241話 ラクロアって強いの?オイ
王女を媒介とした『命奪転移』でやって来たのは金髪のイケメン、スピーリヒル帝国騎士団長のラクロア・スラバントだった。
・・・やっぱり来たか。
落勇者との戦いの最中、王女が枝の形をした魔道具をパキリと折り、コイツと通信していたのは知っていた。
枝の魔道具は梨森も持っていた訳だし、命奪転移の石だって複数あってもおかしくはない。
意外だったのは、王女が元の姿のまま生きている事だ。
『命奪転移』は文字通り人の命をエネルギーにして転移する力だ。
王女本人がそう言っていたから間違いない。
現に梨森はまるで精気を吸われたようにカラカラのミイラになって死んだ。
ならなぜ王女は死んでいないのか?
てか、そもそも自分の主人を転移先に選ぶなんて、このラクロアって奴、どうかしてるんじゃないのか?
案の定、王女は激怒していた。
「ラ、ラ、ラクロアああああああああああ!!!貴様、この私を転移の的にかけるなど、万死に値しますよ!!215番を使えと言ったでしょうがあああああ!!!」
ラクロアは金髪をなびかせ涼しい顔で返した。
「真村留美ですか?彼女とて貴重な戦力の1人でしょう?この先100年を見据えるなら転移ひとつの為に消費してしまうのは惜しい。幸いにして姫様は今や不老不死の身ですし何ら問題ないかと」
「問題大アリだよクソ馬鹿野郎が!あの命が吸われる感覚・・・その苦しさと恐怖・・・本気で死ぬかと思いましたわよ!!・・・しかも何故六条様のお姿が無いのです?お連れするよう命じたでしょう?」
「それが・・・最初は乗り気だったのですが、海月カガリという名を出した途端『気が変わった』と仰って。『海月如きに自分が出向く必要は無い』の一点張りで来て頂けませんでした」
「全くあなたはお使い一つできませんの?はぁ〜。仕方ありませんわね。まあ、あなたが居れば何の問題も無いでしょう。ラクロア・スラバント、先程の無礼は特別に許します。その代わり海月カガリを確実に殺しなさい!もう手足をぶった斬るなんてしません。確実に息の根を止めなさい。これは絶対命令です!!」
「はっ。お任せを。マイプリンセス」
ラクロアは一切悪びれず王女へ頭を下げた。
・・・クソ王女にあんなマネして許されるなんてイケメンは得だよな。てかあの女が不老不死?それってやっぱり翼さんのスキルだよな?じゃあ翼さんはもう魔道具にされちまったって事なのか?後でじっくり尋問してやる!
などと、俺はのんきに王女とラクロアの会話を聞いていた。
今更、戦いを焦る必要も無いからな。
会話くらいさせてやるさ。
それにしても六条がこの場に来るのを拒否ったってのは傑作だ。
それって俺にビビって逃げたって事じゃん?
まあ軽いトラウマになるくらいには奴の自信を叩き折ってやったからな。
復讐の続きが出来ないのは残念だが、次の機会に取っておくとしよう。
さて。
新たな敵はスピーリヒル騎士団長一人だけか。
一見、楽勝なんだけど・・・
俺はどこか違和感を感じていた。
それは王女の落ち着きっぷりだ。
さっきまで俺に超ビビリまくってたよな・・・?
それがラクロアが来た途端、俄然、余裕を取り戻したのだ。
六条も来たのならそれも分かるがそうじゃない。
・・・ラクロアってのはそこまで強いのか?
どう見てもそこまでの強さは感じない。
立場的にさっき倒した騎士団幹部よりは強いんだろうけど、正直、俺から見たら大した違いに感じないんだよな。
それくらい隙だらけなのだ。
俺は王女の目の前で従魔を解禁した落勇者を5人倒して見せた。
六条を除けば最強戦力の筈だ。
それを知った上でこの余裕って事は、まさか落勇者よりも強・・・・・
・・・あれ?
俺ってばどうなって・・・
「ぐはっ!!」
俺は突然、口から大量の血反吐を吐いた。
・・・な、なんだ・・・これ?
≪カガリ?一体何が起こったの!?≫
・・・し、知るか!それより・・・治療を・・・
俺はあまりの衝撃とダメージで崩れる様に片膝をついた。
ラクロアは相変わらず涼しい顔で首を傾げている。
「あれ?おかしいな。首を飛ばしたつもりなのだけど?」
首を飛ばした?
いつ?どうやって?
だってアイツは一切動いていなかったぞ?
ラクロアに言われて気がついた。
切断されてはいないものの、俺の首は深々と切り割られていたのだ。
プシュー!!
大量の血飛沫が舞う。
・・・やばい・・・死ぬ・・・
急激に俺の意識が遠のいて行く。
視界もだんだん暗くなる。
そこへ、
ピコン!
目の前に何やら文字が浮かび上がった。
〜〜〜〜
初瀬綾音のスキル『捧げのキス』の効果が発動。死を回避しました。残りHP1。
〜〜〜〜
え?捧げのキス?
・・・それってさっきの?
