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105話 敵を見つけたぞ!オイ!

姫を攫って4方向へ逃げたモリッツァの刺客を追って、俺は北の門へ向かっている。


モリッツァとの国境線から1番遠い門だ。


なので一見、ハズレっぽく思ったのだが・・・


しかしアールは、北こそ本命の可能性が高いと踏んでいた。

何でも確率論的な予測だそうだ。


小難しい事は分からないが、本命に近いのならばそこへ行くしか無いだろう。


俺が到着した時には、防壁の北門は既に突破されていた。

門番達が斬り殺され、騒然としていた所だったのだ。


つまり、奴らは街を出たって事だな。


・・・逃すかよ!


俺は追跡のスピードを更に上げた。


・・・アール、そっちはどうだ?


≪まだ見えないわね。カガリ、もしそっちが本命だったとして、敵に姫を殺させないよう気をつけなさいよ?≫


・・・え?攫うくらいだから殺さないだろ?


≪そうとは限らないわよ。攫えるなら攫う、それが無理ならその場で殺す。そういう命令の可能性だってあるでしょ?≫


・・・そうか。なら、姫の命を最優先に考えるよ。


そんなやり取りをしていると、早速前方にそれらしき馬車を発見した。


奴らはかなりのスピードで馬車をかっ飛ばしていた。

スキャンしたところ、御者は豚人だが馬車の中には5人の人間がいた。


そしてもう1人、床に寝転がされてもがいている豚人らしき影が確認出来る。

そいつはどうやら手足を縛られ大きな袋に詰め込まれているようだ。


・・・て事はあれが姫か?


しかし、なんだか想像していたのとは違って、かなりデカいし、それにでっぷりと太っていた・・・


まあ細かい事は後だ。

とにかくその馬車に狙いを定めた。


俺はスピードを速めて、馬車の背後に追い付くと、米粒サイズのナノマシン集合体を1つ飛ばした。

そして準備が整うと『よっ!』と馬車に飛び乗った。


ストッ!


中の男達は突然の俺の乱入に、一瞬目が点になったあと、一斉に剣を抜いた。


「へえ、やる気じゃん!」


敢えて挑発的に言ってやった。


それ程に怒っていたのだ。

俺はあの礼拝堂の惨劇をこの目で見ているのだからな。

あれを引き起こしたコイツらに容赦する気は一切無い。


『聖豚』らしき人質がいるって事は、この馬車が当たりの可能性は極めて高いだろう。

つまりこの5人が刺客達の中でも最強クラスって事だ。

一応、油断は禁物だな。


流石は最強クラスだけあって、瞬く間に5筋の斬撃が俺の体を捉えた。


ガキィィ!!


しかしバリアが全ての剣を弾いた。


「なにぃ?!」


「どういう事だ?!」


俺は1人の男に手をかざした。


「どかん!」


俺の気の抜けた声の後、強烈な衝撃波が男の胸に炸裂し、風穴を開けた。


ズゴオオオォォォ!!


男はそのまま馬車の幌を突き破り吹き飛んで行った。


「まずは1人」


俺は4人を見た。


青ざめる4人。


リーダーらしき男の合図で、2人が再び俺に特攻をかけて来た。


ズゴズゴオオオォォォ!!


俺は2人の胸にも容赦なく風穴を開けて吹き飛ばした。


しかし、元々2人は捨て駒だったようだ。


2人が吹き飛ばされている隙に、1人は自ら馬車を飛び降り、もう1人は、床に転がる人質へ剣を突き立てていた。


しかし・・・


ガキィッ!


人質へと突き下ろされた剣は、その体に突き立つ事なく直前で弾かれた。


・・・俺がみすみす人質を殺させる訳ないだろ?


俺は馬車に乗り込む直前、米粒サイズのナノマシン集合体を馬車へ放っていた。

それは人質の体へ貼り付くと、人知れずにバリアを発動させていたのだった。


「何だと?!どういう事だ?」


1人残された男は何度も剣を突き入れようとするが、全て弾かれている。


「よっぽど剣が好きらしいな」


俺は刺客5人が持っていた剣の座標を割り出し、その全てを男の胸に転送してやった。


グググボッ!


男の手から剣が消えたと思った瞬間、なんと胸に5本の剣が突き立ったのだ。


男は、自分に何が起きたか理解できないまま崩れ落ちた。


さて、残るは逃げた1人か。


あいつ今頃、持っていたはずの剣が突然消えてさぞかし驚いているだろう。


・・・次はお前が消える番だ。


シュッ!


そして、必死に走っていた筈の男は、再び馬車の中へ戻って来た。


俺が奴を転送したのだ。


アールからは、


『敵なら別に転送を使っても構わないわよ?』


と許可を得ていた。


『転送』を俺や仲間に使う事は厳重に止められているのだが、どうやら敵ならば良いらしい。


なぜ敵だけOKなのか?

その理由は機密事項って事で詳しくは教えてくれなかったのだが、ざっくり言うと『体に悪い』って事らしい。

まあ敵ならそこまで気兼ねする必要も無いって事か。


逃げていた筈なのに突然、元の馬車へと戻って来た男は、混乱したように俺を見た。


「お帰りー!」


俺は手を振ってやった。


男の顔が屈辱と怒りにつつまれた。


「う・・・うおおおおおおお!!」


男はヤケクソ気味に腰から短剣を抜くと俺に投げつけて来た。

俺は敢えて避けない。


ガキン!


