22話 スパ様って何者だよ、オイ!
「鉱帝スパガーラ、奴は元々ただの一冒険者でした・・・」
ホリーはスパガーラについて話し始めた。
・・・冒険者ってラノベやアニメで良くあるあれか?やっぱりこの世界にもあるんだな。
『俺、ここを脱出したら冒険者になるんだ』
なーんて。
≪そんなフラグ立ててもカガリは死なせないわよ≫
・・・フラグなんて言葉知ってるんだ?
≪そりゃカガリを観察してるからね。つまりカガリと同じアニメを観てるって事なのよ?≫
・・・そっか。なら話合うかもな!
「超絶・恋♡愛・伝説」の第3シーズン面白かったよな!
≪ああ、その時間はお風呂入ってるから観てないわ≫
・・・意外とザルだな俺の観察!
≪だってあのアニメつまらないもの≫
・・・俺のイチ押しを『つまらない』だと?
全然趣味合ってないじゃん!
≪そんな事無いわよ?他のアニメは一緒に観てるし。私のイチ押しは『ラーメン祭りは終わらない』シリーズね≫
・・・俺、そんなの観てないんだけど・・・
「・・・・・どの・・・・・カガリ殿!聞いてますか?」
「あ、ごめん」
アールとの脳内トークに花が咲きすぎてホリーの声が聞こえていなかった。
脳内の声と耳からの声、同時に会話するのって結構難しいな。
さっきまではアールだけだったから分からなかったけど、今はホリーがいる。
こういったパターンも増えるだろうし気をつけよう!
「・・・話を続けます。奴は単なる一冒険者でしたが、ある日、この『スチルダンジョン』を制覇してしまいました。初級ダンジョンとはいえ、ダンジョン制覇自体が滅多にある事では無く、それはまさしく快挙でした」
「ダンジョン?ここってただの鉱山じゃ無かったのか?どうりでホロドラが10匹も暴れ回れるくらい広かった訳だ」
「はい。しかしスパガーラが制覇した為、ダンジョンの力は奴に吸収され、ここはただの鉱山になりました。鉱道が広いのはダンジョンだった頃の名残りですね」
「ダンジョンの力を吸収ってどういう事だ?」
「初級ダンジョンと言えどその秘めたる力は膨大です。それを吸収するという事は、制覇者がダンジョンに蓄えられた膨大な力を手に入れる。という事です。その力でスパガーラはこの国有数の強者になりました。しかし、同時にダンジョンの呪いが発動し、奴はこの鉱山から一切離れられなくなってしまったのです」
「ダンジョンの呪い?」
「はい。ダンジョンは制覇者へ膨大な力を与える代償として、同時に呪いも与えるのです」
「呪いでここから離れられないって、一生ここで暮らすって事?それじゃダンジョンを制覇する意味ないだろ?」
「そんな事はありません。呪いの内容はダンジョン毎に違いますし、必ずしも悪い呪いだけでは無いですから。何より、膨大な力を得られるというのは大きな魅力です。
因みにかの魔王もダンジョン制覇者ですよ」
「魔王が?」
「はい。魔王級ダンジョンの制覇者です」
そうだったのか・・・
俺達が帝国に勇者として召喚されたのは魔王討伐の為だった。
その魔王がダンジョン制覇者。
って事は下手すると俺、人間の魔王と戦う事になってた訳か。
なんだかイメージと違うな。
≪カガリ、気をつけて。まだ遠いけどかなりの高エネルギー体が近づいて来る。多分スパ様だと思う≫
アールの声が警告を発した。
少し置いてホリーも気づいたらしく同じく警告を発してきた。
「お気をつけを!鉱帝の魔力が近づいて来ます。まだ多少時間はありますが、無事脱出するにはここが正念場ですよ!」
・・・なあアール、その高エネルギー体って奴、倒せるか?
≪相対してみないと確実な事は言えないけど問題無いと思うわ。最悪の場合でもカガリの事は確実に守るからね≫
最悪の場合なんて来ないに越したことは無いが、もしもの場合、アールは俺1人だけを優先するだろう。
そしてホリーは切り捨てられる。
・・・それは避けたいんだよな。
会ったばかりで何の義理も無いとはいえ、いざとなったらホリーを切り捨てて俺だけ助かるなんて、寝覚めが悪いったら無い。
そうならない為にも、どうにかホリーの戦力アップが出来ないものか?
確か剣が得意って言ってたよな?
