思いついたよ。たっぷりと絶望を味わいな!」
賀港はこれ見よがしに右手をパーの状態で顔の位置まで持って来ると・・・
「ブレイク!」
そう言ってガシッ!と手のひらを閉じた。
その瞬間・・・
バリンッ!
何かが砕ける音が鳴った。
すると・・・
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
寝ていた天堂が起き上がりベッドに座り込むと、大きく目を見開いて絶叫し始めたのだった。
「嫌!嫌!嫌あああああぁぁぁぁ!!私じゃない!私が殺したんじゃない!!でも・・・私が・・・私が・・・殺しちゃったああああぁぁぁぁ!!!!!!」
天堂は頭をかきむしりながら言葉を発し始めた。
首にぶら下がっていた赤い宝石が粉々になってボロボロと崩れ落ちていた。
賀港の奴・・・
・・・『狂気のネックレス』を破壊しやがった!!
て事は、天堂が正気に戻ったのか?
さっきまで笑うばかりで一言も話さなかったのに、今はまるで念仏のように自らの絶望を唱え続けている。
「天堂さん!落ち着いて!!」
綾音が天堂の肩をゆすった。
けれど天堂は綾音の事が全く目に入っていない・・・というより、何も視界に捉えていない様子だった。
「手首?足首?バラバラにした?私が?そんなあああぁぁぁ!」
「天堂さん!お願い!こっちを見て!」
「2000人になってお得?どこが?私、もう1998人も殺しちゃった・・・」
「こっちを見るの!大丈夫!気をしっかり持って!」
「やっとクエストクリア?全然嬉しくないよ・・・虐殺勇者?狂笑?・・・何それ?嫌だよ!・・・」
真村もアレンの心配をかなぐり捨てて綾音と一緒に天堂の肩を掴む。
「天堂さん!あなたは悪くない!全部賀港の仕業だから!あなたは何も悪くないんだよ!!」
「賀港のしわざ?・・・賀港・・・賀港さん!・・・賀港さんはどこ!?あの人が私を助けてくれるって・・・助けて賀港さん!!」
それを聞いた賀港は腹を抱えて笑う。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!傑作だよ!私が助ける?んな訳ないだろバーカ!天堂陽鞠、お前の地獄はここから始まるのさ!恨むならその傷一つ無い綺麗すぎる顔を恨むんだね!」
そして悪魔はその嘲笑を俺に向けた。
「残念だったねえ爬虫類!天堂を助けてやれなくて!嘆く必要はないさ。お前の人生もここで終わりになるんだ」
「・・・黙れ」
「聞こえないねえ!私は遠くにいるんだよ?もっと声を張りなよ爬虫類!」
「この・・・腐れ外道の悪婆め!テメエだけは絶対殺す!地獄の底の更に底まで叩き落としてやる!!」
綾音の前だろうがもう歯止めは効かなかった。
俺は汚い言葉で賀港を罵倒した。
そして、生物が触れれば激痛を伴いながら急速に体が腐り果て10分で死に至るという残酷極まりない『Z6マル4シグマ線』通称『虹色線』を容赦なく放った。
それは虹色に輝きながら賀港を貫かんと突き進んだ。
しかし・・・
「居合・事象斬り!」
その声と共に虹色線は弾かれた。
その時、気づいた。
賀港の背後から誰かが歩いて来るのを。
「待たせてすまない。賀港殿」
そう言ったのは・・・羽織袴に腰には大小の日本刀を差した女剣士。
颯爽としたその姿は・・・
三太刀葵だった。
「カーくん!」
錯乱状態の天堂を持て余した綾音が、俺に助けを求めた。
俺はサッと手をかざして天堂を眠らせる。
あの状態のまま放置すれば、すぐにでも心が壊れていたかもしれない。
元に戻してやりたくても天堂にリバースは通用しないだろう。
いくら壊れた心を戻しても、虐殺の記憶は消せないからだ。
賀港の奴は、自分が受けた消えない傷の腹いせに、なんの関係も無い天堂の心へ消えない傷を刻みやがったのだ。
ともかく天堂は今後、慎重に心の傷をケアする必要があるだろう。
まあ、全てはこの場を片付けてからの話だけどな。
「転送!」
俺の言葉と共に、村人の死体を横たえていた77台のベッドが消えた。
全てをスピーリヒル城へ移動させたのだ。
天堂のベッドだけは残した。
転送すれば『存在核』のオリジナルが失われてしまう。
村人たちはもう死んでいるから関係ないが、天堂はまだ生きているのだ。
一面に並んでいたベッドが消えた事で、広場は元の面積へと戻った。
程よい広さ。
戦いの舞台にピッタリだ。
「なあ、真村。前に言ってたよな?クラスメイトはもうバラバラで、いつ敵になるかも分からないってさ」
「うん」
「早速、現れたぞ」
俺はそう言って三太刀を見据えた。
俺の視線を追って綾音と真村も三太刀の存在に気づく。
「あれは・・・三太刀さん?」
「嘘だよね・・・賀港の味方なの?」
「そのようだな」
賀港は横に並んだ三太刀へまくし立てる。
「全く。遅いんだよ!時間を稼ぐ為に洗いざらいしゃべっちまったじゃないか!てかいきなり真っ二つにされたときにゃ漏らしかけたよ。まさか私の中に爬虫類の手駒が潜んでやがったとはね。『異物斬り』・・・相変わらず見事な剣の冴えだよ全く。それでもあの三人を仕留め損なったのかい?アンタらしくも無い」
三太刀は悠然と俺達を見た。
「あれは龍人?・・・それに委員長か。あとは地味な子。ベッドにはアイドルっぽい子。随分懐かしく感じる面子だね」
「そうだよ!みーんなアンタの敵さ!早いとこ殺っちまいな!けどベッドの女だけは殺すんじゃないよ。連れて帰るからね」
それを聞いた綾音が天堂を庇うようにベッドの前に立ち塞がる。
「海月君!」
真村が目で訴えかけてきた。
俺が無言で頷くと、真村も綾音に寄り添うようにベッドの前に立った。
俺は三太刀へ問いかける。
「おい三太刀!その婆ぁはお前の何なんだ?お前の立ち位置は今どこにある?」
三太刀は小首を傾げる。
「はて?龍人に知り合いはいない筈なのだが・・・委員長、あと地味な子、すまない。君たちの名を教えてくれないか?どうにも忘れっぽくていけない。それに、そこの龍人は何者かな?」
「初瀬よ。初瀬綾音」
「真村留美・・・です。この人は海月…」
俺は真村を手で制した。
「俺の事はどうだって良い。三太刀、お前はこれからここで何をする気だ?」
「ふむ。何をする気、か・・・」
三太刀は刀の顎を指でさすりながら少し考えると、綾音と真村へ問いかけた。
「・・・初瀬殿、真村殿、君たちは落勇者かい?」
「違うわ」
「私も・・・違います」
「ならば、これから落ちる予定はあるかな?」
「そんなもの、ある訳ないでしょ!」
「絶対に嫌です!」
「そうか・・・・・ならば、君達には死んでもらう事にしよう」
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