≪キスの効果ね。まさか死を回避する力だったなんて・・・ホント、この世界はデタラメ過ぎるわよ!普通、死ってのは超科学を持ってしても回避出来るものじゃ…≫
・・・解説より今は治療してくれ!
≪そんな必要無いわ。行くわよ!≫
シュッ!
次の瞬間、ラクロアの涼しげな顔が驚愕に変わった。
「おいおい、一体何をした?海月カガリ!」
「お前こそどうやって俺を攻撃した?ラクロア・スラバント!」
俺はさっきまでの瀕死が嘘のように傷1つない体になっていた。
カラクリはこうだ。
オーシャンムーン城に大量にストックしてある俺のダミーの体。
それを転移を使って瀕死の体と瞬時に入れ替えたのだ。
ラクロアには俺の傷が目にも留まらぬ早さで回復したように見えただろう。
瀕死の体は既に俺ん家で治療を始めている。
正直めちゃくちゃ強引な力技だが、向こうの攻撃の正体が分からない以上、急場しのぎとしてかなり有効な方法ではある。
ごめん!ダミーの体。必ず命は助けるからな!
ズバッ!
また来た。
そして今度は首が完全に飛ばされた。
しかし首に切れ目が入った瞬間、新たな体へと入れ替えたので、ラクロアには俺への攻撃が通らなかったように見えた筈だ。
「まさか・・・なぜ傷1つつかない?!」
「さあ?なんでだろうな」
「小癪な!」
思惑通り、ラクロアに無傷のカラクリは気付かれていない。
・・・よし!入れ替えのタイミングはバッチリだったぞ。アール!
≪このくらい余裕よ!≫
俺は初瀬の方を向いて親指を立てた。
命を救ってくれたお礼と『俺は問題ないぞ』って合図だ。
案の定、初瀬は心配MAXな顔で俺を見ていたが、合図を見ると安心したようにホッと息を吐いた。
初瀬のキス。
確か『捧げのキス』ってスキル名だったか。
なんちゅう献身的なスキルだよ!
初瀬からのキスってだけで最強クラスのご褒美なのに、命まで救ってくれるなんてさ。
俺は素直に感動していた。
初瀬の真心が俺の心に直接触れたような気がしたのだ。
同じキスでも六条の悪辣なスキルとは天と地の差だ。
もしかすると授かるスキルってのは人間性も絡んでるのかもしれないな。
てか・・・本当に俺で良かったのか?
そりゃこんな凄い力なら戦いに臨む俺に使うのは当然かもしれない。
敗れて殺されるリスクだってゼロじゃない訳だし。
でもキスだぞ?
いくら頰にとはいえ、キスってのは女の子にとって大切なモノの筈だ。
いくら命を救える力だとしても普通は躊躇するだろ?
でも・・・そこは正義の人である初瀬の事だ。
同じ状況ならば例え相手がゴミでもハナクソでも彼女の気持ちとは関係なくキスしちゃうのかもしれない。
それ程、命ってのは貴重なのだ。
それでもだ。
果たして俺はキスされるに相応しかったのだろうか?
初瀬は俺に純愛を向けてくれている訳だし、そこは嫌々じゃなかったと思いたいけど・・・
すると初瀬はホッとした顔から少し恥ずかしげな顔に、そして最後は意を決したようにキリッと委員長顔をして声を張り上げた。
「君だから!海月君だからだよ!他の男子になんて殺されても絶対しないから!!」
・・・え?なんで俺の考えが分かったの?
俺の不安が伝わったのかもしれない。
・・・俺ってば、そんな情けない顔してた?
≪さあ?でも今は思い切り鼻の下が伸びてるわよ。精々(せいぜい)、爆発しない事ね≫
・・・いま爆発したら多分この世界滅びるわ。
それ程に嬉しかった。
戦闘中にも関わらず完全に自分の世界へ浸っちゃってたよ。
その間、更に2回首を飛ばされた。
・・・俺には効かないんだってば!
なんて・・・
厳密には効きまくっている。
だってもうダミーを4体も病室送りにされたんだからな。
けどその程度じゃこっちの物量作戦には全然届かない。
ダミーのストックはまだまだあるのだ。
これが俗に言う『人海戦術』ってやつか。
因みに、完全に首を切断された3体も超科学にかかれば問題なく蘇生出来るらしい。
防御の目処はついた。
とはいえまだラクロアを驚かせたってだけだ。
奴の攻撃の秘密はまだ何も分かっちゃいないのだ。
しかし、分からなくてもやり方はあるさ。なあ?ラクロアさんよ!
俺だってさ、
・・・不可視の攻撃なら得意なんだぜ?
ラクロアへお返しとばかりに何の前触れも無くダラーム線を放った。
俺の得意技の1つだ。
ダラーム線を浴びると体から水分という水分が蒸発してカラッカラのミイラになる。
超科学が誇る不可視の熱線だ。
それがまともにラクロアへ直撃した。
・・・よし!
これでラクロアはカラカラのミイラに・・・
・・・ならない?!
今度は俺が目を見張る番だった。
ラクロアはニヤリと笑う。
「君・・・今、僕を殺したね?」
「お前・・・何をしやがった!?」
「さて。何だろうね?」
・・・くそ!ムカつくぞコイツ!
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