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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
15/30

15:話して。離して。放して。

 この日、レイカーに呼び出されてマニーはグリシア共和国国立機械研究所にやって来た。

「評議会議長室じゃなくて研究所に呼び出すなんて珍しいわね? マスコミに逢い引きなんて書かれたらスキャンダルでイメージダウンするわよ? 」

「まず、君も私もマスコミにつけられるような下手な真似はしない。そんな記事を書けるマスコミは存在しない。なにより、これは逢い引きではない。」

 真顔で答えるレイカーに、マニーは呆れた。

「それで。何の話なの? 」

「少々、桐生君を自由にさせ過ぎたようだ。桐生君がスミュルナ公国のフェルト太子と密会していたと密告があってね。」

 ますますマニーはレイカーに呆れた。

「密告じゃなくて報告でしょ? 尾行だかスパイだか知らないけど、あんまりいい趣味じゃないわね。」

「フッ。まぁそう言ってくれるなよ。桐生の機龍は、この世界にとってオーバーテクノロジーだ。彼はこの世界の救世主にも支配者にも破壊者にもなりうる。彼一人で勢力図は変わる。パワーバランスは彼が握っていると言って過言ではない。彼の戦力は機麟で止められるものでもない。救いなのは、今は彼に野望も野心もない事だ。」

「それで? 私と何の関係があるの? 」

 納得するかは別としてレイカーが何を言いたいかは判った。だが、それと自分を呼び出した理由がマニーには結びつかなかった。

「単刀直入に言おう。彼を口説いて欲しい。上手くいったら君に評議会委員… いや、評議会副委員長でも国立機械研究所所長でも好きなポジションを用意しよう。」

「それならブリギッテの方が適任じゃなくて? あの桐生かれが気になるみたいだし。」

「いや。あの娘は学術院時代から才能は評価していたんだが、研究所に入所するよりバルカーノの弟子になる事を選んだ娘だ。こちらの言うことを素直に聞いてくれるとは思えない。」

 レイカーからすれば、ブリギッテの選択はあり得ないものだった。自分の常識から逸脱しないマニーの方が適任と判断したのだろう。

「悪いけど、お断りよ。」

 この回答もまた、レイカーにはあり得なかった。

「何故だ? 評議会副委員長や国立機械研究所所長の座では不服だと云うのか? 」

「そのポストは確かに魅力的よ。でもね、人を道具みたいに考えてるのが気に入らないのよ。」

「ならば、何故ブリギッテの名前を出した? 」

「単純よ。貴方の意図が聞きたかっただけ。まぁ、本当にあの娘を利用しようとしてたらバルカーノに告げ口したけどね。」

「という事は今回は黙っていてくれるのかな? 」

「まぁね。未遂だし、必要以上に波風立てたくもないし。」

「あまり賢すぎると苦労するよ? 」

「他人に利用されるよりマシよ。じゃあね。」

 研究所から立ち去るマニー後ろ姿を物陰からレイカーの秘書官、リーが睨むように見送っていた。それから程なくしてレイカーが出てきた。

「Ms.リー。例の準備を前倒しで進めて貰えるかな? 」

「よ、宜しいのですか!? 」

「善も悪も私の掌の上で予定調和を奏でる筈だったんだが… どうやら桐生君は取り込めなさそうだ。となれば不協和音。きっとバルカーノもマニーもノイズを奏で始める。彼らの技術がスミュルナ公国に渡る前にイズミールの親グリシア派を煽動して食い止めねばならない。頼りにしているよ。」

「承知致しました。」

 リーも一礼をすると足早に立ち去った。

「世を束ねるのに一番効率的なのは巨大な敵を創り上げ、それをギリギリで追い払う事だ。倒してしまえば支持は続かない。圧倒してもいけない。ギリギリのところで自分達を守り続けてくれる。だからこそ評議会の指導が支持を得ている。この安定した戦況を桐生1人に終息させられては困るのだよ。」

 レイカーも、この理屈を万人が理解するとは思っていない。だから評議会の中でも知る者は居ない。むしろ、そんな事には気づきもせず私利私欲で議員の座に固執する人間の方が御し易い。そんな中に在って計画を打ち明けられたリーは自分は信用されていると思っていた。そして支持から信奉、傾倒しレイカーの望みを叶えようとする。

「インセクター2番から10番まで起動。」

 リーの操作で既に欠番となっている1番を除きケースのランプが赤から緑へと変わる。ギシギシと不気味な音を立て、ケースの中から9体の人型昆虫が姿を現した。

「クイーンが命じる。各インセクターはバグを引き連れて人間たちを襲えっ! 」

 姿を見せず、スピーカーから聴こえるリーの声をクイーンの声と信じてインセクターたちは行動を開始した。一方でレイカーは緊急議会を召集していた。

「虫たちの集団行動を確認した。機麟を全機出動。イズミールへも出動を要請する。バルカーノのところへ機龍の出撃を要請してくれたまえ。」

 枝に描いたような自作自演。だが表舞台には、まだ出ない。レイカー荷にとって桐生によって予定より早まった開幕である。まだ誰もレイカーの書いた筋書きを知らない。

「これは予定調和の修復なのだよ。全ては私の描く未来の為に。」

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