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10話 <委員長こと初瀬綾音の視点2>

称号の剥奪が決まって、逃げ出した海月君を龍王様は背後から容赦なく気絶させた。


そして意識の無い彼に何やら術をかけると、海月君の体から光が溢れ出しそれが彼の体から離れだした。


体から完全に離れた光は一点に収束し、1つの光る玉になった。


龍王様はその玉を手に取ると、大きく口を開けて『ゴクリ!』と飲み込んでしまった。


それが海月君の称号を剥奪された瞬間だった。


「さて、用も済んだし、帰るわ。あー良いもん貰ったぜ!これだけの力がありゃ1万年は全盛期が伸びるぜ。じゃあな」


龍王様はそう言うと、ホクホク顔で去って行った。


残された私達、そして気絶したままの海月君。

私は彼を医務室へ運ぶ様お願いしたけれど聞き入れられなかった。


床に倒れたままの海月君を放置して今後の彼の処遇が話し合われた。


王女様は、勇者の称号を失った彼に予算や労力を割く余裕は無いと、鉱山送りを提案してきた。


まさかの展開だ。


おそらく、私達の海月君に対する冷めた態度を見て、彼を切り捨てても文句は出ないと踏んだのだろう。


六条君は、称号を失った海月君にはもはや何の興味も無いらしく、

好きにすれば?という態度だった。


当然、私は猛烈に反対した。

私の力の無さで海月君の心と体をどうしようもなく傷つけてしまった。

彼を守れなかった。


『鉱山送り』なんて言い方、どう考えても強制労働をイメージしてしまう。


そんな事は絶対にさせられない。


私の反対に、困った顔をした王女様。

思惑と違ったのだろう。


みんな海月君にそれ程関心が無いと踏んでいたのだろう。

私や片山さんだって結局、彼が称号を剥奪される様子を黙って見ていた訳だし。


それに六条君が賛成に回ると思っていたのかもしれない。

六条君が賛成すれば誰も反対は出来ない。

つまりすんなり鉱山送りが承認されると思っていたのだ。

しかし六条君は賛成も反対もしなかった。


だから付け入る隙はある!


鉱山送りになんて絶対にさせない!

今度こそ彼を守る!

私はそう固く決意した。


しかし王女様はあっけなく折れた。


「分かりました。では鉱山送りは見送りましょう。しかし、ここに残る以上、勇者の一員として魔王討伐に参加して頂かねばなりません。

称号の無いこの方がそれを果たすには皆様よりも更に過酷な訓練を課す必要があります」


王女様から信じられない代案が出た。

余りにも酷い提案、この人は、海月君に力が無くなった途端、扱いを180度変えたのだ。


「は?私達よりも過酷な訓練ですって?ふざけないで下さい!海月君は勇者の称号を剥奪されたのですよ?そんな状態で勇者以上の訓練なんて必要無い。彼には魔王討伐を果たすその日まで心穏やかに過ごして貰うべきだしクラスメイト全員で守るべきです!」


私の発言に仲間である筈のクラスメイト達から反対の声が噴出した。


「『は?』って委員長のほうが『は?』だぜ!なんでウソ月に楽させにゃならねえんだよ!コイツには俺たちの100倍ハードな訓練をさせるべきだ」


「だよな?只でさえ称号無しの最弱野郎なんだし、それくらいやらないと勇者の俺たちについて来れないよな」


「そうね。ついて来れないならここに居る意味ないし。鉱山送りにした方が一労働者として私達に貢献したことになるんじゃない?」


みんなから言い放たれる容赦無い言葉、極め付けはあの山本君からの言葉だった。


「僕は鉱山送りに賛成だ。コイツはもう選ばれし存在じゃないし、僕たちと居る資格はないと思う」


「はは。山本の奴、相当恨み溜まってんな。けど良いのか?野田先生と離れ離れになって寂しいだろ?今ならウソ月をお前のペットに出来るかもしれないぜ?」


「こ、こんな奴要らないよ!鉱山で死ねばいい!」


みんな何て言い草なの?


