16:Lead,Read,Leed.
「行くのかい? 」
グリシア評議会からの要請に出撃しようとした桐生をバルカーノは呼び止めた。
「何故? 」
バルカーノの言葉の意味を捉えかねた桐生は聞き返した。
「君も薄々気がついているのだろ? だからフェルト公太子と接触した。違うかね? 」
「だとしても、街の人が虫に襲われているのは現実だろ? 虫退治はデバッガーの役目だからな。」
「機龍なんて響きよりデバッガーの方が桐生君らしい気がするな。」
「俺もそう思う。それじゃ… 機装、天鎧っ! 」
桐生は飛び出して行った。
「バルカーノ、何か桐生をサポート出来るような機械は無いの? 」
マニーの言葉にバルカーノは怪訝そうな表情を見せた。
「意外だな。君はレイカー側の人間かと思っていたよ。」
「やめてよね。私は私のやりたい研究をさせてくれる方につくだけ。レイカーの茶番劇につきあうつもりは無いわ。」
「… 分かった。信用しよう。実はブリギッテが桐生をサポートする為に私の大型武装車を改造しているんだが、手伝ってやってはもらえないか? 」
「あらあら、自分の弟子を押しつけるつもり? 」
「押しつけるなんて、とんでもない。あの娘は優秀な娘だ。だから私だけでなく幅広い技術を学ばせてやりたい。それに私より多くの桐生君の戦いを眼にしてきた二人の方が、彼に本当に必要な装備が造れるだろ? 」
「… わかったわ。あの腕輪が繰り出す物より優秀な物が出来るかわからないけど、やってみるわ。」
マニーは研究室へと向かった。
※※※※※
ただ一人。桐生だけが戦っていた。人間を襲うよう命令されたインセクターたちは群れて行動していた。クィーンの命令で動くような虫はほぼ集団行動である。桐生はその中に飛び込んだが、機麟は街を防衛する為の盾として持ち場を離れず援護をしない。桐生としても喋れる人型昆虫と接触のチャンスかと思われたが、群がる虫たちは人型昆虫に近づく隙を見せてはくれない。
「ノゥレッジ、デバッガーに何か武器は無いのか!? 」
『声紋を確認。網膜、指紋、静脈、生体認証オールクリア。プレイヤーを機士コウガ・キリュウと承認。天鎧呼称を機龍からデバッガーに上書き。選択されたタイプは単体戦仕様の為、ボス戦、レイド戦等に威力を発揮します。集団を殲滅するには範囲攻撃等の出来るユニットと連携を図ってください。』
「つまり無いって事か。」
デバッガーの標準武器は基本、腰の後ろの釵型のパーツを変形させて使う。汎用性は高く、威力も大きいが、1つしか付いていなかった。
「こいつは要バランス調整だな。」
それでも桐生は何とか寄って集って来る小型の虫・・・といっても人間の赤ん坊くらいはあるのだが・・・を切り払いながら一匹の人型昆虫に近づいた。
「おい、話しを聞いてくれっ! 」
「話ダト? コレダケ我等ノ同胞ヲ殺シテオイテ、ソレコソ虫ノイイ話ダ。」
人間の理屈でいけば正当防衛だが、相手は虫だ。人間の政治家ならば戦地の兵士にどんなに犠牲が出ていても話し合う事はある。しかし、人間同士でも国や宗教の違いで通じぬ事もある理屈が、種族も立場も違うのであれば難しいのかもしれない。それでも桐生は話しかけた。
「だったら人間を襲うのを止めてくれっ! そうすれば俺も戦闘を止める。」
「くぃーんノ命令ハ絶対ダ。」
「なら、そのクィーンに会わせてくれっ! 」
「駄目ダ。貴様ガくぃーんヲ殺サナイ保証ガ何処ニ在ル? 」
信頼関係の無い状況では無理もない。そして問答無用に大型虫を投入してきた。現れたのは蜘蛛タイプと蠍タイプ。蜘蛛タイプは以前にも戦っているが、どうやら種類が違うようだった。桐生にとって幸いなのはデバッガーはボス戦、レイド戦向き。つまり大型の相手の方が得意な点である。しかし、桐生が大型の相手をしているうちに小型が市民を襲うかもしれない。桐生知る限り、機麟の搭載兵器は大型の虫を想定したものであった筈。
「お待たせっ! ノゥレッジ、繋がってる? 」
『感度良好。声紋確認。マニー。』
「わ、私も居ますっ! 」
『声紋確認。ブリギッテ。』
それは、桐生にとって見たとこもない外装の車両兵器だった。
「… なんだ、ありゃ? 」
『外観データ、一致する物なし。識別データ、バルカーノの大型武装車と一致。』
「聞こえてんなら避けてよっ! 」
マニーの声と同時に武装車両から巨大な網が打ち出された。おそらく大型の虫ならば引き裂かれそうなものだが、上手く小型の虫たちだけに掛かった。
「うぅん、さっすがデバッガールの共作。照準バッチリ! 」
「マニーさん、勝手に変な名前つけないでくださいっ! 」
通信機の向こうで何やら揉めているようだが、ブリギッテとマニーが造った武器のようだった。それも殺傷兵器ではなく捕獲用というのが二人らしい。以前に戦った蜘蛛タイプの蜘蛛の巣を参考にしたと思われる粘着式の捕獲網だ。
「隊長、民間人にだけ戦わせていいのですかっ!? 」
「議長からの攻撃命令は出ていないっ! 」
「そんなのクィーンの命令は絶対とか言ってる虫達と同じじゃないですかっ! 俺、行きますっ! 」
一機の機麟が動き出した。




