底辺ザコ野郎はスローライフの夢を見ない その⑤
針の群れが僕へ飛来し、そして、僕の周囲に到達した瞬間、粉々になって散った。
「!?」
ハリシも予想外だったようで、軽く眉に皺を寄せている。
「殺人鬼……何をしたのかな?」
「教えると思いますか?」
「お前なら教えてくれると思ったがな」
「なるほど。では期待に応えてお教えしましょう。スーパーハイパーウルトラバリアといって、僕の周りには見えない壁があるんですよ」
「それは嘘だな」
「嘘です。……教える気はありません」
「そうか。残念だな」
要するに、スキルの応用だ。
【切断】の見えない刃を、それ自体を追尾するよう設定して発射する。こうすることで、刃は永遠に動き続ける。
犬が自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回るようなものだ。
その刃を幾重にも重ね、僕の周囲を回り続けるように設置すれば、僕に近づくものを自動的に切り刻む壁代わりになる。
上手くいくかかなり不安だったけど、まあ、なんとかなって何よりだ。
「さあ、どうしますか? これであなたの針は無効化されましたよ」
「そうかな。いや、仮にそうだとしても、関係ないがな」
「関係ない?」
「ああ。お前に攻撃できないのならば、お前以外を攻撃すればいい」
「僕以外?」
僕以外を攻撃?
どういうことだ?
「お前を殺せないのなら、お前と一緒にいたあの女を殺す。できればお前の前で、できるだけ残酷に」
「!」
ハリシは懐から無造作に注射器を取り出し、それを自らの首筋に突き立てた。
「強化薬……こいつは、便利な代物でな」
「おいおい……」
よせよ。
これ以上強くなられちゃ、ますます手が付けられない。
「この薬で強化された俺の速度に、お前じゃついてこれないだろうな。そして」
ハリシが指を鳴らす。
その瞬間、僕の体が今までの分を取り返すような強烈さで痛み出した。
「うっ……!?」
思わず膝をついてしまう僕。
「特別大サービスで教えてやろうかな。俺のスキル【幻痛】は痛みを操るスキルなんだな。せいぜい痛みの中で足掻くんだな、殺人鬼」
そう言い残し、ハリシは走り去った。
目に見えないような速度で。
ミアが危ない。
なのに。
なのに、僕の体は。
痛みで動けない。
両手両足が、串刺しにされているように痛い。
体中が引き裂かれるように痛い。
「……ミア……!」




