底辺ザコ野郎はスローライフの夢を見ない その③
さあ、どうする?
敵は僕を殺す気でいる。
右足から針を引き抜くこと自体はそう難しくはない。
問題は、敵がそれを許してくれるかどうかだけど。
きっと、僕が針を引き抜く挙動を見せた瞬間に襲ってくるだろう。
かといって、このまま止まっていても僕が不利である状況は変わらない。
……だったら、逆に相手を利用してみるか。
僕は足に突き刺さった針を引き抜くため、屈んだ。
同時に、ハリシが僕の方へ突っ込んでくる――が、すぐに立ち止まった。
「どうしたんですか? 来ないんですか?」
「やめておこうかな。お前が攻撃を誘っているように思ったからな」
「よく分かりましたね」
僕は針を抜き取り、立ち上がった。
僕の周囲には、【切断】の見えない刃が滞空していた。
もし相手が攻撃してきたなら、その体を引き裂いてやれたんだけど。
「お前のような人間が簡単に隙を見せるはずもないからな」
「すごい観察眼だ」
「趣味は野鳥の観察だからな」
「……それ本当ですか?」
「まさかな」
「信じかけましたよ。詐欺師でもなった方がいいんじゃないですか?」
「人を騙すのは卑怯者のすることだな。俺はそういうのは気に入らないな」
露骨に嫌な表情をするハリシ。
そして僕は、僕に迫る針の先端を見た。
「!」
判断は一瞬。
【死線】で針を切り落とす。
【切断】では、針の勢いを殺せないみたいだったからだ。
だけど、気づいたときには、僕の顔面にハリシの膝がクリーンヒットしていた。
「うっ、ぐ!」
よく分からない呻き声が出た。
思わず顔を抑えた瞬間、次は腹に拳の直撃を受けた。
「良くないな、殺人鬼。もう少し周囲に気を配れる人間だと思っていたが、俺の勘違いだったかな?」
「物事を同時進行で進めるのは、昔から苦手なんですよ」
殴られた衝撃で、胃から苦いものが込み上げてくる。
僕は、苦し紛れに【切断】と【貫通】を乱射し、ハリシから離れた。
ハリシは、そんな僕の攻撃を難なく回避する。
畜生、こいつは僕の両親を殺した敵だ。
同時に、僕の獲物を奪ったということにもなる。
だからできるだけ苦しませて殺したいんだけど。
だけど……そんなこと言ってたら、殺されるのは僕の方になる。
かといって【死線】を当てて即死させるのも、簡単なことじゃないだろう。
はっきり言って、この敵は強い。
……なんでこんなやつが僕の地元にいるんだ?
殺人犯のいる街なんて、嫌なところで生まれ育ったものだなあ、僕。




