181話 お前らホントどうしようもないな、オイ!
「勇者さん、次はアンタらが相手してくれる番だよな?」
「ひぃっ!」
俺が睨みつけると、徳森と鈴川の2人は情けない声を上げて後ずさった。
「た、たたたた助けてくれ!下さい!!俺は関係ないんだ!」
「そ、そそそそそうだそうなんだ!俺はただ訳もわからず連れて来られただけでアンタらと戦う気なんて無いんだよ!・・・それよかアンタらの仲間になるよ!!」
鈴川が口走ったその言葉に徳森が乗った。
「・・・仲間か!そうだよ!最初からそうすりゃ良かったんだ!・・・よし、宣言するぜ!俺たち勇者2人は、今からオーシャンムーンに付く!」
「・・・は?」
まさかそう来るとは思わなかった。
・・・なんて虫の良い思考をしてやがるんだよコイツらは。
俺は呆れてものが言えなかった。
けど、確かにコイツらみたいな薄っぺらい人間なら、こんな展開もあり得るよな。
コイツらの人間性を知っている俺は妙に納得してしまった。
しかしそれを聞いて驚愕の声を上げた奴がいた。
ヴィンスだ。
「おいおいちょっと待て!なに寝返ってんだ?!アンタらスピーリヒルの勇者だろ?誇りは無いのか!?」
『ヴィンス、コイツらにそんなもの期待しても無駄だぞ』
今にもそう口にしそうになったよ。
周囲の驚きと呆れなどどこ吹く風の2人は、この『良い考え』を思いついた事で完全に開き直ったようだ。
さっきまでのビビリまくってた姿から一変、自信満々の顔でヴィンスに言い返した。
「誇り?あるに決まってんだろ!俺達は勇者だぜ?つまり、勇者が付いた側こそ『正義』って事だよ!」
「は・・・はああああぁぁぁ?!」
あまりにも自分本位な理屈が飛び出した事で、ヴィンスはポカンと口を開いたまま塞ぐのを忘れてしまっている。
「さすが徳森だな。いい事言うぜ!そうだよ!俺達がオーシャンムーンに付いた今、『正義』はオーシャンムーンにあるんだよ!つまりヴィンス、お前等モリッツァは『悪』だ!」
「オウよ鈴川!そういう事だ!なあ、カガリさん!勇者の俺達が付いてやったんだ!この世界じゃこれ以上の名誉は無いんだろ?ありがたく思えよ!!オーシャンムーン総出で最上級の持てなしをしてくれよ?」
「ヴィンスから聞いたけどさ!オーシャンムーンって、空飛ぶ国なんだって?スゲーよな!まさにファンタジーだぜ!俺今、超楽しみなんだけど?」
「あと、オーシャンムーンは良い女だらけらしいじゃん!そっちの方も頼むぜ?」
「それだよ!早速だけど俺はそっちの滝座瀬に似た子がいいなぁ〜」
「なら俺は三津島に似た子にする!それと、冷膳ぽい子も貰おうかな!」
「お前、ズリぃぞ!俺にも冷膳よこせよ!」
「分かってるって。冷膳は共有って事でな!」
「さすが親友!分かってるじゃん!」
2人してすっかり盛り上がっていた。
つくづくムカつく奴らだな・・・
大体、勇者なんて肩書きをこの俺が有り難がる筈がないし。
・・・100歩譲って俺がこの世界出身だったなら少しは有り難がっていたかもしれないけどさ。
そう考えたら虫酸が走ったよ。
俺は2人に言い放った。
「おい、誰がウチの国に受け入れるっつったよ?」
「・・・は?カガリさんだっけ?アンタ馬鹿か?俺達は勇者だぞ?魔王からこの世界を救う救世主様なんだぞ?その俺達を受け入れないってのはつまり、オーシャンムーンが『世界の敵』になるって事なんだぜ?分かってんのか?」
「そうそう。つまり選択権は勇者である俺達にあんの。アンタらは大人しく俺達の言うことを聞いてりゃいいんだよ!この俺達がオーシャンムーンに味方してやるって言ってんだ!大人しく従っとけや!」
「言うねぇ鈴川!そうだ!さっきちょうど皇帝が死んだよな?なら、俺達が皇帝になるってのはどうよ?」
「お!ナイスアイディアじゃん!なろうぜ!皇帝にさ!!」
「なっちまうか?」
「だな!皇帝になれば、六条が帰ってきても舐められねえし。むしろ俺達の方が上になれるんじゃね?」
「アイツを従わせるなんて最高じゃん!それに本物の滝座瀬とか三津島も手に入れられるかもしれねえ!あと、委員長と片クリも!」
「下手するとフアナ王女だってゲット出来るかも!」
「それ良いな!あの王女と俺が・・・むふふ、最高じゃん!!」
2人は周囲が呆れ、憤っている事にも気付かず、楽しげに夢の話を楽しんでいた。
・・・王様になってハーレムね。そして六条を見下すのか・・・バカな野望抱きやがって。
≪カガリはぜーんぶ叶えちゃったけどね!≫
