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12話 <委員長こと初瀬綾音の視点4>

翌朝になった。


いよいよ訓練が始まる。


私は準備をして集合場所の中庭に向かった。


次第に集まってくるクラスメイト達。

みんな支給された訓練用の服に着替えていた。

中庭に集まってはいるけれど、思い思いにバラけながらガヤガヤと話している。


私は海月君を探したけれど見当たらない。

単に遅れているだけなら良いのだけれど・・・なんだかイヤな予感がしたものの今は気持ちを切り替えた。


私はクラス委員長だ。

海月君一人にこだわり過ぎる訳にもいかない。

こんな時こそみんなを纏めないと。


「みんなおはよう!全員揃っているか確かめたいから一度整列しましょう!」


声をかけたが、数人反応しただけで殆どが無視。


留美は来てくれた。

昨日の六条君と居た留美の姿が脳裏をよぎったけれど私の声がけに応えてくれた事にホッとしている自分がいた。


片山さんも来てくれた。


「おはよう留美。片山さんも来てくれてありがとう」


「おはよ、綾音」


「おはよう。別にお礼されるような事はしてないわよ」


他にも何人か集まってくれた中の一人が、


「六条君に呼びかけてもらった方が良いんじゃない?」


そう言ってきた。


「・・・・・」


確かに彼が声がけすれば残りの人達も集まるだろう。

日本にいた時からそうだった。

『真のクラス委員長』なんて言われていたっけ。

情けないけれど求心力では彼に勝てない。


でも昨日の海月君を追い詰めたときの六条君を見て、彼に頼り過ぎるのは危険だと思った。

あのやり方は到底受け入れられない。


「何でもかんでも彼に頼るのはやめましょう。こういうのはクラス委員長の私の役目だしね」


そしてもう一度みんなへ呼びかけようと思ったとき、


「お、あれ、ウソ月野郎じゃね?」


「だな。意識戻ったんだな」


「よし、早速焼きそばパン買って来させようぜ!」


「あはは!朝からパシらせ過ぎだろそれ」


相変わらず酷い会話だったが、それをスルーしてしまうくらいに、


『海月君がいる?!』


その事に気持ちが向いていた。


その男子達の視線の先を見ると・・・居た!

少し遠くに確かに海月君が立っていた。


隣にはひどく痩せた不気味な雰囲気の男性がいた。

海月君はその男性に何か言われると、二人して遠ざかっていった。


え?合流しないの?


「え?合流しないの?」


片山さんが同じ事を呟いた。


「分からない。呼んでこないと!」


走り出そうとしたその時、背後から女性の声が響いた。

物凄い力強さを秘めた声だ。


「おい勇者様方!集合しやがれ!訓練始めっぞ!」


振り返ると、武骨な甲冑に身を包んだ赤毛の美女が居た。

その紅い瞳はまるで燃え盛る炎のようにメラメラと波打ちながら私達を見据えていた。

よく見ると、黒目の部分から本物の火が揺れ出ていた。

何かの能力なのだろうか?


見るからに強そうだし重要人物のようだけれど、昨日は勇者召喚の場所でもパーティー会場でも見かけなかった。


恐らくこの人物が私達の訓練官だろう。


早く海月君の所へ行きたかったけれど、私は仕方なくその女性の方へ向かった。


全員集まりきると、ゴホッと一つ咳払いをした女性が口を開いた。


「私はスピーリヒル帝国騎士団長のブルーネル・ブルトスカだ。私の事を恐れる奴等からは「炎眼のブルトスカ」なんて呼ばれてるぜ。勇者様方はまあ、騎士団長って呼んでくれ」


集合した私達にそう自己紹介した騎士団長は全員を見渡すと、


「全員揃ってるか?まさか初日から遅刻してる奴なんて居ねえよな?」


「はいはーい!ウソ月君がまさかの大遅刻しちゃってまーす!」


一人の男子が手を挙げた。

私は慌てて否定する。


「違います!来ていたんですけれど、お城の人とあっちの方に行ってしまって」


「ああ?あっちへ行っただと?ひいふうみい・・・・・今数えたけど聞いてる人数はちゃんと揃ってるじゃねえか!」


「いえ、海月君がまだ・・・確実に一人足りないのですが?」


「一人足りねえだと?・・・ああ、もしかしてそれって生贄になった奴の事言ってねえか?」


「生贄?」


「昨日、オメェらが自分可愛さに一人の男を犠牲にしたって聞いたぜ?そいつは別メニューだからな、ここには来ねえよ。ふんっ!卑怯者どもめ!これからはその性根も叩き直してやるからな!」


「はあぁ??!!」


「いきなり何なんだよ!」


騎士団長のいきなりの喧嘩腰に、周囲から反発の声が上がる。

けれど私は俯いてしまった。


「騎士団長って言ったか?それは聞き捨てならないな」


「なんだ?テメェは?」


「六条優馬、SS勇者だ」


「ははっ!レベル1が一丁前に勇者面してんじゃねえぞ?!」


「あんたこそ一丁前な口叩くな。俺たちはこれからレベルを上げてあんたたち雑魚が成し遂げられない魔王討伐ってのをする予定なんだが?全くリスペクトが足りてないようだな」


「はっ!確かにその内テメェらに追い抜かれんだろ?そんな事は分かってんよ。けどな。仲間を売るような奴はいくら強かろうが、天地神明に誓って認めねえよ!」


「は?ならあんたは何しにここに来た?仕事だろ?プロならいくら気に食わなかろうが勇者の俺たちにおべっか使ってヘラヘラしながらきっちり成長させるのが使命じゃないのか?あんた、いやお前は失格だな。もういい。今日はもう俺たちは引き上げる。この事は王女に抗議するからな。明日からお前は失業者だが自業自得だぞ!」


