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機装天鎧デバッガー  作者: 凪沙一人
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1:空想・機装そして転送

「くっそぉ~、終わらねぇ~。」

 リリース間際だというのに桐生 甲雅はデバッグ作業に追われていた。

「桐生さん、大丈… 桐生さん、桐生さんっ! 」

 意識が遠退くのと同時に、若手社員の桐生を呼ぶ声が遠退いていった。



 ※※※※※



「なんだ、ここは… 医務室か? 」

 朦朧とした頭で、桐生はベッドの上に居る事は理解した。

「やべぇ、デバッグっ! 」

 急に起き上がったものだから、軽い貧血を起こして転がり落ちてしまった。その音に驚いたのか、慌てて駆け寄ってくる足音がした。

「大丈夫ですかっ!? 」

「だ、大丈夫だ。それより、デバッグの進捗は… 」

 桐生がそこで言葉を止めたのは、目の前の人物に見覚えが無かったからだ。そして、周囲を見回すと景色にも見覚えが無かった。

「ここは何処だ? 君は何者だ? 」

「ここは、私の家です。私は機鋼師のバルカーノ。人助けは趣味ではないのですが、その手首の機械に興味が沸いたものでね。」

 手首の機械と言われて桐生は腕時計なんて、もう何年もしていないはずだと思いながら目をやった。そこには見覚えのある機械が装着されていた。

「え!? まだ、リリースもしてないゲームのギミックをグッズ化したのか? テストショット? モック? それにしても、よく出来て… !? 」

 外そうとしたが、外れない。

「おやおや、外せないのですか? 生きた方の手首を切り落とすのは忍びないと弟子が言うので目覚めるのを、お待ちしたのですがねぇ。時間の無駄でしたか。」

「物騒な事、言ってんじゃねぇっ! 」

 思わず桐生はバルカーノを怒鳴りつけた。その声に驚いたのか、随分と軽い足音が近づいて来た。

「先生っ! 」

 扉をバタンと勢いよく開けた女性も、バルカーノを怒鳴りつけていた。

「ブリギッテ、大声を出したのは彼だよ。」

「また先生が、ろくでもない事を言ったんでしょっ! 」

 どうやらバルカーノの口が悪いのは、いつもの事らしい。

「手首を切り落とすのは本気だったんだがねぇ… 」

「せ・ん・せ・いっ! 」

「ふぅ、人間の相手は君に任せるよ、ブリギッテ。」

 仕方なさそうにバルカーノは部屋を出ていった。

「えっと、ブリギッテさん。ここは何処なんだ? 」

「え? ここは先生の家で… 」

「いや、そうじゃなくて。どう見ても日本家屋じゃないし、ブリギッテさんたちも日本人じゃない。ここは何て国の何処なんだ? それとも、俺の夢の中か? 」

 そう言うと、桐生はいきなりブリギッテに頬を摘ままれた。

「痛いですか? 」

いらい… 」

「じゃ、そういう事です。」

 ブリギッテは微笑みながら、桐生の頬を離した。

「そういう事って? 」

 桐生は摘ままれた頬を擦りながら聞き返した。

「ここはグリシア共和国のレイカ村。私の事はブリギッテでいいですよ。」

 桐生は天井を見上げて30秒ほど沈黙した。

「だ、大丈夫ですか? 」

 すると桐生は突然、腕の機械に話しかけた。

「ノゥレッジ、ここは何処で今日はいつで、俺は何者だ? 」

「急にどうし… 」

 桐生はブリギッテの顔を見ると口唇に自分の人差し指を当てて黙るよう促した。

『現在地、グリシア共和国レイカ村。本日、颯の月十と六の日風曜日。貴方は機士コウガ・キリュウ』

「えっ、腕輪が喋った!? せ、先生~っ! あの腕輪、喋りましたぁ~っ! 」

 ブリギッテが扉も閉めずに、慌ててバルカーノを呼びに行く姿を桐生は呆っと見送った。

「ノゥレッジ、これは夢か? 」

『否定』

「ノゥレッジ、俺は転移したのか? 」

『否定』

 桐生は一度、ため息を吐いてから、恐る恐る尋ねた。

「ノゥレッジ、俺は… 転生者か? 」

『肯定』

 桐生は肩を落として頭を抱えた。

「あのまま、死んだのか、俺… 。ノゥレッジ、俺が倒れた後の事、分かるか? 」

『死因、心不全。個人事業主のため、企業側から一切の保証は無し。過労死の疑いで監督官庁より捜査。その後… 』

「いや、どうせ家族居ないから金、出ても受け取る人間居ないから、そっちはいい。ゲームはリリースされたのか? 」

『リリース直前に若手社員が重大なバグを発見。リリースを中止し、再度、一から開発する事になりましたが、リリース延期が響き、会社更生法を申請。』

「俺の遺作が… あれ、企画からタッチしてたんだけどなぁ… 」

 落ち込んでいる桐生の元へ、バルカーノが嬉々として戻ってきた。

「君の腕輪、喋るそうじゃないか。私にも聞かせてくれないか? 」

 そんなに目新しいゲームを作っていたつもりは無かったが、自分が転生者になったのは流行り物に乗ったみたいで納得がいかなかった。それでも、帰る場所も無い事がハッキリした以上、ここを追い出されるのも拙いという頭が働いた。

「ノゥレッジ、バルカーノについて。」

『機剛師バルカーノ・ハーデッド。元政府機関… 』

「も、もういい。君、迂闊な事は聞かないようにね。君はどうでもいいんだが、その腕輪には益々興味が沸いたよ。暫く、此処に居たま… 」

「きゃーっ! 」

 バルカーノの言葉を遮るようにブリギッテの悲鳴が聞こえて来た。声のした方へ行くと、壁を突き破って巨大な虫のような物が蠢いていた。

「ノゥレッジ、こいつは? 」

『初心者用虫型モンスター、バグです。』

「死んでまで虫取デバッグかよ… 。ノゥレッジが活きてるって事はいけるよな。転送、機装天鎧っ! 」

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