・・・まあな。けど俺はアイツらみたいにドス黒い欲望を燃やしてた訳じゃないぞ!全部成り行きでだな・・・
俺はいい加減、コイツらのバカさ加減に付き合う事にウンザリして来た。
・・・もういいや。次に進もうか。
そして自ら顔の変身を解除したのだった。
しかし2人は自分達の話に夢中で俺に全く気付かなかった。
「・・・なあ、徳森に鈴川。まだ俺に気付かないのか?」
「は?何言って・・・え?・・・お前・・・海月・・・ウソ月野郎か?!」
「ちょっ!待て待て・・・おいおい嘘だろ?なんでゴキブリ野郎がこんなとこに居んだよ?・・・そういやカガリって名前・・・本人だったのかよ!!」
「そうだ、本人だよ。久し振りだな」
「何でお前がこんな所に居んだよ?」
「まあ、色々あったんだよ」
2人はまだ事態を把握しきれていないようで、戸惑いの表情を浮かべていた。
「本当にお前がオーシャンムーンの全権大使なのか?」
「ああ。俺が全権大使だ」
突然の俺と勇者の会話に、ヴィンス達は戸惑いを隠せないようだ。
まあ俺の顔の変化は徳森と鈴川にしか見えていない訳だからな。
なぜ急に2人の様子が変化したのか分からないのも当然だ。
「おい、どういう事だ?お前ら知り合いなのか?」
ヴィンスはいきなりの展開について行けず、そう聞いた。
徳森と鈴川は徐々に事態を把握して来たのか、その困惑顔がいつもの得意げな意地の悪いモノへと戻っていった。
「こりゃ驚いた!まさか海月、お前がオーシャンムーンの全権大使殿におなりあそばされてるとはな。ヴィンス殿下、そうだよ。俺達は知り合いだ。ってか元クラスメイトだぜ!」
「そうそう、クラスメイトで・・・親友だよなぁ?」
「・・・親友?・・・ふざけるなよ?」
俺は即座に否定した。
『親友』・・・その言葉を出すときは決まって何かロクでもない事を企んでいる時なのだ。
「はぁ?おいテメエ、随分生意気な口を聞くようになったじゃねえか!」
「『ふざけんな』だと?こりゃお仕置きが必要だな!」
「おい勇者殿、さっきから一体何がどうなって・・・」
「ああヴィンス、やっぱ親友ってのは嘘!コイツはな、俺たちが使ってやってたオモチャだよ」
「オモチャ?」
「そう、オモチャ。ま、簡単に言うと、ボコッたり、パシらせたり、イジってやったりな」
「そしてまたボコる!」
「そうそう、そのループ!ギャハハハハハ!」
「アハハハハハ!・・・ヴィンス、安心して良いぞ。オーシャンムーンは今この瞬間、俺達2人のモンになったから!」
「・・・だから勇者殿、それがどういう事なのかと先程からずっと聞いているのだが?」
「は?分かんねえかな?このカガリって雑魚は俺らのパシリなんだよ。つまり俺達の命令には逆らえない。絶対服従って奴さ。そんな奴がオーシャンムーンの全権大使やってんだぜ?もう貰ったようなモンっしょ!」
「そうそう。どうせ『俺は勇者だ!』とか嘘こいて成り上がったんだろうけどさ、コイツ、既に勇者の称号剥奪されてっから、もう勇者でも何でもないんだわ。ウケるぜ!・・・あ、ゴメンゴメン、バラしちまったな!」
「まあこんなバカに騙されるオーシャンムーンがチョロすぎなんだけどさ」
「ギャハハ!マジウケすぎるわ!」
2人はひとしきりバカ笑いした後、顔を見合わせた。
「じゃあ・・・言っちゃう?」
「だな。そろそろ決着つけちまうか」
2人はそう言うと俺を見た。
そして・・・
「「ゴキブリ野郎!俺達をオーシャンムーンの皇帝にしろ!」」
2人同時にそう命令してきた。
・・・全く、見事なハモりだよ。
俺の胸糞はこれ以上無いくらいに悪くなっていた。
・・・いやホント、この胸糞悪さ、見事に予想を超えて来たよ。
だからって、自ら変身を解いて正体をバラした事自体は後悔していない。
そのせいで再びコイツらの悪意に晒される事にはなったが、もう大丈夫だ。
もはや俺は、この2人に恐れを抱く事もパニックになる事も無くなっていたのだ。
仲間を見回すと、みんなの顔はひどく険しく、徳森と鈴川をキッと睨みつけていた。
全員がめちゃくちゃ怒っているのが伝わって来たよ。
アールでさえ、その完璧なる無表情がほんの少しだけ完璧では無くなっていたくらいだ。
けれど誰一人として口を挟んではこなかった。
この2人の始末を100%俺に任せてくれているのだ。
俺は小さくひと息吸ってから・・・2人の命令に返答した。
「やだね!」
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