22:気合、悲哀、慈愛
「ココハ… 何処ダ? 」
人型昆虫No.11が目を覚ました。先に起爆装置を取り外す手術をした際に分かった事は、体組織が変化中である事だった。機械的な分野であればともかく、生物学的分野はバルカーノもマニーもお手上げだった。
「司令官、わかりますか!? 」
「ふれっじりんぐ伍長? 」
そう言ってからNo.11は自分の手を見て固まり、ゆっくりと鏡を見つけて愕然とした。
「ナ、ナンダ、コノ姿ハ!? 」
今にも暴れだしそうなNo.11にマニーが精神安定剤を打ち込んだ。
「司令官殿は? 」
フレッジリングは再び眠りについたNo.11を心配そうに覗き込んだ。
「この姿で急に記憶を取り戻したからね。パニクるのも、しょうがないわ。人間用の安定剤だから効果がどのくらい効くかわからないけど。」
「大丈夫でしょうか? 」
「生物学的に生命維持は可能だが精神的にもたなさそうだね。」
「? 」
フレッジリングにはバルカーノの言葉の意味がよく分からなかった。
「虫の姿に人の心。この司令官さんのメンタルじゃ受け止められそうにないって事。」
「治せるんですか? 」
このままでは司令官の心がもたない。
「取り敢えず起爆装置は外したんだ。一度、冷凍睡眠にする。」
「冷凍睡眠? 」
「酷い言い方かもしれないけど、レイカーの悪事を暴くには大事な証人だからね。何度も安定剤を打ち込むよりは安全だし、体組織の変化も抑えられるだろう。」
「だから、治せるんですかっ! 」
思わずフレッジリングも声を荒げてしまった。
「す、すいません。」
「いや、気持ちは察するよ。我々の技術では無理だが… 」
「だが? 」
バルカーノの次の言葉をフレッジリングは待った。
「人を虫に変える方法を生み出したレイカーなら知っているかもしれない。もしくは桐生の腕輪なら方法を見つけられるかもしれない。」
「それなら桐生の方が可能性高いわね。」
「何故ですか? 」
バルカーノの意見に口を挟んだマニーにブリギッテが質問した。
「人を人型昆虫にしてバレたら身の破滅だけどバレなきゃ、国民共通の敵であり恐怖を手に入れ、それと対峙する事で自分の地位も安定するでしょ。つまりハイリスクハイリターン。ところが人型昆虫を人に戻すってのは、わざわざバレるきっかけを作るようなものでハイリスクノーリターン。レイカーって自分の得にならない事はしない男よ。」
するとフレッジリングはいきなり部屋を出ようとした。
「おいおい、何処に行く気だね? 」
「そこに可能性があるのなら、デバッガーの援護に行きますっ! 」
「という事は君たちも行くんだろ? 」
バルカーノはやれやれという感じでマニーに声を掛けた。
「当たり前でしょ。人型昆虫の尋問しないんなら、ここに居ても仕方ないじゃない? 」
「一つ確認させてくれるかな。ブリギッテ、食事の支度は? 」
「温めればいいようにしてありますっ! 」
ブリギッテが返事をすると三人は飛び出していった。
「温める… ねぇ。」
一人残されたバルカーノはキッチンに向かった。
「こちらマルチナ。状況を教えて。」
「こちらデバッガー。人型昆虫は? 」
「司令官で間違いなさそうだけど色々あって凍結中。これから、そっちのバックアップに入るわ。」
「俺より機麟の方を頼む。」
「そうね。了解。」
「機麟? 」
機麟と聞いてフレッジリングは首を傾げた。
「あぁ、研究室に居たから知らなかったわよね。あんたの元部下たちが協力してくれてるのよ。今、人型昆虫を起爆させる電波の発信源の破壊に向かってるわ。」
「あいつら… 通信は? 」
「繋がる筈よ。」
フレッジリングにすれば元自分の居た部隊が使用していた周波数である。フレッジリングが回線を開くと激しい戦闘音が聞こえてきた。
「こちらバッカーノ。フレッジリングだ。何が起きてる!? 」
「伍長!? お元気そうで何よりです。」
「そんな悠長な事、言ってる場合じゃないだろっ! 」
「そういう真面目なとこ、変わんないッスねぇ。ただいま機麟部隊、市中手前の人型昆虫の起爆装置起動用電波発信源らしき電波塔付近にて、超大型昆虫サイボーグと戦闘中。」
「超大型? もしかして甲虫型? 」
「姉さん、よく御存知で。」
「誰が姉さんよっ! それより、そいつは機麟導入前に開発していた対虫決戦兵器の試作機、機生虫ヘラクレス。乗ってるのはレイカーよ。退きなさい。」
マニーは計器を見た。ブリギッテも飛ばしているようだが桐生のようにはいかない。
「詳しいんですね? 」
フレッジリングの問いにマニーは顔を顰めた。
「あれは言った通り、桐生が現れる以前にレイカーが計画、設計した決戦兵器よ。素体となる超大型昆虫の遺体入手が困難だし、素体を必要のない機麟が実戦配備されて計画は中止になったと思ってたのに… 。それにバルカーノの乗り物が変態にしか乗れないならレイカーのあれは天才にしか乗れない代物よ。まさか、ここで出してくるなんて。」
そのバルカーノの乗り物を操縦するブリギッテとしては一言、言いたかったが言える空気でもなかった。




