172話 再び城へ乗り込むぞ、オイ!
会談の日取りが決まった。
こちらも多少は準備をしなきゃいけないので、少しだけ先延ばしにした。
そこはミラが上手くヴィンスと日程を交渉してくれたよ。
そのかわり俺は先方が要求してきた、オーシャンムーン皇帝の参加についても了承した。
その為の準備という名目で多少日取りを伸ばしたのだ。
まあ、実際は別の準備をしてたんだけどね。
そしてその間、みんなを交えての話し合いと、反撃の準備を整えた。
会談が決裂するのはほぼ確実だろう。
だが、どんな流れになるのかは実際に行ってみないと分からない。
なので、
『こういう流れの場合はこう振る舞う』
的なパターンをいくつかみんなで打ち合わせたのだ。
そして会談当日。
俺、ソフィアリス、ホリー、ブルーネル、ミラ、そしてアールの6人は、ミミ達が乗ってきた馬車を使って敵の城へと乗り込んだ。
他のみんなも勿論ついて来ているのだが、今は隠れてもらっている。
・・・いよいよ敵の本陣に乗り込むんだな。
≪これが最後の戦いって訳ね!滾るわね!≫
・・・まあな・・・まあ、俺は緊張もデカいけどさ。
何しろ、向こうには徳森と鈴川がいる。
正直、今の俺にとっちゃなんて事ない相手なのは分かっている。
でも、やっぱり心に刻み込まれたトラウマってのは簡単には拭えないのだ。
そして俺達は、かつて大飛行戦艦隊旗艦『スカイムーン』が着陸した庭園、
そのぐちゃぐちゃになった地面へと降り立った。
敵兵が見守る中、ペガコーンが引いた馬車はフワリと着地した。
部屋のモニターで、ぐちゃぐちゃになった庭園を悲しげな顔で眺めているソフィアリスに俺は、
「ごめん!思い出の庭園をメチャクチャにしちまったよ・・・でも後で絶対に葉っぱの1枚に至るまで完全に元の姿に戻すからな!」
そう言って頭を下げた。
ソフィアリスは俺に微笑むと首を横に振った。
「いえ、帝室を潰すと決めたのです。この庭だって元へ戻す必要はありません。もうお別れです」
「そうか」
・・・なら次はソフィアリスが喜ぶような素晴らしい庭園、城、そして国家を新たに造ってやろうじゃないか!!
俺はそう誓った。
まあ色々とぶっ壊す前提で計画を立ててはいるものの、万が一ヴィンス達が提案して来たまんまの条件で全面降伏してくるのなら、最悪の事態にはならないだろう。
罰する奴はキッチリと罰するつもりだが、極力穏便に事を進めるシナリオだって考えているしさ。
でも多分そうはならない。
・・・それならスピーリヒルの援軍が来た意味がなくなるもんな。
≪まあ、まずは奴等のお手並み拝見ね≫
・・・だな。
馬車から降りると、そこには火騎士団が待っていた。
ブルーネルが懐かしそうな顔をした。
奴等は警戒を緩めず馬車をグルリと取り囲んだ。
「いよいよだ。みんな準備は良いか?」
「はい!」
「もちろん!」
「いつでも良いぞ!」
「お任せください!」
「初撃は任せて!」
「いやいやアールさん!一応、外交だから・・・」
と、突っ込みをいれて・・・
ガチャリ
馬車のドアを開け、俺達は降り立った。
火騎士団の中から見覚えのある男が前に出てきた。
確か以前城に乗り込んだ時にもいた奴だ。
火騎士団長のヒート・ファランダルであった。
ファランダルは俺に話しかけようとして顔を強張らせる。
その視線は俺ではなく、後ろにいるブルーネルを捉えていたのだった。
ブルーネルはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「久しいな、ファランダル。私を追い出してから、随分と火騎士団の質を落としたみてえじゃねえか?以前の会談で団員も随分死んだって?」
「な、なぜ貴様がここに?!」
「今はこの方、旦那さ・・・カガリ様の護衛でな。つまり私はオーシャンムーン側って事だ」
「くっ!この裏切り者め!」
「その言葉そっくり返してやるぜ!この火騎士団の面汚しが!」
睨み合う2人。
のっけからもう火花バチバチだなオイ!