「上等だぜ!勇者ってからどんなとんでもねえ奴らなんだろうって瞳燃え上がらせてた自分が恥ずかしいわ!これでクビならこの国もそこまでって事だ。恩はあるが未練はないぜ」


「そうか、そりゃ良かったな。二度と会う事は無いだろうがお幸せに。みんな、帰るぞ」


六条君が先頭に立って、みんな帰り始めた。


「待って、六条君!」


「・・・初瀬、俺は今マジで頭に来てる。つまらねえ事言うんじゃねえぞ!」


「頭を冷やしましょう!少し時間を開けてお互い冷静になれば...」


「やっぱりつまらねえよお前は。ホント、見た目だけだ」


「・・・何それ?」


六条君はそれ以上何も言わずみんなを引き連れて去って行った。


ほんの少しだけ残った人達。


留美、片山さん、それと上旗深雪(ウエハタミユキ)さんに冷膳菜綱(レイゼンナズナ)さん、三太刀葵(ミタチアオイ)さんにあとは山本君。


騎士団長は燃える瞳を残った私達に向けた。


「で、お前らは何で残ってんだ?」


「私は・・・騎士団長のおっしゃる通り、海月君一人を犠牲にした事、卑怯な事だったと思っています。さっきの六条君の言う事には賛同しません。なので残りました」


「私は、綾音が残ったから・・・」


「ありがとう、留美」


「私も初瀬さんと同じです。海月君に償いたいと思っています。その為にも強くならないと。時間を無駄にしている暇はありません」


片山さんがそう言うと、山本君の顔が険しくなった。


「私は・・・なんとなく・・・」


「上旗さん、残ってくれて嬉しい。ありがとう」


私がそう言うと上旗さんは顔を赤くして俯いてしまった。

どうやら上旗さんは恥ずかしがり屋らしい。

小柄な彼女の恥ずかしがる仕草は小動物っぽくてとても可愛らしかった。


そして次に発言した冷膳さんの言葉は驚愕だった。


「私は騎士団長さん、あんたに惚れたからだ!」


「・・・・・はああぁぁぁ??!!」


騎士団長の瞳の炎が一瞬、ボワっと大きく膨れ上がった。


「あ、惚れた!っても恋愛じゃなくて、あんたの気合いと心意気にだ」


「なんだ驚かせるんじゃねえよ!」


「ごめん、けど私はあんたに訓練してもらいたいって思ったから残ったんだ」


「そりゃまあ良い心がけだな。六条だっけ?奴らは貴重な時間を1日ムダにした訳だからな。それにもし私がクビになるなら、今日が私に教われる最後の機会だったって事になる」


騎士団長がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。瞳の炎は元の大きさに戻ったけれど今度は猫の目の様に鋭く変化した。


「なら余計ラッキーって事じゃん!ニシシ!」


冷膳さんはそう言うと屈託無く笑った。


私は冷膳さんの事を殆ど知らない。


クラス委員長なのになぜ?

なぜだろう?よく分からない。

不思議な気持ちだ。

これからはもっとみんなの事も知っていかないといけない。

そう思った。


冷膳さんの見た目は奇抜だ。

ナチュラルブロンドの片山さんとは違って、染めた金髪をショートにまとめたヘアスタイルに、肌はほんの少しだけ焼けている、いかにもギャルという感じの人だ。

彼女だけはなぜか訓練着ではなく学校の制服のままだ。

しかも胸元は大きく開けていて豊かな胸の谷間が見えているし、スカートも物凄く短い。

確か男子達の間では、2大エロスって呼ばれていた筈だ。

扇情的なのは感じるけれど、男子って本当に失礼だと思った。


「次は私の番ね」


そう言ったのは三太刀葵さん、茶髪ポニーテールにスラリと伸びたモデル体型、顔はキリっとした美人顔だ。しかし一番目を惹くのはその胸の大きさだ。冷膳さんも大きいけれどその比じゃない。

まさしく服がはちきれんばかりのボリュームだった。

因みに彼女も2大エロスの一角だ。


「私は別に騎士団長さんに思い入れはないのだが、ただ強くなりたい。だからここに残った、それだけだ」


「はは!お前もシンプルで良いな。それにお前からは強者の凄みを感じるぜ。今のままでも相当強いだろ?」


「さあ?剣術には自信があるがこの世界でどこまで通じるか?しかし直感でこの世界には無限の可能性を感じている」


「お前ら数は少ないが、どうやら鍛えがいのある奴らが残ったみたいだな。で、唯一の男のお前は?」


騎士団長の眼光に見据えられた山本君は、オドオドしながらも、


「ぼ、僕は、片山さんを守りたくて!」


「要らないわ。気持ち悪いから消えて!」


「そ、そんな!」


片山さんに即答されてしまった。


ガックリ肩を落としてすごすごと帰っていく山本君。


「全部、海月のせいだ・・・」


帰り際にポツリとそう呟くのが耳に入った。


彼はかなり歪んでしまっているのかもしれない。

海月君に何かしでかさないか警戒しておこう。


「はは!情けねえ野郎だな。ちょっと冷たくされたくらいで逃げ帰りやがって。男なら好きな女を奪い取るくらいじゃねえと歯ごたえがねえぜ」


「やめてください心が腐ります」


「・・・・・よっぽど嫌いみてえだな」


一通り話し終わり、いよいよ訓練が始まる。


「あのSS勇者様が言うには私は今日でクビかもしれないからね。だから訓練メニューを変更する。最後だと思って全力で鍛えてやるよ!」


「「はい!!」」

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