21:歓喜、反旗、勇気
桐生が到着すると、そこには意外な光景が繰り広げられていた。5機の機麟がオオクロアリ型の虫の侵攻を食い止めていたのである。マニーの傍受した情報とは些か状況が異なるようだ。
「お前たち、何をしている? 」
「お、機龍。フレッジリング伍長は元気にしてやすかい? 」
それはフレッジリングの元部下たちだった。
「今は機龍じゃなくデバッガーだ。それより評議会の命令は捕獲した人型昆虫の抹殺じゃなかったのか? 」
「命令? 知りませんね。俺たちは議長から市民を守れってお願いされただけですぜ? あんたも、バッカーノ博士も市民でしょ? 」
確かに桐生も立場は民間人ではある。レイカーの目的はさておき、お願いとやらに反してはいない。
「フレッジリングは捕獲した人型昆虫が司令官だと言って検査をしている。だから今は虫たちをあの家に近づけたくはないんだ。」
桐生は正直に今の状況を機麟部隊にぶつけた。これでバルカーノの家に向かうようなら行動不能に追い込むつもりもだった。
「了解。これより機麟部隊はバルカーノ邸の防衛の任につきます。」
「いいのか? 」
「伍長が司令官って言ったんなら司令官です。人型昆虫の抹殺は頼まれても司令官の暗殺は出来ませんからね。」
どうやら、いい意味でフレッジリングはバカな部下を持っていたようだと桐生は苦笑した。
「この場は任せたっ! 人型昆虫は出来るだけ捕獲してくれ。ただ、自爆させられる危険もあるから注意してくれ。機麟の装甲だともつかわからない。」
「了解。デバッガーも、お気をつけてっ! 」
桐生はフロードを飛ばして次へと向かった。
「やっぱり気分のいいもんじゃねぇな。」
桐生の眼前にはムカデとヤスデの大群が迫っていた。それでも陣頭指揮はやはり人型だ。
「地上で荷電粒子砲って訳にはいかないからな。超電磁ランサーっ! 」
デバッガーの手から超電導磁石の力で飛び出した槍は一直線に次々とヤスデやムカデを貫いては超電導磁石の力で手元に戻ってくる。それでも大群の進攻は止まらない。仲間の死体を乗り越えてくる。
「こんなもんかな。」
大群がある程度進んで来たところでデバッガーは地面に槍を突き立てた。
「くらいな、超電磁針鼠っ! 」
死体たちから針鼠の針のように地表に飛び出した電気の槍が上に居たヤスデやムカデの大群を下から貫いた。もともと虫たちは、この世界の電圧ならば外骨格を通して地面に逃がす事が出来た。つまり導体である。そこに過負荷をかけて電位差で稲妻が地表に飛び出すという理屈になっていそうでなっていない武器だった。この設定を考えた桐生自身、思った以上に設定通り発動した事に驚いていた。
「この世界の物理法則って大丈夫か? 」
だが、そんな事を心配している暇はなかった。またも人型昆虫は爆破されてしまった。
「マニー、人型昆虫の爆破を止められないのか? 」
「それが、誤爆を防ぐつもりかなんか知らないけど、周波数が一体一体バラバラで起爆装置を止められないのよ。せめて発信を止められればいいんだけど、今、桐生が行ったら、ここはおしまいよ。」
人型昆虫が人かもしれないなら、何とか助けたい。そう思っても手立てがなかった。
「フレッジリングはまだか? 」
「まだ、研究室から出てこないわ。マルチナで… 」
「いや、マルチナの攻撃力じゃ無理だ。バッカーノの機動力も考えると待機してくれ。」
「じゃあ、どうすんのよ? 」
「俺たちが行きますっ! 」
桐生とマニーの無線に別の声が入ってきた。
「話しは聞きました。蟻退治も終わったんで伍長の代わりは俺たちに任せてください。」
「そっちの人型は? 」
マニーの質問に答えはなかった。おそらくは自爆させられたのだろう。
「それじゃ、電波の発信元は頼む。」
「了解っ! 」
桐生に対し返答をして機麟部隊は無線を切った。だが、マニーが評議会側の無線を傍受出来るという事は、その逆がレイカーにも可能だった。どう暗号化スイートを組み合わせても限界がある。複合化鍵を見つけるのは不可能ではなかった。
「まったく、厄介な連中だ。バルカーノの知恵、マニーの知識、桐生の技術。どれをとっても忌々しき存在だよ。機麟に起爆装置も付けずに搭乗型にしたのは失敗だったかな。Ms.リー、機生虫ヘラクレスをスタンバイ。」
「あれを出すのですか? 」
「機麟を相手に書類通りのスペックが発揮出来れば性能テストとしては申し分ないだろう? 」
「ですが… 」
「わかっている。あれには私が乗る。なぁに、機麟部隊は街に入る前に食い止めて見せるさ。」
Ms.リーの心配をよそにレイカーはヘルクレスへと向かった。それは大型昆虫を遥かに凌ぐ超大型の昆虫のサイボーグだった。
「議長、イズミールから緊急要請です。どうやら送り込んだNo.6、No.7が暴走している模様です。」
「起爆… いや、暫く、そのまま暴れさせておけ。向こうの議会が壊滅すれば間接統治がしやすくなる。」
「承知いたしました。イズミールにはこちらも領内交戦中の為、支援不可能。健闘を祈る旨、返しておきます。」
「そうだな。助かるよ。」
レイカーはそう言ってからヘラクレスを起動させた。




