16話 俺は助かりたいんだよ、オイ!
≪≪人生最後って、諦めてんじゃないわよ!ちゃんと助けるから!私に任せておきなさい!≫
・・・よし、分かったよ。こんな所で死にたくない!俺は助かりたい!宇宙人さん、君に任せる。
≪アールって呼んで!≫
・・・アール、俺を助けてくれ!
≪余裕よ!≫
・・・はは、なんだか本当にテンション上がって来たよ!
≪良い兆候よ。じゃあもっと爆上げしてあげる≫
次の瞬間、脳内からつま先、全身の隅々までビビビッ!と電流が走った。これは、初めて経験する感覚だ。でもこれだけは分かる。今、心と体が一気に覚醒した。
・・・何が、起きたんだ?!
≪脳細胞にある覚醒スイッチを刺激したの。今のあなたはいわば『火事場の馬鹿力』状態よ。体調万全の時より頭も回るし体も動くわ。そしてこの状態が続く限り、力尽きて死ぬ心配は無くなるわ。人体って不思議よね。ま、ドーピングみたいなものよ≫
・・・『脳細胞を刺激』って軽く言ってくれるよな?まさかそのドーピングが尽きた瞬間死ぬんじゃ無いだろうな?
≪尽きれば死ぬわね≫
・・・おい!!!
≪大丈夫よ!自然に覚醒したのならせいぜい数分程覚醒して終わりだけど、私達はその覚醒スイッチの場所を知っているから押し放題なのよ。だからいくらでも持続可能≫
・・・またまた簡単に言ってくれちゃってるけど、それって俺の体にとんでもない負担がかかるんじゃ?
≪確かにかかるけど後のケアをしっかりすれば死ぬ事はないわ。人間の体って意外に頑丈だし、その程度の無茶には耐えられる様に出来ているんだから≫
・・・なんか俺の扱い雑じゃないか?
≪仕方ないでしょ?緊急事態なんだから。地球から部隊を送れないし、今は脳内チップのポテンシャルだけで対処するしか無くて流石に方法が限られちゃうのよね≫
・・・わ、分かったよ。けど俺は元気になったところであまり役に立たないぞ。戦闘も出来ないし。
≪それで十分よ。今のあなたの役目は勝手に力尽きて死なない事よ。あとはぜーんぶ私に任せなさい!≫
何はともあれ元気になったのでアールに色々質問しようとしたら、
『今はそんな説明よりまずここから脱出する事!』
と言われた。勿論、脳内で。
しかしそれはもっともだ。
とにかく、脱出に専念しよう。
でもどうする?
元気になったけど、勇者の称号も引っぺがされてるし本当に何の力も無いぞ?
言われた通りアールに任せるつもりではあるけど、もしもの時には俺だって役に立ちたい。
だって自分自身の事だしさ。
などと考えていると、鼻血がツーと垂れてきた。
いかん、元気になりすぎたか?
手で拭うと、なんだか滑り具合が変だ。
血じゃないみたいな。
鉱山の薄明かりの中ではハッキリと分からなかったが、多分、銀色の様な気がした。とにかく赤ではない。
しかしそんな事よりも何と、その液体がもぞもぞと動き出したのだ。
・・・なんじゃこりゃあ?!
『脳内チップから非常用のナノマシン集合体を放出したの。いまは液体状だけどいろんな形質に変化できるわ。今はそれが唯一の武器よ』
・・・このちんまりしたのが唯一の武器?
『大丈夫よ、そいつは頼りになるから。ここって鉄の鉱山でしょ?じゃあそいつの独壇場よ!』
銀の鼻血はもぞもぞと動いて手からポトリと地面に落ちると岩に染み込んで消えた。
一体何が起きているのか分からないが、取り敢えず作業するフリして時間を稼ぐことにする。
気付かれない様にフリをするのが結構コツが要るんだよな。
監視役のヤツら、目ざとくて何度も見つかって鞭打たれたな。
まさに命を削った代価に得た技だ。
そうして暫く時間を稼いでいると、
・・・ん?
壁からドロドロとかなりの量の銀色の液体がしみ出てきた。
マジか?これってさっきのちんまりしたヤツだよな?
めちゃくちゃ増えてるんだけど?!
・・・これって、何したの?
≪1から説明すると15年位かかっちゃうから一言で纏めると、岩の金属を取り込んで増殖したの≫
・・・15年かかる説明を一言って、マトめ過ぎかよ!
けどまあポイントを押さえていて良く分かった。
そもそも理屈なんて説明されても理解できないしね。
≪これからはこのナノマシン集合体があなたの保護と脱出を手引きするわ。勿論、私のナビは必須だけどね!≫
目の前のヌメヌメ&テカテカしたナノマシン集合体と呼ばれる液体を眺めていると、
『これから本当に助けてもらえるんだ』
という実感が湧いて、思わず涙が溢れた。
そりゃそうだ。
こっちの世界に来てから痛い事や怖い事、怒りや絶望、とにかくマイナスの出来事にしか遭遇しなかった。
そんな中、手を差し伸べてくれた事に心から涙が溢れて来たのだ。
ナノマシンはヌメヌメと動きながら俺の体を這い上がり、まとわりついて来た。
そして、手の様な突起を出すと、とめどなく流れる俺の涙を優しく拭ってくれた。
俺はナノマシンの気遣いに感動した。
・・・あ、ありがとう。涙を拭いてくれるなんて優しいんだな!