このクラスはここまで腐っていたのね。

私は心の底から悲しくなった。

けれど今は嘆いてる場合じゃない。


絶対に彼を守らないと!


幸い、私の意見に賛同してくれる人もいた。


「山本君、私、あなたが無実だなんて思ってないから」


「か、片山さん?!」


「私は初瀬さんの意見に賛成するわ。鉱山送りなんて論外だし、過酷な訓練もさせるべきじゃない。何なら私が責任を持って海月君の面倒を見たって良いわ」


「まさか片クリ、海月の事好きになったのか?!」


「そんなのじゃない。ただ、償いたいだけよ」


しかし、片山さんの力強い援軍も六条君の一言で一気に崩されてしまった。


「鉱山送りも訓練も俺としてはどうなろうが構わない。また委員長お得意の多数決で決めれば良いさ。だが、それで負けたら海月には悲惨な現実が待っているぞ?考えても見ろ、『鉱山送り』だぞ?呼び方からして単なる鉱山労働者って訳じゃないだろ?必ず悲惨な運命を辿る。それで良いのか?まあ勝てる自信があるのなら良いが」


「あなたが出てこなければ良い方向に持っていけたわ!」


「どうだかな。俺には、お前の力不足のせいで鉱山送りに決定してしまう未来しか見えないがな?」


「そんな事・・・・・」


そりゃ、あなたがこんな話をしてしまったらもう、そっち方向へみんなの意見が誘導されちゃってるわよ!

何て事してくれたのよ!


しかし、六条君は意外な提案をしてきた。


「何なら俺が鉱山送りは『無し』って方向でみんなの意見を纏めてやろうか?意見が同じなら多数決を取る必要は無いから負けは無くなるぞ?まあ話を纏めるのにみんなを納得させる必要があるから、奴の訓練がキツくなるのは仕方ない。過酷さ5倍あたりが妥当なところか。どうだ?」


過酷さ5倍?!


魔王討伐の為の訓練なら楽という事は無いだろう。

むしろ相当過酷な筈だ。

その5倍過酷なんて有り得ない!


でも向こうは痛いところを付いて来ている。

もし多数決で負ければ鉱山送りに決まる可能性が高い。

というか今の空気からすると確実にそうなる。


それならここは六条君の提案に乗るしか無い。

とはいえ訓練5倍なんてあまりにもキツ過ぎる。


ここは少しでも妥協を引き出そう。


「分かったわ。でも5倍はいくらなんでもキツ過ぎるでしょ?・・・2倍でどう?」


「まあいいが・・・なら2倍で成立だな。あとでうだうだ言うなよ?」


「分かってるわよ」


「なら鉱山送りは無し、訓練2倍で決定だ。しかしお前なら訓練量を増やすのは断固拒否してくると思ったんだがな。それならそれで俺としては別に問題無かったんだが。俺は単にみんなの意見を纏める為に取り敢えず言ってみたってだけしな。正直、倍なんて海月が可哀想だろ?俺としては半分の訓練量でも良いと思っていた位だ。まさかそっちから2倍を提案してくるとはな。委員長も海月には容赦ないな。2倍って相当キツいぞ?」


「・・・・・!!!」


はあ?!何よそれ!!

コイツ確実に私の事をおちょくってるじゃない!!

もう大嫌い!!


その後、海月君は意識が戻るまで別室に寝かせるという事で運ばれていった。


海月君には後で謝らないと。

許してくれないかもしれないけれど、そうせずにはいられない。


彼にはこれから私達の2倍厳しい訓練が待ち受けている。


他のみんなが協力的でないから私だけでも彼を守らないと!

できれば片山さんも一緒に彼を守ってほしい。


さっきは『彼に償いがしたい』と言っていたし、協力してくれるかもしれない。


後で頼んでみよう。

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