「金太郎」のエピローグ
---ここまで本編
木を倒した所を一人の木こりが見ていました。子供がなんという怪力だ。木こりが驚きながら金太郎に話かけました。
「その力を京で人々の為に使わないか?」
金太郎は悩みました。自分にできる事があるのなら行きたい、でも母を置いては行けません。金太郎は家に帰り母に今日の出来事を言いました。すると母は言いました。
「金太郎、あなたは強く優しい子になりました。人々が助けを求めているなら救ってあげなさい。そして京に行くのなら父の姓を名乗りなさい。頑張るのよ」
荷物をまとめて京に向かう金太郎の背中を見送った母は涙を流しつつ言いました。
「お父さん、金太郎をどうか上から見守ってあげて下さいね」
--そして金太郎は京の都に着いたのでした。
山育ちの金太郎には見る物全てが新鮮に見えました。木こりから言われた頼光という人を探し回りました。
ある建物の前を通り過ぎようとすると数人いた武士の一人が声をかけてきました。
「なんだそんな大きな鉞を担いで街を歩きやがって。危ないな、お前こっちに来い」
そう言って金太郎の手を掴みましたが一瞬で武士は転がされてしまいました。
それを見て武士の仲間の一人が笑いました。
「綱、美男子が台無しだな。それにしても綱を転がすとは大したもんだ。頼光さん、この男中々見所がありそうですよ」
すると頼光は金太郎に話かけました。
「私は頼光、お前の名はなんという?」
「俺は坂田、坂田金時だ」
「頼光さん、あなたを探していました」
「もしや貞光が言っていた足柄山の子供というのはお前の事か、山で木こりに会っただろう、あいつは私の仲間の貞光という。そして今立ち上がったのが綱、笑っているのが季武だ。この二人も私の仲間達だ」
そして頼光は続けて言いました。
「私達は今、帝の命を受けて鬼を倒しに行かなくてはならない。その鬼は十数年に渡り女達を拐っている悪い鬼だ。その戦いに手を貸してくれないか金時」
「分かりました。民の為に頑張ります」
「感謝する。鬼はとても強いが作戦はある。頼りにしているぞ金時」
こうして金太郎は頼光の仲間に加わり5人で鬼が住む山に向かうのでした。
--京から少し離れた山頂、茨木童子と酒呑童子は京の都を見下ろしていました。
「やりましたね酒呑さん!京に漂っていた怨念の霧が完全になくなりましたよ!ようやくですね!さぁ、次はどこに行きましょうか」
目を輝かせてそう言う茨木童子の肩を右手で叩き、酒呑童子は言いました。
「もう終わりだ。俺達は鬼を増やさないようにした。でもやってた事はただの人殺しだ。鬼にされた恨みだったのかもしれない。それに、この十数年で他に鬼が何人も生まれた」
そう言って酒呑童子は京で鬼になってしまった仲間達の方をずっと見ていました。
悲しそうな酒呑童子の横顔を見ながら少しの沈黙の後、茨木童子は言いました。
「酒呑さん、今日はお酒を呑みましょう。もう鬼になる人はいないんです。祝酒です」
「みんな!今日は酒を呑もう!」
茨木童子が大声でそう言うと近くにいた仲間の鬼達は飲み始めました。そして酒呑童子に酒の入った瓶を渡しながら言いました。
「酒呑さん、酒呑さんはこの後どうするつもりなのですか?」
渡された酒を一口ぐいと飲み、少し考えてから酒呑童子は言いました。
「俺達は鬼だ、人に恐れられてる。だから誰にも見つからない場所に行く。来るか?」
それを聞いた茨木童子は喜び、もちろんですと答えお酒を飲み始めました。
暫くした頃、仲間の一人が茨木童子の元に来て小声で言いました。
「人影がこちらに来ています。格好からどうやら山伏のようです、どうしますか?」
山伏とは山で修行をする修行僧の事です。
その山伏は五人組でした。
茨木童子は止まれ!と言いながら近付く山伏の前に立つと一人の山伏が言いました。
