24話 スパ様それ言っちゃうのかよ?オイ
その男は静かに登場した。
タッタッタッタッタッ!
少し前まで懸命に走る足音が鉱道内に響いてきていたのだが、俺たちに遭遇する直前、それはピタリと止まった。
そして堂々とゆっくり歩いて姿を現したのだ。
・・・いやいや、今さら余裕ぶったってさ、走ってる音聞こえてたし。
「コイツか?」
俺はホリーに確認する。
「はい、『鉱帝』スパガーラのクズ野郎です」
ホリーは目の前の男に余程恨みがあるみたいだな。
『名無しの剣』に見入っていたあのキラキラの瞳はどこ行った?
それ程に鋭い目つきで睨みつけている。
男は、流石はモヒカン共のトップなだけあってモヒカ・・・ん?・・・スキンヘッドだった。
・・・そこはモヒカンだろ普通?!
スパ様こと、スパガーラは筋骨隆々でスキンヘッドの大男だった。
上半身裸で自慢の筋肉を見せびらかす様にピクピク動かしている。
・・・ボディービルダーかよ!
スパガーラは俺には目もくれず、ホリーを見て舌なめずりをした。
「ホリー・フューネラル、俺様の味が忘れられなかったみたいだな。相変わらずとんでもない闘気だ。久し振りだがすぐにお前だと分かったぜ」
それを聞いたホリーの目が更に鋭さを増した。
「おい、キモハゲ!何ゲスなセリフをほざいている!私はお前なんぞ味わった事も味わわれた事もないぞ!」
「おいおい、俺はキモハゲじゃ...」
「うるさいキモハゲ!死ね!」
「テメエ、この俺に...」
「黙れキモハゲ、死ねと言っている!」
「だから...」
「喋るな!キモハゲがうつるだろう」
「うぐああああああああああ!!!」
キモハ・・・じゃない、スパガーラが悲痛な雄叫びをあげた。
確かに、敵とはいえあの言葉責めは気の毒になるくらいダメージでかいよな。
だけどこれで怒れるキモハ・・・じゃない、スパガーラが我を忘れてくれたら対処の隙が出て来るかもしれない。
取り敢えず舌戦ではこちらの圧勝だな・・・
とは言え俺自身は何の戦力にもならないってのは変わってないけどね。
とにかくアール頼みだ。
「ふふふ、そんなに荒ぶらずともすぐにぶっ殺してしてやるからなキモハ...」
「テメエだってキモデブ野郎だったじゃねえか!!」
「はああああああああああ??!!」
ホリーが鋭い目を大きく見開き驚愕の顔になった。
・・・ん?キモデブ野郎?ホリーが?どういう事だ?
≪私もさっぱりだわ≫
アールも分からないらしい。
けど、ホリーはめちゃめちゃ焦って手をワタワタさせてるぞ?
さっきまでの余裕が無くなっている。
前哨戦は圧勝だと思ったのだが、こりゃ痛み分けってところか?
「お、お前、今それを言うか?!しかもカガリ殿の前で!」
「お前が先にヒデエ事を言ってきたんだろうが!体の傷はすぐ治っても心の傷はなかなか癒えないんだからな!」
スパガーラの奴、どう見ても悪役の癖して、そんなに傷ついてたのかよ。
・・・デリケート過ぎか!
でもさ、分かる。
スパガーラの言う通りだよ!
心の傷はなかなか癒えないのだ。
俺も散々酷いこと言われて来たからよく分かるよ。
ホリーとスパガーラの舌戦は続く。
「お前は言われても当然の悪党だろう?私は乙女だぞ!その言葉がどれだけ傷つくと思うのだ!」
「はあ?テメエのどこが乙女だよ?!キモいデブ野郎だった癖によ!」
「だからカガリ殿の前でそれは言うなと言っているだろう!」
「カガリ殿だと?」
スパガーラが俺を見てニヤリと笑った。
・・・うわぁ、悪い笑みだこと。
でも、ホリーがキモいデブ野郎ってどう言う事なんだよ?
・・・考えたくないけど、もしかしてホリーって『元男』だったりする?
≪ホリーをスキャンしたけど、手術した跡も無いし、正真正銘、女の子よ。まあ魔法で痕跡を消したって可能性もあるけど≫
・・・そんな魔法があるのか?
≪知らないわよ。でも我々の技術なら可能よ。だから魔法でも出来るかもね≫
・・・こんな超美人のホリーが元男なのか?俺はこれから彼女?をどんな目で見ればいいんだよ。たかだか16年半しか生きてない俺にはハードル高いんだけど?