ホリーを見ると、ボロボロの服にモヒカンから奪った鞭。
それだけしか身につけていなかった。
・・・アールさ、ホリーの武器って何とかならないかな?剣とか?
≪剣ね。大丈夫よ≫
・・・できるの?!
≪余裕よ!≫
すると俺の胸から剣の柄がニョキっと生えてきた。
正確には胸のあたりを覆っているナノマシンの服から出て来たのだ。
けどさ、
・・・はああ?!
イキナリ過ぎてビビるわ!
≪余裕って言ったでしょ?≫
・・・聞いたけど、こんな所から出てくるとは思わないだろ普通!
≪演出の為よ。元勇者ならそれをカッコ良く引き抜いてみなさい!≫
「カガリ殿、それは?!」
ホリーが唖然とする中、俺は胸から生えた剣をゆっくりと引き抜いた。
引き抜くにつれて胸から大量の光が溢れ出てくる。
そして全て抜き切ったとき、なんと胸から女神の姿をしたそれはもう幻想的な発光体が現れてひとしきり舞った後、剣に吸い込まれていった。
・・・やりすぎだろ!
ホリーはその様子を口をぽかーんと開けて見守っていたが、
「おおこれは!まさか聖剣では!!」
・・・あーあ聖剣だと思っちゃってるよ。
テンション上がりまくってるし。
確かに、まるで聖剣を抜いた時みたいなド派手なエフェクトだったけどさ。
・・・これって聖剣?
『な訳無いでしょ?演出よ、演出!』
・・・ですよねー
剣は刀身から柄まで銀一色、何の装飾もない無骨な剣だった。
見た目だけなら全く聖剣っぽくは無い。
・・・どうせなら見た目もコダワれや!
≪何言ってるのよ?こういう質素なヤツが実は名剣ってのがラノベの定番なんじゃないの!≫
確かにそんなパターンもあるけどさ、
・・・ならエフェクトも質素にしとこうな。
「カガリ殿!その剣はどうされたのですか?!まさか聖剣では?いや流石にそんな筈は・・・しかしあの聖剣ならばあるいは・・・という事は、カガリ殿が伝説の聖騎士なのか?!・・・カガリ殿!その剣は一体何なのですか?!」
ホリーが目をキラキラさせて俺の言葉を待っていた。
そんな期待されてもな・・・
第一、聖剣じゃないし、細かく言うと俺の剣ですら無い。
「まあそのなんだ・・・ただの剣?」
「またまたご冗談を!この武骨な拵えから見るに、戦女神ヘパルスタイガの聖剣リンギヌッセスではありませんか?いや、多分そうなのでしょう?いやいや、そうに違いない!」
めちゃめちゃ勝手に盛り上がって一人で納得しちゃってるホリーさん。
・・・少し落ち着いてくれ!
≪もうそういう事にしておけば?≫
・・・いやいやダメでしょ!そんなご大層な勘違いをされたら後々、絶対面倒な事になるし。ここはキッパリ否定しないと!
「なあホリー、俺は聖騎士なんかじゃ無いし、この剣はヘパルスなんたらの作でもリンギヌなんたらって名前でも無くてだな、これは間違いなく名無しの剣なんだよ。だから大したことは...」
「ええ?!違うのですか?それは残念。ですがそれでも充分とんでもないですよ!あの伝説の名工、ナナシーが作った剣とは!」
「・・・へ?」
「ナナシーの剣は世界に四振りしか確認されていないと言われている伝説の名剣。それを所持しているという事は、カガリ殿はかの高名な『ナナシー四天王』の一角?!なる程、道理で...」
「違うから!ナナシーの剣じゃなくて名無しの剣!名前の無い剣って事!これは聖剣でも伝説の剣でも無くてただちょっと切れ味が良いだけの何の変哲も無い剣なの!それに何だよナナシー四天王って、ダッサ!」
「ナナシー四天王をダサいとは・・・カガリ殿は恐れを知らぬ男ですね!
ナナシー四天王と比べたら鉱山四天王なんてゴミですよゴミ・・・それにしても、あれだけ凄そうだった剣がまさか名前すら無い剣だったとは驚きです」
・・・良かった、やっと納得してくれた。
「しかし先程、光と共に胸から剣を引き抜いただけでなく女神様まで降臨させ剣に宿らせたではありませんか?聖剣でも伝説の剣でも無いなら一体どうしてその様な奇跡を起こせたのですか?」
ホリーは、これが聖剣だという希望をまだ捨てて無いようなキラキラした瞳で俺を見つめてくる。
・・・コイツやっぱまだ疑ってたー!




