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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
14/30

14:戦線の前線・臨戦

 その後も単発的に大型昆虫の侵攻は繰り返されたが、喋る人型昆虫の報告は無かった。これを口実にグリシア共和国評議会は虫との話し合いを議題として取り上げなかった。

「では、次の議題に移ります。イズミール連邦議会より機麟が本当に対虫兵器ならば、無償提供して欲しいとの申し入れが正式にありました。」

 この議題については様々な意見が出た。

「無償提供とは、それこそ虫のいい話ですな。我が国とて開発費が掛かっておる。対価を求めるべきでしょうな。」

「いや、軍事協定を締結の後に無償提供を行い、軍事費、人件費の抑制に繋げるが宜しかろう。」

「そもそも機麟は機龍研究過程の副産物。まだ、他国に供給出来るレベルではありますまい。」

「重要軍事機密として拒否すべきです。」

「軍事輸出産業の活性化の為に今回だけ無償提供するのは如何だろうか? もちろんメンテナンスや消耗パーツ、新機種への更新などは有償にするとしてですが。」

 すると、レイカーはやおら立ち上がった。

「諸君。様々な貴重な意見、拝聴した。だが、ここはどうだろう。強大な虫の脅威に対し、共に戦う同士として、人道的見地から鑑みてもイズミール連邦の希望通り、機麟を無償提供してはどうだろうか? もちろん、開発中の機体であり、こちらとしても色々と保証出来ない点を了解いただければだが。」

 レイカーが言えば意見ではなく結論である。それに評議会議員たちも自分たちなりにレイカーの言葉を解釈していた。曰く、イズミールに機麟の実戦テストをさせるつもりだと。この結論は公式にグリシア共和国評議会の決定として速やかにイズミール連邦議会に通達された。お陰でイズミールでは親グリシア派の発言力が増し、スミュルナ公国のフェルトが提出した『グリシアの対虫装備の軍事転用に対する懸念』については取り下げざるをえなかった。

「どうなさいますか、太子。」

 侍従らしき男がフェルトに声を掛けた。

「メンテナンスはグリシアが行う… 開発中の機体だから製造責任を持つと言えば聞こえはいいが、こちらが分解調査などすれば、直ぐにバレると云う事だ。スミュルナだけがイズミールの決定に背くような真似は出来ない。それこそグリシアの… レイカー議長の思うツボだ。」

「では? 」

「次にスミュルナに虫が出た場合は、私が機麟で出る。分解は問題でも、実戦データの収集は問題あるまい。」

「ならば、兵士に… 」

「いや。私が直接確かめたいんだ。ボンボンのワガママと受け取ってくれていい。」

「いえ。太子は騎士としても一流であらせられますが… 前例の無い事ですので機乗テストは念入りにお願い致します。」

 フェルトと侍従のやり取りは、そこで終わった。

「太子、お客様です。接見の予約の無い方はお断りしていると申し上げたのですが… 」

「どちら様だい? 」

「桐生と名乗られています。」

「わかった。直ぐに行く。」

 侍従は一礼すると部屋を出た。フェルトもまた応接室へと向かった。

「急に来て申し訳ない。」

 応接室で待っていた桐生は第一声で急な訪問を詫びた。フェルトは辺りを見回すが他に人影は無かった。

「今日はお一人ですか? 」

「あの二人を連れてくると騒ぎになるからな。」

「… 了解した。イズミールの要請でもグリシアからの派遣でもなくスミュルナを訪れたのは観光ではない、と云う事だね。喋る人型昆虫の件かな? 」

「察しが良くて助かる。今のところ、喋る個体は、あの一度しか現れていない。また、あいつの仲間が現れるとしたらスミュルナの確率が今のところ高いんじゃないかと思ってね。今度、現れたら倒す前に俺に直接、連絡を貰えないか? 」

 するとフェルトは考え込んだ。

「難しい話しだな。スミュルナ公国の太子が、イズミール連邦議会もグリシア共和国評議会も通さずに虫の件で君に連絡をする事が一つ。人型昆虫の行動半径が大型昆虫と同程度なら確かにスミュルナに巣がある可能性もあるが、その点について何の確証も無い点が一つ。次にスミュルナに虫が現れた場合、機麟が出撃する事になる。人型昆虫からすれば仲間を殺生した同型機に対して全力で攻撃を仕掛けてくるだろう。こちらも君の到着を待つ余裕があるとは思えない点が一つ… だ。」

「やっぱ、そうだよな。せめて巣の場所に見当でもつけば乗り込むんだが… 悪ぃ、忘れてくれ。」

「待ちたまえ、桐生。」

 諦めて立ち去ろうとした桐生をフェルトが呼び止めた。

「どうやら君は、レイカー議長に対して私と似たものを感じているようだね。いいだろう、確約は出来ないが現れたら努力はしてみよう。」

「… ありがたいが、さっきの問題点はいいのか? 」

「なに、機麟に搭乗して出撃するのは私だ。出撃前に個人的友人に連絡をするのに、わざわざ国を通す必要もないだろう? 」

 桐生とフェルトは固く握手を交わした。そして桐生を見送るとフェルトは自室で独りになった。

(桐生に裏表は無いだろう。機龍の性能ならグリシアに気づかれる事もあるまい。怖いのはレイカーただ1人だ。)

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