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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
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6:歓声・閑静な完成

 バルカーノの家は予定通り一週間で完成した。元々、バルカーノが閑静な場所を好んで選んだレイカ村である。その感性を尊重して外観はおとなしいデザインになっていた。

「凄ぉい。もう完成したんですねっ! 」

 1人ブリギッテだけが歓声をあげていた。一方でマニーは心配事が増えてしまった。これからは、1つ屋根の下で生活する事になる。コンテナ間の出入りは必ず外を通る為に気がつけたが、どこで桐生が話してしまうか不安だった。

「個室は一階と二階なのね。研究室も一階だから、バルカーノとブリギッテが一階で私と桐生が二階でいいわね。」

「勝手に決めないでください。マニーさんだって研究があるんだから一階へどうぞ。」

 勝手に部屋割りを決めようとするマニーにブリギッテが喰って掛かった。

「なら、私と研究対象の桐生が一階でいいかしら。」

「研究者同士、仲良く一階へどうぞっ! 」

 二人のやり取りにバルカーノは少々呆れていた。

「やれやれ。モテモテだな、桐生君は。少々妬けるよ。取り敢えず、炊事の事もあるしマニーとブリギッテが一階でいいんじゃないか? 」

 このバルカーノの発言にマニーが噛みついた。

「そんな今時、女が炊事なんて古いわね。科学者とも思えない。」

 生活費の代わりに身の回りの世話をやいている関係上、ブリギッテには突っ込めなかった。

「それでは、私に君たちの服の洗濯をしたり手料理を振る舞えと? 」

「やめてちょうだい。」

「やめてくださいっ! 」

 マニーとブリギッテは、ほぼ同時にバルカーノの言葉を棄却した。二人にはバルカーノがまともに炊事洗濯をする光景が目に浮かばなかった。むしろ、食材や繊維で実験する姿が目に浮かぶ。そしてバルカーノは明らかに二人の反応を予測していた。

「では、一階の広い部屋を二人部屋にして三人、二階は私が一人で使わせて貰うのでは、どうかな? 」

 このバルカーノの提案は、ある意味win-winである。桐生は一人部屋、マニーは桐生を見張れる。ブリギッテもマニーを見張れるしバルカーノは伸び伸び出来る。

「誰が二人部屋を使うかは任せるけどね。」

 バルカーノの、この一言でブリギッテの視線がマニーに突き刺さる。が、そこはマニーも大人である。それに、グリシア共和国随一のナイスバディと目されているマニーが男と同室と知れたら、とんだスキャンダルになりかねない。それが原因で研究者として失墜でもすれば、自分の秘密を守る為に出向したというのに本末転倒である。なんとか部屋割りも決まり、桐生は割り当てられた部屋に入ると大きな溜め息を吐いた。

「参ったな。こんなんなら異世界転生より輪廻転生の方が楽かもしれないな。取り敢えずっと。ノゥレッジ、監視システムを検索。」

『監視カメラ、ゼロ。盗聴器、ゼロ。人感センサー、ゼロ。音感センサー、ゼロ。温感センサー、ゼロ。赤外線センサー、ゼロ。その他、推定される監視システムは発見されません。』

 ノゥレッジからの報告を聞いて桐生は再び溜め息を吐いた。

「あの議長ってのも油断出来なさそうだし、これからどうするかだな。ノゥレッジ、遮音してくれ。」

『アン・ノイズパルスを発生します。』

 盗聴器が無くとも壁から筒抜けでは仕方ない。桐生がノゥレッジと会話をするにも、世界が違い過ぎる。桐生の世界でも架空のゲーム世界の能力を、まるで架空世界のような、この世界で行使している。つまり、桐生にとっての変わらぬ現実は自分自身しかなかった。

「こいつも一種の仮想現実ヴァーチャル・リアリティとか拡張現実オーグメンテッド・リアリティとか複合現実ミクスド・リアリティみたいなもんだと思えばいいのか? 」

『否定。現実です。』

「…だよな。」

 こうして生身の自分がノゥレッジと会話している時点で認めるべきだろう。頭では桐生も理解しているが感情が追い付かない。

『緊急警戒。ワーム接近中。』

「ワーム? バグの次はマルウェアかよ。こうなりゃデバッグだろうがファイアウォールだろうが、やってやるよ。」

 桐生は家を飛び出した。

「機装天鎧っ! 」

 桐生はグリーンメタルの鎧を纏うと、腰の後ろのパーツを外して三叉戟にした。

「ノゥレッジ、ワームの現在地っ! 」

『右斜め前方32度。深さ28メートルから上昇中。距離500メートル。』

雷戟サンダートライデントっ!」

 地面に電気を帯びた戟を突き立てるとワームが感電して堪らず地表に現れた。普通に考えれば接地アースした時点で無効化されそうだが、そこは都合よく出来ていた。その辺は設定を作った本人が一番、心得ている。桐生はパーツを再び変型させると銃にして引き金を引いた。

雷擊サンダーショットっ!」

 電気の塊の弾丸は一撃でワームを撃ち抜き、黒焦げにした。

「どうやって地中のワームに気づいたの? 国立の研究所でも、まだ課題なのに… 。」

 驚くとも呆れるともつかない顔でマニーが見ていた。

「企業秘密… かな。」

 そう言って桐生は天鎧を脱ぐと腕輪を指差した。超音波や電磁波でも地中の異物発見が出来る事は知っていたが、桐生にはその専門知識が無かった。そもそもノゥレッジの探索能力は理論を無視した空想科学の産物だ。ただ、やっと完成した住みかをまた失いたくはなかった。

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