21話 ここまでは順調だな、オイ!
「よし!じゃあいっちょ脱出するかぁ!!」
声を張って気合いを入れたまでは良かったが、俺がバインバインこと、ホリー・フューネラルの相乗り脱出を受け入れた為に、『俺も俺も』という労働者が殺到してきた。
「俺も連れて行ってくれ!」
一見、人の良さそうなおっちゃんだ。
でもその中身はどうだか分からない。
「アンタは犯罪者か?」
「違う!俺は無実だ!」
慌てて否定するおっちゃん。
そりゃ否定するわな。
しかし鬼刑事アールの目は誤魔化せなかった。
≪犯罪者よ。排除するわね≫
「ぎゃあああ!!」
おっちゃんはナノマシン服に吹っ飛ばされた。
と言っても、いつものビームじゃなくて、突風の様な空気の塊がおっちゃんの体をフワっと浮かせて優しく吹き飛ばしたのだ。
しかし、次から次へと労働者達が縋り付いて来る。
「俺はアンタが断っても、絶対ついていくからな!」
「お前は犯罪者か?」
「そんな事より俺は絶対ついて行ぎゃあああ!!」
「俺様が脱出の助太刀をしてやるぜ!ありがたく思えよ!」
「お前は犯罪者か?」
「はあ?俺様はこいつらのまとめ役だぎゃあああ!」
「我輩は犯罪者ではないゆえ連れて行ってぎゃああ!!」
みんな犯罪者だった。
あれれ?無実の人間は思った程多くはないのかもしれないな。
とにかく、ここで1人1人相手はしてられない。
しかしここに無実の人がいたら体力次第では連れて行ってあげたい。
さて、どうしたものか?
≪なら一度で済ませましょう!≫
・・・ひむふむ、なる程。
アールの策に従い、俺は大声で叫んだ。
「この中に無実の奴はいるかああああああ?!」
「「「「「俺だぁ!」」」」」
一斉に声が上がった。
かなりの人数が反応したので何かのイベントをやってるみたいだよ。
・・・アール、どうだ?
≪この中に無実の人間は・・・・・・ゼロね≫
「吹っ飛べええええぇぇぇ!!」
「「「「「ぎゃあああ!」」」」」
俺の周囲に爆風が起こり、周囲の労働者達を全員吹き飛ばした。
勿論、ホリーには一切被害は無い。
風は彼女の周りだけ避けて吹いたのだ。
「何がどうなっているのかサッパリですが、なぜかスカッとしました!」
・・・そりゃ盛大に吹っ飛ばしたからね
「訳は後で話すからとにかく急ごう!」
俺とホリーは先を急いだ。
ホリーには進みながら事情を話した。取り敢えず、なぜアイツらをぶっ飛ばしたのか?について。
ホリーは納得していた。
やはり、基本的には犯罪者が入れられる鉱山らしい。
しかし、中には無実の人も少なからずいるらしいのだ。
ホリーもその1人だという。
俺は無実の人を何とかしたいと思っている。しかし今はホリーと行動を共にしている。彼女はすぐにでも脱出したいだろう。
さてどうしたものか?
結構なスピードで走るホリー。
俺はその横で彼女のスピードに付いていく。
「カガリ殿、それも魔法ですか?」
「ま、まあな」
俺は銀色のフォルムをした4本足の椅子に座っていた。
社長が座る様なゆったりタイプだ。
当然、只の椅子では無い。
椅子の足はスラっと長くなっていて、
何と生き物の様に動いているのだ。
そして4足動物の様に走って進む。
これがまた速いのなんの。
ホリーはバトルジャンキーなだけあってかなり走るのが速い。
おそらくレベルも高いのだろう。
そのホリーのスピードに苦もなく付いて行ってるのだ。
実際俺は、死にかけの体を無理やり覚醒させて歩いていただけに、走るのは無理があるし、ましてこんなハイスピードについて行ける訳もない。
だから何らかの移動手段は必要だろう。
しかしだ。例えそうだったとしても。
・・・何故に椅子?
≪楽ちんでしょ?揺れも無い筈よ≫
・・・まあ確かに楽ちんだけどもさ、あと、揺れも全然無いし、流石は超科学の産物だけどもさ・・・何故に椅子?
≪だから楽ち...≫
・・・楽ちんだよ?!確かに。
機能は充分素晴らしい!