短剣は俺に突き刺さる事なく弾かれて車外に飛んで行った。


しかしこの短剣は陽動だった。

男は同時に煙玉を床に投げつけていたのだ。


しまった!

短剣に注目して見えてなかった。


ボフッ!


車内は瞬く間に煙に包まれた。

けれどバリアで守られている俺や人質がむせる事はない。


ただ、この隙に男は再び馬車から飛び降り逃げてしまった。


「くそ、懲りない奴め!・・・まあ、少し泳がせておくか」


俺は敢えてその男を逃した。

勿論、ロックオンしたままでだ・・・



馬車はまだ走っていた。


かなりかっ飛ばしている為、揺れも大きいし音も大きい為、御者台で馬車を操っている豚人は車内の出来事に全く気がついて無さそうだった。


「・・・ズ・・・ブズ!・・・ダブズ!!」


「はい?」


何度か呼びかけると、やっと気がついたそいつが後ろを振り返った。


するとそこには見知らぬ男、つまり俺がいた。


「やっぱりお前がダブズだったか!」


「お、お前は?!グブッ!!」


俺は片手でダブズの首を絞めた。


目をひん剥き苦しそうにもがくダブズ。


礼拝堂の惨劇への怒りが俺を乱暴な行動へと走らせていた。


「馬車を止めろ!」


首が絞まったまま無言で頷くダブズ。

首を離してやると手綱を引っ張り馬を止めた。


俺はナノマシン集合体を縄状にしてダブズを縛り上げ、乱暴に地面に放り捨てた。


ドシャッ!


「ひぐうっ!」


俺は馬車に戻り、人質を袋から出した。


・・・重っ!


なんだこの重さは?


今放り捨てたダブズはめちゃめちゃ軽かったぞ?


すると袋から出てきたのは・・・豚人とは似ても似つかない物体だった。


180cmはあろうかという巨大な体に、でっぷりと太った体、胸と腹もめちゃくちゃに出っ張りやたらブヨブヨしている。

そして顔は・・・見るものを不快にさせるような醜悪な豚面だった。


まあ、豚は豚だけどさ・・・これって・・・オークじゃね?


総じて120cm程度の身長でミニブタの様な愛くるしさに溢れた見た目の豚人さんと目の前のふてぶてしい面構えをしたオークとの共通点は、どこにも感じられなかった。


という事は、コイツは姫では無いのだろう。


「ハズレだったか・・・」


思わず出た俺の呟きに、オークは野太い声で反応した。


「外れじゃありませんよー!私です!私が正解ですよ!」


「はあ?だってお前、オークだろ?」


「オークじゃ無いですよー!豚人ですよ!しかも『聖豚』ですよー!」


「はあ?嘘つけ!どこからどう見てもオークだろうが!」


・・・ん、待てよ?確かホリーが使った秘薬は、王家の女性が敵に捕まった際、辱めを受けない様にする為、極めて醜い姿に変身して男をゲンナリさせる効果があるんだよな?・・・俺ってば、今めちゃくちゃゲンナリしてるんだけど?・・・まさか?


「確かに見た目はオークみたいですけど、私は豚人で『聖豚』で聖王女でソフィアリスなんですー!あなた、カガリ様ですよね?」


「は?なんで俺の事を知ってるんだ?」


「そりゃー、ホリーから散々聞かされましたから。一見、頼りなさそーなごく普通の少年だけれど、ものすごーく頼りになる大魔法使い様なんだと・・・私、ホリーの話を聞いて夢見ていたんです。カガリ様とは一体どんな素敵な殿方なんだろうって。だから一目であなたがカガリ様だと分かりました!だって、私のピンチに颯爽と駆けつけてくれる殿方なんて、まるで物語の主人公みたいじゃないですか?まさしくホリーが話してくれた通り、そして私が想像した通りの素敵なお方でした!」


・・・嬉しい事を言ってくれているのは分かるが・・・醜悪な豚面でしかも野太い声で言われてもな・・・メスなのにその声の野太さは流石に引くぞ?


これが『変化の秘薬』か、恐るべき力だな。


流石に思ったまんまを口に出すのは失礼過ぎるので、当たり障りのない返事をしておいた。


「あーまあ、確かに俺がホリーの言っているカガリだ。けどあんたが思うような素敵な奴じゃないぞ?」


「そんな事はありません!もし攫われたままモリッツァへ送られていれば、酷い目に遭わされた上、殺されていたでしょう!カガリ様は私の命の恩人でとても素敵な方です!」


「そりゃどうも・・・1つ疑問だったんだけどさ、あんたには悪いんだけど、どうせ殺すのなら礼拝堂で殺しておけば手っ取り早かったんじゃ無いのか?何でワザワザ連れ去ったんだ?」


「それはですねー、確実に私がソフィアリス本人だという確証を得たかったのでしょうね。だって実は偽物かもしれないじゃないですか?」


「まあそう言われればそうだよな。俺も未だに疑ってるしな」


「そんなー!信じて下さいようー!」


「ははは、冗談だよ」


「もうー!イジワルですねぇ!」


・・・まあとにかくオーク…じゃない、姫を連れて帰るとするか。

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