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11話 <委員長こと初瀬綾音の視点3>

私達は今日からこのお城で寝泊りし、魔王討伐の為の訓練をしていく。


お城での生活が出来るだけ快適になるよう、私達には個室が与えられた。


案内された部屋は貴族用の客室という事で広めの豪華な部屋だった。

まるで自分が貴族のお嬢様にでもなったみたいだ。


でも気持ちが浮き立つ事はなかった。


あるのは、ある一人のクラスメイトに取り返しのつかない事をしてしまった、その罪悪感だけだった。


今夜は私達を歓迎する晩餐会が開かれるという。


主賓は私達2-A全員。


別に出たくは無かったけれど、これからはこの世界の人達とも波風を立てないよう付き合って行く必要があるし、海月君にも早く会って謝りたかったので、素直に出席しておくことにしよう。


コンコン、部屋の扉がノックされた。


「はい」


開けると、メイド姿の女性が数人、ドレスを抱えていた。

どうやらこれに着替えるらしい。

いきなりウンザリしたけれど仕方ない。

私はされるがまま、化粧にドレスにと着飾らされていった。


付け焼き刃だけれど一通りのパーティーマナーも学び、準備完了。


いざ会場へ。


大きな扉がギギギと開かれる。

開かれた瞬間、中の人達の視線が一斉に私を捉えたのが自覚出来た。


クラス委員長として、生徒会副会長として、人の注目を浴びるのには慣れていたつもりだったが、その感覚とは全く違っていた。


見知らぬ世界の見知らぬ人々、しかも殆ど大人しかいない。

それが一斉に私を見ている。


私は逃げ出しそうになる足を必死に堪え、深呼吸すると一歩前に踏み出した。


周囲から一斉に感嘆の声が上がった。


「これは!」


「美しい・・・」


「素晴らし過ぎるではないか!」


「是非とも我が妻に!」


「いや、ここは譲れませぬぞ!」


みんな私を見て色々話している。


うーん、妻とか言われても・・・

まだ17歳だし当然そんなつもりは無い。

そもそも日本に帰るつもりだし。


確かにドレスはとても綺麗だったし、髪とメイクも生まれて初めてなレベルでしっかりと作り込まれた。

それに本当に魅力的な宝石も着けているし、いつもより綺麗な見た目になっているとは思う。


でもこれだけチヤホヤされるのは見た目のせいよりも私が『異世界からの勇者』だからだろう。


海月君の様に、価値が無くなれば捨てられる運命に変わりはない。


その時ふと思った。


本当に魔王を倒せば元の世界へ帰れるのだろうか?

そう考えた瞬間、背筋がゾワッとして急に怖くなって来た。


私は不安になり思わず周りをキョロキョロと見回した。

するとクラスメイト達を見つけた。

みんなで集まっている。

あれだけ失望した人達だけれど、それでも見た瞬間、心強く感じた。

ああ、やっぱり私もクラスの一員なんだ。

そう思った。


「綾音!」


「留美!」


真村留美(サナムラルミ)、私の唯一の幼馴染でそして親友だ。

留美は私を見つけると、黒縁メガネをクイッと上げると、長すぎる黒髪を揺らして近づいて来た。

私は親友の姿を見つけてホッと緊張が緩んだ。

思わず笑みも漏れる。

近づいて留美と手を取り合った。


「良かった、中々来ないから心配してたの」


「ごめん、準備に手間取って」


「ううん、いいの。それにしても綾音、綺麗!」


「留美も綺麗だよ!ドレスも似合ってる」


「ありがとう。でも本当に綺麗。見て、周囲の貴族達の視線。綾音に釘付けだよ」


確かに沢山の視線を感じる。

正直、居心地が悪い。

でも、彼に一刻も早く謝りたい。


「留美、海月君は来てる?」


「海月君?見てないけど・・・」


「そう?ちょっと探してくるね」


「え?待って綾音」


「何?」


「海月君とは、もうあまり関わらない方がいいよ」


「・・・どうして?」


「だって、六条君も良い顔しないだろうし」


留美が心配げにそう言ってきた。

留美は私の親友だ。

とても良い子で私とも気が合った。


私は良く『お堅い』とか『融通が効かない』とか『真面目過ぎる』とか言われて、周囲から一歩距離を置かれて親しい友人が中々出来なかった。心から信頼できる友達は留美だけだ。


その留美が、六条君の顔色を伺っている。


ショックだった。


確かに六条君は日本にいる時から委員長の私なんかより余程クラスのリーダーしていたし、私自身もそれで良いと思っていた。


でも、この世界に来てからの彼の言動は、到底受け入れられない事が多かった。


特に海月君について。


海月君への仕打ちに関しては全く受け入れられない。

でも私の力不足で六条君に言葉とカリスマ性でもってねじ伏せられてしまった。


今も六条君は異世界のパーティースーツがとても似合っていて、周囲にはクラスカースト上位と呼ばれる人達、それに王女様や貴族達に囲まれている。


周囲を引き込むカリスマ性は凄いし、

見た目だって本当にカッコ良いと思う。

女の子なら一目見て好きになってしまう気持ちも分かる。


でも、私は受け入れられない。


お堅くても融通が効かなくても結構。

私はそれでも海月君を心配するし、守ると決めた。


片山さんじゃないけど、それが私の『償い』だし、委員長としての矜持だ。


「六条君は関係ないよ」


「え?」


「ごめん留美、海月君を探して来るね」


私は留美やクラスメイト達から離れた。


会場を一通り探したが、海月君は見つからなかった。

いや、多分居ないのだろう。

まだ来ていないのか、それともまだ意識が戻らないのか?