でもさ、もっとカッコ良い感じにできなかったの?ホリーの視線がイタいんだけど?
ホリーは、カワイソーな人を見る目をしていた。
「カガリ殿、楽そうですね」
「・・・乗る?」
「断固として拒否します!」
・・・ホリーさん、初対面で俺に遠慮なさ過ぎないか?
・・・第一、こんな便利なのあるなら何で俺ってば今まで歩いてたのかな?最初から乗せてくれても良かったんじゃないの?
≪だって逃げてるみたいじゃない≫
・・・え?
≪こんなにスピード出してさっさと脱出したら、まるで逃げ去ったみたいじゃない!私は敵から逃げるってのは大っ嫌いなのよ!それならゆっくり歩いて敵を正面から蹴散らしながら悠々と脱出する方が強者感があって良いでしょ?≫
・・・うん、それって、バトルジャンキーの発想だね。もしくはヤンキーの発想。まさしく
『逃げてんじゃねーぞオラ!』とか『逃げるなんてありえねー』とか、『ガチで殺り合おうぜ!』とか、
そんなノリだよね。
≪へえ、ヤンキーって良い事言うのね≫
・・・認めちゃったよヤンキー理論!
でもまあ今思えば、俺だってただ尻尾巻いて逃げるのは癪だったかも。
≪でしょ?逃げるにしても目に物を見せてからでないと舐められるからね≫
・・・もしかして俺ってばアールに染まって来た?
≪良い事じゃない。歓迎するわよ!≫
・・・でもバインバインの方が好きなんだよなー
≪むっきぃぃぃ!!≫
随分走っただろうか、ここまで来ると、監視役も労働者も完全に逃げ散っていて誰もいなくなっていた。
もうすんなり脱出できそうな気さえして来たよ。
けど、俺はただ自分1人だけ逃げるつもりは無かった。
何度も言うがこの鉱山には、俺のように無実なのに入れられている人がいる筈なのだ。
残念ながらまだホリー以外は発見出来ていないけどさ。
それに、行きの馬車で一緒になった、『拷問によってぶっ壊された人』だっているし、俺達とは『別の地獄』を味わっているであろう若い女性もいる筈なのだ。
確か政治犯も居るってラングレーが言ってたよな?
そういった中に『罪のない』人がいる確率は高いと思う。
俺は、その人達を全員解放してあげたいのだ。
だって彼等の気持ちは、同じく『そっち側』にいた俺自身が一番分かっているからさ。
『彼等を自由にする』
これが今の俺の目標だ。
まあアールがいる限り、俺が脱出できるのは確定みたいなものだしさ、それじゃ目標にはならないからね。
俺は、一旦ホリーと一緒に鉱山から脱出して、ホリーを逃した後に、再び鉱山に攻め込もうと考えている。
・・・それで良いよね?
≪問題無いわ。ただそれなら脱出した後、覚醒を解いて休養してからの行動開始になるわね≫
まあ多少のタイムロスは仕方ない。
「カガリ殿、お気を付け下さい。そろそろ鉱帝が来ます」
「皇帝?」
「皇帝ではなく鉱帝、ここのボスです」
「ああ、スパ様ね」
「ほう、スパガーラをご存知ですか?」
「いや、ここのボスが『スパ様』って名前な事くらいしか知らないよ。副長のラングレーを倒した時に聞いた」
「流石カガリ殿!ラングレーの首を取りましたか!」
「いや、首は取ってないよ?ぶっ飛ばしただけで・・・」
「そうですか。まあ彼奴は鉱山の中でも比較的マトモな男ですからね。仕方ありません、許しましょう」
・・・え?俺、悪かったの?
俺が戸惑った空気を察したのか、ホリーが慌てて訂正して来た。
「あ、いや、カガリ殿を許すと言った訳では無くてですね、ラングレーは見逃してやる。という意味です。ここの奴等にはいささかどころか、かなり恨みがありまして、特にスパガーラのクソ野郎は必ずこの手で仕留めたいと思っているのです」
「スパガーラね。何者なんだ?」
「単なる何処の馬の骨とも知れない男ですよ」
「馬の骨て・・・酷いな」
「酷くはありません。鉱帝スパガーラ、奴は元々ただの一冒険者でした」




