26:空を征する者
レイカーの指示通り、空には蜻蛉型大型昆虫が、デバッガーの周囲には人型昆虫が現れた。
「こりゃ、フロードで相手するには無理があるかな。いけるかな… ノウレッジ、過激な輸送機、転送準備っ! 」
『公式略称飛竜準備完了。』
「転送フロードっ! 3秒後に飛竜を転送っ! 」
デバッガーは転送されてきたフロードに飛び乗ると一気に上昇した。
「フッ。傲ったか桐生君。その空飛ぶ板の機動性は計算済みだよ。落とせ。」
『飛竜、転送します。』
急に上空に多角形の箱のような物が現れた。
「… これも桐生の世界の技術だというのか? 」
「変形、ドラスティック・モードっ! 」
デバッガーの掛け声と共に上部は左右に展開し翼のようになると、現れた竜の首が180度回って前方を向き下部からは竜の尾が180度回って後方に伸びた
「楽しませてくれる。だが、ハッタリと云う事もあるっ! 」
「火炎放射っ! 」
レイカーの疑いを吹き飛ばすように飛竜の吐き出した炎がメガネウラ・グリシスの羽を燃やし墜落させた。すると、まるで本能のように蟻型昆虫たちが飛べなくなった蜻蛉型に群がっていった。
「一見、仲間を襲っているようだが、上手く出来た証拠隠滅システムだな。」
「さすが桐生君、察しがいい。どうだね、今からでも私と手を組まないか? 今ならまだ、国民を欺ける。君と私が組めばグリシア共和国のみならず世界だって意のままにする事だって可能だ。」
レイカーも桐生が首を縦に振るとは思っていない。だが万が一にもレイカーの提案を受け入れて貰えれば状況は好転する。しかし、桐生の出した答えは予想通りだった。
「断る。」
「やはりな。ならば君も私には不都合な真実。消えて貰おうか。元々この世界に居なかったのだから消えるだけだ。」
「いやぁ、転移者じゃなくて転生者なんでね。何度も理不尽な死に方はしたくないからな。全力で抗わせてもらうっ! 」
「ならば、こちらも全力で討ち取らせてもらうとしよう。コーカサス、出るっ! 」
レイカーの声と共に姿を現したのはヘラクレス同様の超大型機生虫だった。全長ではヘラクレスに劣るが三本の角を蓄えた重量級だ。
「マニーが超大型の素体を手に入れるのが大変だって言ってたが、結構な大物だな。」
「対虫決戦兵器の試作2号機、機生虫コーカサスだ。さすがに3体目は手に入ららなくてね。3号機は完全機械の機甲虫アトラスの予定だったんたが予算が合わなくて設計までで止まっていた。君のお陰で超大型から発想を変えて機麟を量産出来た事には感謝するよ。」
「そりゃどうも。」
これから一戦交えようという相手から感謝と言われても桐生にはピンとこなかった。
「なぁに、私も義理堅い方でね。始末する前に感謝の意は伝えておこうと思ったまでだ。」
「あぁ、そういう事か。なら要らぬ気遣いだな。そのコーカサスとやらじゃ飛竜は落とせない。」
「落とせるか落とせないかではない。落とすのだ。落とさねばならぬのだっ! 」
桐生はレイカーの言葉に後の無さを感じていた。とはいえ、この世界の技術ではミサイルが関の山。蜻蛉型大型昆虫の速度を上回る飛竜を落とせるとは思えなかった。だがレイカーは予想外の攻撃を仕掛けてきた。瞬時に上空の飛竜目掛けて体当たりを仕掛けてきたのである。
「何っ!? 」
五本の角と六本の足を飛竜に絡めてしがみつくと重量バランスを崩して飛竜もろとも落下した。
「飛蝗の跳躍力にロケットの推進力を合わせたものだ。読めまい。」
自分の技術力を自慢したいのか簡単に自ら種明かしをしてきた。つまり、これは外見はコーカサスオオカブトのようだが、その能力はカブトムシに限らないと云う事だ。まだ、どんな隠し弾が有るか判らない。そう踏んだ桐生は一気に勝負に出た。
「飛竜荷電粒子砲っ! 」
六本の足を絡めて飛竜に覆い被さるようにしていた為、装甲の薄い腹部を飛竜に向けていた。しかも空に背を向けていた為に何かを巻き添えにする心配もない。デバッガーの其れの数百倍の威力の荷電粒子がコーカサスを飲み込んでいった。
「さ、さすがだな。素早い冷静で的確な判断だ。」
「レイカー。もう諦めろ。」
「まだだ。まだ私には真・人型昆虫が居る… 。人型昆虫と呼んでいるのは実際には昆虫型の人間だが… 本当の虫の脅威とは… 単体で暴れる大型ではなく、統率されて集団で行動し攻撃し増殖する小型の虫なのだ。大型は人間たちに脅威を見せつける為の象徴に過ぎない。人間は目に見える脅威の方が理解し易いからな。こ、ここからが本当の勝負だ桐生甲雅っ! 」
フルネームで呼ばれた事に、やっと少しだけ桐生はレイカーの感情を感じていた。そして文脈を整理しようとした。曖昧なインプットではノウレッジがファジーに整理しようとしても正解は出ない。これはノウレッジの性能というよりはプログラミングした人間… つまり桐生の問題でもあるのだが。
「桐生さん、大至急戻って来てくださいっ! 」
突然、ブリギッテの慌てた声がスピーカーから飛び込んで来た。