私は心配になり、王女様の所へ向かった。

そこには六条君も居たので今は出来るだけ近づきたくはなかったのだけれど仕方ない。


六条君と取り巻きのクラスメイト達の私を見る目は冷ややかだった。

それには気付かない振りをしつつ、王女様に海月君の事を尋ねた。


「彼はまだお目覚めになりません。しかし、ご心配はいりません。こちらで責任を持ってお世話致しますので」


「彼に会えませんか?」


「今は無理です。目覚めたとしても、今はお一人にしてあげた方が良いでしょう」


王女様にそう言われると確かにそうかもしれない。

今、私と会ったところで、彼の気持ちを逆撫でするだけかもしれない。


私は今日彼に会うのは諦めた。


「それよりもお食事をお楽しみくださいませ。我が国がご用意できる最高のおもてなしです。本日以上の料理はおそらくこの先ございませんわよ!立食形式ですので細かなマナーは気になさらず沢山お食べください」


確かに見たこともないくらい豪華な料理が並んでいた。


食欲はあまり無かったが、明日から過酷な訓練が始まるのだ、しっかり食べておかないと。


それにしても肉料理が多い。

というより殆どが肉だ。

これらは魔獣の肉なのだそうだ。


魔獣と聞いて少し躊躇したけれど思い切って口に運んでみると・・・美味しすぎた。


超高級な和牛に勝るとも劣らない。

むしろそれよりも美味しいと思える物の方が多かった。


ここまで美味しいと、無かった食欲もかきたてられてしまう。


クラスメイト達も夢中で食べている人が結構いた。


六条君も食べていた。

食べている姿も絵になる。

他の男子達がマナーもへったくれも無くガツガツとかぶりついている中、彼は優雅に食べている。


彼の隣には王女様と・・・留美がいた。


留美にはできれば六条君と距離を置いて欲しいけれど、そんなのは留美の自由だし単なる私の我儘でしかないのでとても言えない。


でも、そんな風に思うって事は六条君と自分の間に深い溝が出来てしまったという事だろう。


彼もそう思っているだろうか?元々彼に特別な感情は無かったけれど、同じクラスメイトだし、わだかまりは作りたく無かった。


それだけに残念だ。


そんな事を考えていると、会場がどっと湧き上がった。


「おおおお!!!!」


それは言葉にならない歓声だった。


入場口を見ると、


「!!!」


思わず息を飲んだ。


「片山さん!」


それはまさしく女神が降臨したかのような、会場の全ての注目を奪い去る程の美しさだった。


「マジかよ!あれが片クリ?!」


「美人なのは知ってたけど、あそこまで女神ってたのか!」


「僕だけの片山さん。ああやっぱり君は素晴らしい!」


「これで4大美人出揃ったけど、やっぱ甲乙つけ難いな。」


「分かる!けど俺はギリ委員長かな」


「ギリかよ!」


「しょうがねえだろ!僅差なんだし」


「何とかゲット出来ねえかな?」


「無理に決まってんだろ!結局最後は4人共、六条に持ってかれんじゃね?」


「だよな。羨ましいよ」


男子達が好き勝手に口走っていた。

軽薄な言葉が並ぶ。

一つ危ない呟きも混じっていたけれど、もしかして山本君?


片山さんはすぐに貴族達に囲まれてしまった。

何とか海月君の事で彼女と話をしたいのだけれど、すぐには無理そうだ。


晩餐会が終わった。


結局最後まで片山さんと二人きりで話すチャンスは訪れなかった。

私自身、多くの貴族達に話しかけられ、言い寄られた。

露骨に求婚してくる人だっていた。

私達の事をただ"勇者"としか見ていない人たち。

そんな人達の相手は苦痛でしか無かったけれど、取り敢えずなんとか無難に切り抜けたと思う。


いよいよ明日から訓練が始まる。

訓練では海月君とも会えるし、彼だけが受ける訓練2倍の仕打ちについては状況次第ではその場で介入しようと決意している。


片山さんとは事前に話したかったのだけれど仕方ない、明日タイミングを見て話すことにしよう。


今夜は緊張で眠れないのではないかと思ったけれど、流石に疲れ過ぎたのか横になった瞬間、意識が飛んだ。

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