「私達は山伏です。夜も更けてきたのでこの辺りで寝ようかと思っているのですが少し場所を借りても宜しいでしょうか?」
鬼が怖くないのかと茨木童子が聞くと山には鬼が隠れ住んでるのはよくある事なので慣れているとの事でした。
「酒呑さん、どうしますか?」
茨木童子がそう聞くと酒呑童子は好きにしろと一言言い、また飲み始めました。
「有難う御座います。お礼にお酒を貰って下さい。1つ前の都で貰ったのですが山伏は酒を呑みませんので」
そう山伏は言うと茨木童子に酒を渡しました。茨木童子は皆にそれを配り呑みました。
でもそれは毒入りの酒でした。
山伏達を加えて宴会は続きました。
酔った茨木童子はその楽しさから山伏に身の上話を喋ったりしていました。その途中で飲み過ぎだと酒呑童子に言われ、2人で酔いを覚ましに行きました。
「明日ここを発つぞ、仲間の中には人に恨みを持つ者もいる、ここにいては駄目だ、茨木、今までよくやってくれた、俺だけでは成せなかったはずだ。これからも宜しく頼む」
そう酒呑童子が言って茨木童子と固く握手をすると茨木童子が急に倒れました。酔い過ぎたようですと茨木童子は笑いながら言いました。酒呑童子は、しょうがないなと茨木童子を背負うと仲間達の元に戻っていきました。
呑んでいた場所に戻るとみんなその場で倒れていました。斬られ血を流していました。
酒呑童子は呆然としました。すると奥の方から5人の山伏がやってきました。
その山伏達は武器を持っていました。
酒呑童子は茨木童子をその場に寝かせて山伏達に近付いて行きました。
「お前達がやったのか!お前達が!!」
酒呑童子が怒りながらそう言うと綱が酒呑童子を無視しながら言いました。
「頼光さん、こいつにだけ毒が効いていないようです、どうしますか?」
「親玉でも1人は1人だ、我等の敵ではない」
すると金太郎が一歩前に出て言いました。
「頼光さん、俺にやらせて下さい。どうやらこいつは親の敵みたいなんです。だから俺がやらなきゃなんです」
頼光達はとても驚きましたが金太郎の目の迫力に圧されて任せる事にしました。
それを聞いていた酒呑童子は金太郎の持つ鉞を見て何かを納得して小声で言いました。
「鉞の男、今度は一騎打ちだ」
戦いは長くは続きませんでした。
金太郎は鉞片手に素早く動き酒呑童子の左腕を切り落としました。すると酒呑童子は隠していた短刀を抜きました。短刀など構わずに金太郎が更に鉞を打ち下ろしました。すると酒呑童子はそれを躱して金太郎の懐に潜り短刀を突き刺そうとしました。
しかし金太郎は身体を捻って短刀を避け、その反動を使い鉞を振り抜き、酒呑童子の首を切り飛ばしました。
酒呑童子は自分の首が空中に飛ばされると時間がゆっくり流れていきました。
倒れた仲間達を一人ずつ見ていきました。鬼はやはり倒されるべきなのだろうか?
顔のせいで鬼になってしまったが次生まれた時にはみんなを守れるようになりたいと思いました。
最後に茨木童子を見ると涙が出てきました。
「茨木、お前だけは生き残れ」
そう一言言うと酒呑童子の首は宙に浮いたまま都の方にゆっくり動いていきました。
それを見た金太郎達は慌てて5人で酒呑童子の首を追いかけて行きました。
山の麓付近でようやく首を捕まえると風呂敷に包みそのまま都へと向かいました。
帰り道、頼光は金太郎に言いました。
「父の敵を打てて良かったな金時」
「頼光さん、俺に任せてくれてありがとう。しかし、酒呑童子はどこか手を抜いていたような気がしました」
そう金太郎が言うと綱が言いました。
「途中で毒が効いてきたんだろう。これで京が平和になる、さぁ早く帰ろう」
こうして金太郎達は平和になった京の都に帰っていきました。
めでたしめでたし。