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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
24/30

24:司令官の帰還

 バルカーノ邸に戻るとフレッジリングも戻っていた。

「そっちの2体は? 」

「それが… 爆発はしなかったんですが… 」

 桐生からの問い掛けにフレッジリングは無念そうに頭を下げた。

「自害したそうよ。」

 フレッジリングに代わってマニーが答えた。

「司令官と違って元の意識が残っていた訳じゃないんだろ? 自分を責めるな。」

 バルカーノの言葉にもフレッジリングは答える事が出来なかった。

「桐生。レイカーに手を借りる訳にもいかないから手伝って貰うわよ。」

「手伝う? 」

「人型昆虫を人間に戻す方法探し。」

 桐生もマニーが言いたい事を理解した。

「人型… 司令官は? 」

「研究室で冷凍睡眠おやすみ中よ。」

 それを聞くと桐生は一人で研究室に向かった。

「桐… 」

 桐生に声を掛けようとしたブリギッテをマニーが止めた。

「ノウレッジ。人型昆虫インセクターをスキャン。」

『スキャンを開始します。』

 本来ならスキャンして分析してと時間を要するのだろうが、ゲーム上の設定である。すぐさま分析結果は出た。

『昆虫細胞侵食率30.2%。D.N.A.侵食率12.8%。血液混合率3.4%。』

「はぁ? 」

 桐生も生物学は専門ではないが、妙に進行度がバラバラな気がした。加えて見た目は既に人型昆虫である事を考えると、外見が極端に進行が早い事になる。人の命が掛かっているとなると、医学知識も無い桐生としては慎重にならざるをえない。だが、バグたちは、そんな事に配慮してくれるはずもない。

「第二波接近。毛虫? いえ、毒蛾幼虫(タイプ)。ブリギッテ、マルチナで出るわよ。桐生のサポートはバルカーノ、任せるから。」

「いいよ。毒蛾となれば毒針毛を撒かれても厄介だ。出来るだけ刺激しないように駆除に当たってくれたまえ。」

 すると機麟部隊の面々がやって来た。

「そのくらいなら我々が。」

「いや。毒蛾型といっても昆虫の毒蛾と毒性が同じとは限らないから分析力が必要だ。それに、ここに向かう経路の消毒もしなくてはならない。機麟では機動力が悪過ぎる。」

 観察上の行動は毒蛾の幼虫だが、毒性が異なれば対応も臨機応変にしなくてはならない。食性も植物だとしても、この数と大きさでは森林破壊になりかねない。ここはマニーに任せるのが賢明というものだろう。

「フレッジリング、バッカーノで同行してもらえるかな。単独行動は危険だろう。」

「了解っ! 」

 フレッジリングもすぐに出ていった。

「さてさて。桐生のサポートを任せると言われてもな。技術体系が私たちとは、全く別物だし、理論的にも不明な点が多過ぎて私にはお手上げなのだが。デバッガーの表面的性能を、我々の技術で形にしてもバッカーノが精一杯。どうしたものかね。」

 そう言ってバルカーノは珈琲をすすった。

「ブリギッテが淹れるようには、いかない面のだなものだな。」

 一方、桐生は一人悪戦苦闘していた。

『ワクチン生成完了。吸気弁より投与してください。』

「さて、交代しようか。」

 それは先ほどまで研究室の外で珈琲をすすっていたバルカーノだった。

「貸したまえ。」

 桐生から小型のボンベを受け取るとバルカーノは軽く頷いた。

「なるほど。虫と同化しつつあるため、血管の位置や四肢の細さ、外骨格である事を考慮して混合吸引式のワクチンか。冷凍睡眠中とはいえ、呼吸と心臓は動いているから、いい判断だ。肺から血流にワクチンを乗せるとなると、心拍数を回復させる為に冷凍睡眠を解除した方がいいのかな? 」

『否定。急速な昆虫細胞と人細胞の分離は患者への負担、身体への負荷、細胞結合の崩壊の懸念などから段階的に温度を上昇させるべきです。』

「なるほど。中途半端な技術が幸いしたな。」

 バルカーノの言葉に桐生が首を傾げた。

「中途半端? 」

「ああ。便宜上、冷凍睡眠コールドスリープと呼んでいるが、厳密には超睡眠ハイパースリープとでも云うべき技術でね。体温を下げて生命活動を低下させているだけで実際に冷凍している訳ではないんだ。だから何百年も保存出来る訳じゃない。我々の技術で本当に冷凍したら細胞破壊が起きて生命活動そのものが停止してしまうよ。貝なんか冷凍すると出汁が出やすくなるだろ? あれだ。」

「は、はぁ。」

 コンビニ弁当暮らしだった桐生には今一つピンとこない例えだったがバルカーノは構わす続けた。

「つまり、冷凍を解凍するよりは冷蔵を常温に戻すだけだから技術的難易度は低い。あとは分離状況を見極めながら徐々に温度を常温に戻す。」

 桐生にも、なんとなく冷凍り冷蔵の方が元に戻すのは容易いと言っているのだろうな、くらいには理解した。実験で二酸化窒素に入れた魚が水で泳ぎ出すのは凍結直後だからであり、電子レンジの解凍に入れても中途半端な半生になるくらいは、なんとなく分かる。

「という訳で桐生君、ここは私に任せて少し休みたまえ。」

 それから数時間後、バルカーノ邸にグリシア共和国評議会議員たちが押し寄せた。

「バルカーノ氏は何処に? こちらですか? 」

「お、おいっ! 」

 議員たちは桐生が呼び止めるのも構わず研究室の扉を開けた。そこで目にしたのは人型昆虫の殻を破って中から人間が出てくる処であった。

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