ブルーネルとファランダルには因縁があった。
ブルーネルが火騎士団長だった当時、只の部下に過ぎなかったファランダルだったが、コイツは伯爵の次男って事で家柄だけは良かったらしい。
それで平民出身のブルーネルが気に入らなかったのだ。
主人のラビルに手を回して、くだらない理由でブルーネルをクビにさせてしまった。
まさに彼女がスピーリヒルの騎士団長をクビになった時と似たようなシチュエーションだった。
・・・クビにされてばっかで可哀想なネル。
一応、ファランダルは最低限、団長を名乗れるだけの実力をギリギリ持っていたのだが、団員には他にも『四火豪』と呼ばれる4人の腕の立つ幹部が居た。
そしてその4人はファランダルより実力が上だったので、奴の下につく事を嫌ってブルーネルに続いて騎士団を去ってしまったのだった。
当然、火騎士団の総合力は大幅に落ちた。
ファランダルは憎々しげにブルーネルを睨んだ。
「貴様が『四火豪』を唆したせいで我が騎士団の評価は大幅に下がり、私はラビル殿下の信頼を失ったのだぞ!おかげで取り戻すのに相当な苦労をするハメになった!」
「はあ?そんな事してねえよ。確かにアイツらは『私について来たい』って言って来たけどキッパリ断ったしな。後の事なんて知らねえよ」
「貴様、ぬけぬけと!」
「そんな事より、テメエこそ、権力を使って私をクビにさせるなんてな。随分とナメた真似してくれたじゃねえか!そんなに団長になりたきゃ、私に勝負を挑めば良かっただろ?私は言ってた筈だ、『団長の座を賭けていつでもタイマン勝負を受ける』ってな。『四火豪』も全員、正々堂々挑んで来たぞ?テメエは1度も挑戦して来なかったよな?この卑怯者が!」
「フン!そんな野蛮な挑発に乗る私だと思ったか?この下賎な平民風情が!」
「下賎だと?平民の何が悪いんだよ!この…」
ヒートアップするブルーネルを俺は手で制した。
「なあ、ファランダル、今、アンタ、ブルーネルの事を『平民風情』って言ったよな?」
「・・・はい。間違いないでしょう?それが何か?」
「それが間違いなんだなぁ。ブルーネルは『オーシャンムーン超武装国』から叙勲されてるんだよ。彼女は今、公爵だ」
「・・・は?」
「だからぁ、ブルーネルは今、公爵なんだよ、分かる?こ・う・しゃ・く!」
俺の言葉にファランダルは顔を引き攣らせた。
「は・・・はは、ご冗談を!公爵とは王族に連なる方々に与えられる最高位の爵位です。こ奴は平民ですぞ?」
「縁あってな、彼女は今、我が国の皇帝陛下の親族なんだよ」
「嘘だ!」
「おい失礼だな!俺はオーシャンムーンの全権大使だぞ?嘘をつくと思うのか?」
「まさか・・・そんな・・・」
「そういえば、アンタの爵位は?」
「・・・私は・・・伯爵家です」
「伯爵は親父さんだろ?アンタ自身の爵位は?」
「だ、男爵です」
「へえ〜、男爵ねぇ。あれぇ?男爵って、公爵より偉いんだっけか?」
そう言ってやると、ファランダルは苦虫を噛み潰した様な顔でブルーネルへ深々と頭を下げたのだった。
「ブルトスカ公爵閣下、ご無礼の段、平にご容赦下さい!」
それを見たブルーネルは俺に耳打ちした。
「私は権力を傘に着る奴が大嫌いなんだ。今のカウンター攻撃はスカッとしたよ!さすがは旦那様だ。ありがとう!・・・でも、いつから公爵になったんだ?」
「今だよ。俺の勅命だ」
・・・まあ、本当は公爵どころか、俺の妻、つまり皇后様なんだけどな!
それ以降、ファランダルは憮然とした顔をしつつも大人しく俺達を案内したのだった。
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