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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
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5:機神・貴紳からの寄進

 翌日になるとバルカーノの家を本格的に改築する為に担当者がやって来た。

「やぁ、バルカーノ。久しぶりだね。」

 身なりの整った長身で、細身だが華奢ではない紳士が立っていた。

「レイカー議長自らお出ましとは驚きだな。」

 だが、レイカーはバルカーノを素通りして桐生の前に立った。

「初めまして、桐生君。私はグリシア共和国評議会議長のレイカーと申します。」

 桐生は初対面で自分を特定した事に少し驚いた。音声通信は出来るようだが、この世界に来て以来、画像を送れるような機器は目にしていない。

「何故、俺が桐生だと? 」

「それは簡単です。私は一度お会いした方は忘れません。この中で一度もお会いした事がないのは貴方だけでしたから。」

 一瞬、なるほどと思ったが国の評議会議長が、誰が来るかも分からない改築工事業者全員の顔を覚えている事になる。それは結構、特異な能力なのではないだろうか。それとも、この世界では普通なのか。いや、『私は』と前置きしたぞ、などと色々な事が桐生の頭を駆け巡った。ともかく、桐生としては情報が足りない。それも『常識』レベルからの情報が。

「なるほど。それで、俺に何か用ですか? 」

「マニー君からの報告に大変、興味が湧いたものですから。出来ましたら桐生君に投資をさせて貰えまいか? 」

「悪いが投資して貰っても利益は出ないぜ? 」

「なら、私の私財から寄進という事にしよう。見返りは求めない。その腕輪をブラッシュアップして貰えればいい。後はマニー君やバルカーノが勝手に研究させて貰う。」

 桐生にとって腕輪はゲーム内のツールであり本来プログラムに過ぎない。ブラッシュアップして欲しいと言われても、この世界には端末が… と、そこまで考えて一つだけ思い当たった。

「ノゥレッジ、アップデート。」

『現在のバージョンは最新です。』

 この答えはアップデートが可能なのだと桐生は捉えた。桐生の作った設定通りなら、可能性は見えた。何しろ、桐生は現在、この世界で収入を得る手段を持たない。レイカーの提案は正直、ありがたかった。

「ありがてぇ。コンセプトは虫対策でいいか? 」

「勿論です。この国を虫の脅威から解放出来るのであれば、御自由に。」

  それだけ言うとレイカーは桐生に背を向けた。

「あら、もうお帰り? 」

 マニーがレイカーに声を掛けた。

「あぁ。桐生君にも会えたし融資の話しも出来た。あの腕輪が話すのも聞けたからね。ここから先は君からの報告を楽しみにしているよ。議長職というのも多忙なものでね。… それじゃぁ桐生君。また会おう。期待しているよ。」

 レイカーは手を振ると公用車に乗って帰っていった。

「ふぅ、冷や冷やした。」

 マニーが胸を撫で下ろした。

「どうかしたのか? 」

 怪訝そうに桐生が尋ねた。

「どうかしたのかじゃないわよ。この国の評議会議長といったら国家元首のようなものよ。それをタメ口なんて、いい度胸よ。よく機嫌を損ねなかったわ。」

「それだけ、腕輪に対する興味が勝ったのだろ。ちなみに私とマニー、それにレイカーは学術院の同期なんだが、昔から変わった奴だった。」

 バルカーノが口を挟んで来るとマニーが眉を顰めた。

「変わり者は、貴方でしょ? いつも斜め上から発想してくるんだから。」

 おそらくレイカーは論理的、マニーは現実的、バルカーノは独創的なのだろうと桐生は思った。自分などは凡庸に思えていた。とはいえ、この世界の中ではノゥレッジは奇抜な発明品扱いになるのだろう。桐生の世界でも現実に存在したら大騒ぎだ。テレビのヒーローが現れたくらいならいいが、軍事転用とかの話しになって揉めるのは目に見えている。なんとか、この世界でも、そんな騒ぎにならないようにするしかない。

「取り敢えず一週間ほど、こちらの仮住まいで、お願いします。」

 業者が用意してきたのは6台のコンテナハウスだった。4人分の個室が各1台とバス、トイレ、洗面台で1台、ダイニングキッチン、リビングで1台という事らしい。それを聞いてマニーはホッとしていた。部屋が二人で1台となったら、男女で分かれる事になるだろう。そうなったら、どこで桐生からバルカーノに自分の秘密が漏れるか気が気ではない。それにブリギッテと寝室が一緒では安心して補正を外せる場所がない。

「それじゃぁ、それぞれ自分のコンテナに荷物を運んで、整理をするとしよう。それが済んだら桐生は私の部屋に来てくれ。色々と調べたいからね。」

「ちょっと待ったぁっ! それなら同席させて貰うわよ。研究の抜け駆けは許さないからね。」

 本音は桐生が秘密を洩らさないように見張りたいのだが。

「… 構わないが邪魔にならないように頼むよ。ここへは出向扱いなんだから、あくまで責任者は私だ。」

「今のうちよ。国家事業になったら、そうはいかないんだからね。」

「まぁ、なったらだけどね。」

 バルカーノが含みを持たせたのは解析出来ない可能性を考えていた。だが、返済を引き延ばし、追加費用を引き出す為にも簡単に言う訳にはいかなかった。

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