≪どんな目ってね。カガリ、ホリーは女の子になる事を選んだんだから当然、女の子として接してあげないと。戸惑っちゃダメよ?ごく自然に接するの≫
「カ、カガリ殿!そんな目で見ないでくれないだろうか?」
「え?・・・ごめん!」
≪はあ〜。カガリ、言ってるそばからもう!≫
・・・しまった、つい無意識に、変な目で見ていたみたいだ。
スパガーラはホリーの慌てふためく姿を見て悪い笑みに拍車がかかっていた。
「ぎゃははは!・・・おい兄ちゃん、カガリって言ったか?コイツの秘密を教えてやろう!コイツはな...」
「やめろおおおおおお!!」
「ちょっと前までキモデブ男だったんだぜ!」
・・・やっぱりか。
話の流れでなんとなく分かってたけど・・・やっぱり複雑だな。ホリーはバラされてあからさまにガックリ来てるな。でもこんなに超美人でしかもバインバインになれたんだから凄いと思うよ、うん。
ホリーは両膝を地面に着いてガックリとうなだれていた。
無理もない。
こういう秘密ってのはデリケートだからな。
勝手にバラすなんてデリカシーが全くないなスパ様は。
「く・・・くくく・・・くくくははははははははは!!!」
ホリーは狂ったように笑うとガバッと立ち上がって天を仰いだ。
「こうなったらもうヤケクソだぁぁぁ!・・・カガリ殿には知られたく無かったのに、このクソスパめええぇぇ!!・・・カガリ殿!こうなったら誤解の無いように全て説明するから聞いてもらいたい!」
「・・・い、良いけど・・・バトルは?」
「一旦休止です!貴様のせいだから当然、同意するよなクソスパ!」
「誰がクソスパだくぉらぁ!」
どうやら一旦休戦らしい。
ホリーがどうしても俺に事情を説明したいんだとさ。
スパガーラにバラされたときの焦りようから、俺には絶対に知られたく無い秘密だったみたいだけど、こうなったからには誤解のない様に全てを説明したいらしい。
その間、親切なことにスパガーラも待ってくれるってさ。
何で?
問答無用で戦えば良いのに。
俺の動揺を誘いたいんだろうか?
けどさ、正直、野郎が何かに目覚めて女に変身するまでのシンデレラストーリーとかあんまり聞きたく無いんだけどな。
ホリーは俺に向き直るとジッと俺を見つめて来た。
やっぱり超美人だ。
元男の面影は全く無い。
ホリーの口が開いた。
「おほん!事の起こりは私が捕まってこの鉱山へ連れてこられた所から始まります」
「その時はまだ男だったんだよな?」
「ち、違います違います違いますうぅぅぅ!!やはり誤解されているではないですか!誤解です誤解です!私は初めから女です!正真正銘、乙女なのですよおおおぉぉぉ!!」
「お、おう?」
・・・あれ?最初から女?話が見えなくなってきたよ?
≪・・・見えないわね≫
「おほん!話を続けます。そこで私を見たこの男は一目で気に入り、私を手籠めにしようとしてきました。手足を鎖で繋がれた私はろくに身動きも取れず、組み伏せられました。まさに野獣の餌食になろうかという絶体絶命の瞬間、私は最終手段を取ることにしました。奥歯に仕込んでおいた包みを噛み破り、中の薬品を飲み込んだのです。その薬品は我が国の王室に伝わる変化の秘薬で、敵に囚われた皇族の女性が辱めを受けないよう守る為に持たされるものなのです。その力で私は・・・・・私は・・・・・・・・・薄汚い超絶太った男に変身してしまったのです」
・・・なんだかトンデモ話になってきたな。
・・・ってあれ?皇族?
≪・・・確かにトンデモ話ね・・・あとしれっと皇族って言ってたわね≫
「いくらこの男が変態でも、薄汚い超絶デブ男に変身した私を凌辱はしませんでした。それで私は九死に一生を得ました。しかしこの男は諦めず、私の変身を解かせようとあらゆる手を使ってきたのです。勿論、私は屈せず、決して変身を解きませんでした」
「そりゃよお、いくら俺でもあんな薄汚ねえ野郎を抱ける訳ねえだろうが!」
スパガーラが悔しそうに怒鳴った。
・・・もしかして綺麗な男ならいいの?
≪・・・綺麗な男ならいいのね≫
ホリーが地団駄を踏むスパガーラを再び睨みつけた。
「貴様のような変態に身を汚されない為に、絶対食指を動かされない見た目になる様に設定されているんだから当然だ!」
・・・なんだかとんでもない秘薬だな
≪・・・とんでもない秘薬ね≫
・・・さっきからアールとやたら意見が合うな。
≪ええ、息ぴったりね。同じくらいドン引きしてるって事じゃない?≫
・・・そうかも
「そのおかげでこの3ヶ月間、私の貞操は守られました。しかし、この秘薬のせいで3ヶ月も薄汚い超絶太った男として過ごさなければならなくなったのです!一日中汗だくで顔は脂でギトギトだし脇は臭いし足は臭いし口は臭いしとにかく体じゅう臭いし!おまけに男性のアレは付いているし!・・・・・この超絶美女の私があんな薄汚い姿で3ヶ月も過ごすなんて地獄以外の何ものでもありませんでした!」
・・・いやいやホリーお前、全国の薄汚い超絶太った男達に謝れよな!
≪そこは意見合わせないわよ。私だって嫌だもん≫
・・・俺、絶対清潔にしよ