≪ナノマシンの増殖に水と塩分が必要だから全部貰うわよ≫
・・・俺の感動を返せ!
涙はサーッと引いていった。
残りの涙を回収し終えた後もナノマシン集合体は俺の体にまとわり付いたまま離れなかった。
・・・もう涙は出ないんだけど?
≪それはついでよ。あなたの体をガードする為に体に巻きついてるの≫
・・・ああ、なる程ね。
ナノマシンはさっきのように突起を出した。今度は3本だ。
1本は岩を削っているピッケルの刃に、もう2本は手足の鎖に纏わりついた。
するとそれらはスッと溶けてナノマシンに取り込まれていった。
・・・鎖が消えた、これで自由に動ける!
確か鎖は逃げ出さない様に特殊な金属で頑丈に作られてる。って馬車であのモヒカンに聞いたのだが、全くお構い無しにドロッと溶けてナノマシン集合体に吸収されてしまった。
そうして少し体積を増やしたナノマシン集合体は、まるで服を着せる様に俺の全身を包み込んだ。
さっきまでボロ切れの様なみすぼらしい服装だった俺が、あっという間にピカピカの銀色服を着た『先を行き過ぎたファッションリーダー』みたいな姿へと変身した。
・・・まるで宇宙人の服みたいだな。
≪因みに私達はそんなの着ないわよ?≫
・・・じゃあ何で着せた?
まあ良いや。俺的にはこの銀色の服、結構気に入ったよ。
だって『先を行き過ぎたファッションリーダー』みたいでカッコ良いし。
≪あなた、ファッションセンス無いのね・・・≫
・・・うるせー!
悪態をつきつつ服を優しく撫でてやる。
・・・すると服から突起が1本伸びて俺の手の平に何かの錠剤を置いた。
≪それは鉱山の土中から集めた栄養素よ。飲めば少しは体の状態をマシにできるわ。万が一、今の覚醒状態が途中で解除されても反動で即死する事態だけは回避できる筈よ≫
・・・即死とかマジで勘弁してくれよ!
≪万が一よ。厳密には6581万分の1の確率ね。楽勝でしょ?≫
・・・なら大丈夫か。俺ってばその確率を回避するくらいの運はあるよね?
≪・・・・・≫
・・・無いのぉ?!
まあいいさ、信じてるぞ、アール!
ゴクリ!
飲んでみたが、うーん、微妙?
体のほうも何かが変化したような感覚は無かった。
≪これで準備完了ね。じゃあ脱出開始よ!立ちはだかる敵は全てナノマシンの服が排除していくからあなたはひたすら出口に向けて歩き続けて≫
・・・え?そんなんでいいの?透明になって人知れず脱出とかじゃなくて?
≪良いのよそんなまどろっこしい事しなくても・・・実は上の許可は取ってあるから、存分に暴れられるのよね!久し振りに腕が鳴るわね!確か前にバトったのはレンリット星人が地球へ侵略をかけて来た時ね。あの時はあなた達地球人に勘付かれない様にしながらも月くらいの大きさの宇宙船とド派手に殴り合ったのよね!勿論、楽勝だったわよ?だから大船に乗った気でいてね!どんな敵が待っていても月よりは弱いでしょ?じゃあ行きましょうか、正面からド派手に殴り合っちゃうわよ!≫
・・・おいおい、とんだバトルジャンキーじゃねえか!
≪失礼ね!そんなんじゃ無いわよ!でも私、そっちの異世界の事、好きじゃないのよね。だって、ちょっと目を離している間に監視対象のあなたが突然消えちゃって見つからないんだから。もの凄く大ごとになったのよ!始末書どころの騒ぎじゃ無かったわ。それに、一歩間違えていたら本当に取り返しの付かなくなるピンチが結構あったのよ?さっきだって、間に合わずにあなたが死んでしまっていた可能性だってあったんだから!そんな訳で実は相当ムカついてるのよね≫
・・・大変だったんだな。
≪何言ってるのよ、あなた自身の事じゃない!さっき、あなたがこの世界へ飛ばされてからこれまでの記憶を視聴覚データで覗いたけど、あなた随分酷い目にあわされてたみたいじゃない?クラスメイトのクソガキ共にゴミ王女にクズ龍王にキモ訓練官にそして鉱山のミジンコ共に。あなたこそ最もこの世界をぶち壊すべき人間じゃないの?≫
・・・世界をぶち壊すって、魔王じゃないんだから。
≪そうそう、魔王。そいつを討伐する為に呼ばれたのよね?じゃあいっそ、魔王より先にこの世界をぶっ壊しちゃえば?≫
・・・ぶっ壊すとか簡単に言わないの!第一そんな事、勇者の力を剥奪された俺にできる訳ないだろ?
≪大丈夫よ。あなたがそっちの世界にいる間なら大抵の事は協力してあげるから。どう?やる気になった?≫
・・・なりません!まあぶっ壊すかはともかく、そこまで協力してくれるってのは有り難いけど、良いの?本来は接触禁止なんでしょ?
≪もう接触しちゃったしね。今更よ。そのあたりは上にも報告して許可も得てるからガッツリ支援するわよ。さあ、話はこれくらいにしてそろそろ動き出しましょう!≫




