19:Sonic,Attack,Panic
「何とかって… 。ノゥレッジ、捕獲方法を検索っ! 」
『検索不能エラー』
そう簡単にはいかない。さすがに人の大きさとなれば翅脈も太い。それに、もしフレッジリング言うとおり機麟の司令官だとすれば、体内構造も人なのか虫なのか、まったくの別物かもしれない。
(頭を狙って脳震盪を起こさせるか? でも中身が虫なら神経節もあり得るか。こうなったら奴の超音波振動とデバッガーの衝撃振動の勝負だ。)
桐生は正面から突っ込んだ。それに対し人型昆虫は超音波を浴びせかけてくるが、ノウレッジの言った通り効果は無かった。
「議長、機龍たちはNo.11の捕獲を試みるつもりのようですっ! 機龍には超音波が効いていません。」
Ms.リーは今の様子をレイカーに報告した。
「それは拙いな。No.11を処分しろ。」
「よろしいのですか? 市中でそんな事をすれば人型昆虫が人体改竄によるものだと知られる可能性が… 」
「今回、機麟を出動させなかったのは私のミスだ。それにNo.11がバルカーノの手に渡れば決定的な証拠になりかねん。」
「承知しました。」
そう答えたMs.リーが何度も起爆ボタンを押し、焦ったように連打し始めた。
「どうしたんだい? 」
「作動しません。」
Ms.リーが起爆ボタンを押すより一瞬早く、デバッガーの拳が人型昆虫に当たっていた。拳から一瞬放たれた超振動が外骨格に伝わり全身を揺らした。これにより体内が人であれ虫であれ、脳震盪のような状態になっていた。その際、偶然にも起爆装置にも損傷を与えていた。長時間の振動には人型昆虫の身体がもたないと判断して一瞬にしたのが幸いしていた。さもなければデバッガーもろとも爆発していたかもしれない。
「バッカーノ、拘束して連れ帰るぞ。」
「はいっ! 」
フレッジリングは特殊な機具で捕縛するとマルチナの上に固定した。
「じゃ、早いとこ帰って調べましょ。」
マニーが合図を送ると頷いたブリギッテがアクセルを踏み込んだ。
「No.11、捕獲されました。」
起爆しなかった時点で次の手を考えていたのだろう。レイカーの指示は迅速だった。
「全人型昆虫にNo.11の奪還を指示するんだ。私は全機麟にNo.11の殺処分を指示してくる。」
「さすが議長。人型昆虫が奪還出来ればよし、出来なくても機麟で始末するのですね。」
「あぁ。そして、逃げ送れた民間人科学者に不幸な出来事が起きたとしても不慮の事故だ。」
それを聞いたMs.リーは口許に薄い笑みを浮かべると小さく頷いてからマイクに向かった。
「クィーンが命じる。人型昆虫No.11が拿捕された。全力で奪還せよ。繰り返す。全戦力を挙げて同胞を奪還せよ。」
そしてレイカーも別のマイクに向かった。
「こちらは評議会議長のレイカーだ。議長権限で機麟部隊にお願いする。民間人科学者が人型昆虫を捕獲、拘引した。だが、諸君等も知っての通り、あれは民間の手に負える代物ではない。逃げ出して暴れる前に、市民に被害が及ぶ前に、見つけ次第、抹殺してくれたまえ。市民の安全は諸君等の活躍に懸かっている。頼む、君たちの手で市民を救ってくれっ! 」
女王ことMs.リーの命を受けた人型昆虫のNo.2からNo.10はそれぞれに大小様々な虫を引き連れ、同胞であるNo.11を奪還すべく、バルカーノの家に向かって進撃を開始した。その様子は、さながら百鬼夜行のようである。一方でグリシア共和国の最高機関であるグリシア評議会の議長であるレイカーからお願いされた機麟の部隊もまた、市民の平和な生活を守る為に拘引された人型昆虫を抹殺すべくバルカーノの家に向かって進軍を開始した。そして、バルカーノの家に戻ってきたマニーが通信機の前でインカムを着けたまま頭を掻いていた。
「あぁっく。軍の無線を傍受してたら、虫の大群と機麟の大軍が、ここ目掛けて押し寄せて来るみたいよ。」
それを聞いたバルカーノは呆れたように溜め息を吐いた。
「いくつか想定していたが、最悪な方になったみたいだな。今、人型昆虫を動かす訳にも奪われる訳にも殺させる訳にもいかない。もし、あの人型昆虫がフレッジリングの言うとおり元司令官なら鍵になるかもしれないから、フレッジリングは私と一緒に来てくれたまえ。ブリギッテはまだ間に合うからマニーと一緒にマルチナでスミュルナ公国に脱出するんだ。フェルト公太子には私から連絡を入れておく。桐生君はすまないが我々がレイカーの尻尾を掴むまで、時間を稼いで貰えるかな。」
「お断りよ。」
「お断りしますっ! 」
マニーとブリギッテが立て続けに拒否をした。
「これは私の予想だが、おそらくレイカーにとって一番の邪魔者は我々だ。今回の目的も人型昆虫に託つけて我々を始末する気だろう。こんな貧乏科学者と一緒に命を散らす必要はないと思わないか? 」
「評議会や軍の通信機は私が国立機械研究所で開発したものよ。私が居ないと、暗号解析含めて奴等の傍受なんて出来ないでしょ? 」
そう言いながらマニーは視線で桐生を威圧した。ノウレッジには可能かもしれないと思ったからだ。




