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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
8/30

8:後退・鋼帯と抗体

「ノゥレッジ、この蜘蛛を分析。」

 ゲーム内に存在しない敵をノゥレッジが分析出来るかは疑問だったが、その心配は杞憂だった。

蜘蛛アラネア。口から摂取した鋼片スラブを体内で鋼帯スチールストリップに変換し巣を形成。本来は他の虫から鋼片を摂取していたが、近年安易に摂取可能な人工建造物を襲うようになった。属性は毒。』

「ノゥレッジ、解毒剤アンチドーテを生成。」

『解毒剤を生成します。』

 桐生はフロードに乗ると蜘蛛の巣を滑るように迫った。すると蜘蛛は体内の鋼片を毒針に変えて放ってきた。

「電磁シールドっ。」

 予め金属性と分かっていたが、高速の為に途中まで抜けてきた。

「ブリギッテ、後退させろっ! 」

「動きませぇん!? 」

 元々、バルカーノが対虫用に造った武装車である。簡単に貫かれる事はなかったが、残念な事に車輪が装甲で覆われていなかった。パンクをしてしまっては武装車も、ただの箱だ。普段から弾も積んでいなかった。

「なんで武装車が弾、積んでないの!? 」

 マニーからすれば武装車なのだから弾薬を積んでいて当然だと思っていた。

「そんな、借金まみれなのに弾なんて費用、ありませんよ。」

 しかし、ブリギッテの言葉に、それもそうだと思った。あとは桐生に頼るしかない。フロードの機動力と電磁シールドで毒針を防いではいるが、至近距離になれば威力は増す。天鎧の装甲は桐生の設定した通りであれば、貫かれる事はない筈だった。しかし、それはデジタル世界の話しで現実世界の話しではない。テストもせずに実戦に挑んでいる。想定通りの結果が出なかった時点で命取りになりかねない。桐生自身もまだ手探りと言ってよい。その為に事前に解毒剤も用意した。これとて、この蜘蛛の毒に本当に有効なのか試してもいない。やはり移動しながらの銃撃は照準に誤差が出る。ディスプレイの中とは勝手が違う。

「くっそ… 背に腹は代えられねぇか。ノゥレッジ、初心者モード。」

『レベル制限を越えているため、初心者モード実行不可能。』

 桐生としては定まらない照準を初心者モードの自動照準、自動掃射で補おうとしたのだが拒否されてしまった。こうなると自分で設定した防御力を信じて接近戦しかない。武器を銃から剣に変形させるとフロードを加速させて突っ込んだ。桐生が加速して突っ込むという事は、蜘蛛の毒針も体感的には加速する。ここで竜をモチーフとした流線型の天鎧デザインが生きた。掠めるような当たりは弾き飛ばした。そのまま、加速し続けると一気に蜘蛛を切り裂いた。蜘蛛は片付いた。しかし、振り向いた桐生の眼に映ったのは毒針に貫かれた武装車だった。桐生が武装車の扉を開けると装甲を貫いた針がブリギッテの腿に刺さっていた。マニーは真っ青な顔で動揺していた。

「装甲の一番薄かった場所にたまたま… 。ブリギッテは私を庇って… 。この蜘蛛の毒に血清はまだ無いのだ。」

 事態は一刻を争う。桐生はブリギッテのスカートを捲ると太腿から毒を吸出した。

「ノゥレッジ、解毒剤アンチドーテっ!」

『解毒剤、転送します。』

 転送されてきた解毒剤は服用タイプだった。医療経験のない桐生にとっては良かったが、朦朧としているブリギッテにどうやって飲ませるか。桐生は意を決して解毒剤を自分の口に含むと、ブリギッテに口移しで飲ませた。そして多くのゲームの解毒剤は投与した瞬間に効果を発する。桐生の設定も例外ではなかった。

「やっぱり変態っ! 」

 ブリギッテは、おもいっきり桐生の頬を平手打ちすると、顔を真っ赤にしながら捲れたスカートを直した。気がついた瞬間にスカートが捲れて、彼氏や夫でもない男の口唇が重ねられていたのだから、平手打ちと変態は桐生も我慢したが「やっぱり」というのは腑に落ちない。

「ブリギッテ、落ち着いて。」

 慌ててマニーが状況を説明した。

「すいませんっ! 命の恩人に申し訳ありませんっ! 」

 冷静になったブリギッテは、桐生に平謝りした。

「ただ、スカートは先に直して欲しかったかなぁ。」

 実際には、そんな余裕は無かったが、ブリギッテの気持ちも分かる。

「悪かった。次があったら気をつける。このままじゃ、帰れないからタイヤの具合を見てくる。ブリギッテは内部に故障が無いか調べてくれ。」

「はいっ。」

 この世界らしい車であれば、マニーも手伝うのだが、バルカーノの設計は特殊過ぎて手に負えない。おとなしく待つ事にした。一方、桐生が車の外に出ると、見覚えのある後ろ姿が蜘蛛の遺骸を調べていた。

「レイカー議長? 」

「あぁ、桐生君か。また君の手を煩わせてしまって、すまなかった。本音を言えば君の活躍を見たかった所なんだがね。」

「別に活躍なんてしてませんよ。それより、虫について資料はありませんか? 相手の特徴が分かった方が、被害拡大を防ぎやすいと思うんですが。」

「了解した。今度、マニー君に渡しておくよ。そうそう、この状態では村に帰れないだろ? 私に送らせてくれたまえ。バルカーノの武装車は搬送の手配をしておく。こんな車輪まで特殊でなければ、こちらで直させるのだが。」

 三人はレイカーに送ってもらう事にした。

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