だから僕は、長生きができない。 その⑦
「えーくん、すぐに手当てをしてあげるわ」
「今はいいよ。それより、早くここを離れなきゃ……」
「おかしいな。完全に死角をついたつもりだったがな」
あの、ハリシとかいう男の声だ。
僕は上を向いた。
僕らが隠れていた建物の影、その屋根の上には、案の定あの痩せた背の高い男が立っていた。
「仕方ない。僕が足止めする。ミアは逃げて」
「……分かったわ」
ミアは頷き、再び走り出した。
「女を逃がしたな? あいつは、お前とどういう関係なのかな?」
「あんたには関係ないでしょ」
「それは間違いだな。お前を殺した後、あの女も殺さなきゃならないからな。目撃者は消しておくのが殺人者の鉄則なのを、お前は知らないのかな?」
「人を殺しちゃだめだって、小さいころ教えてもらいませんでした? やっちゃいけないことに鉄則も何もないでしょう」
「だとしたら、お前も俺もやっちゃいけないことをやってる――人の道を外れた外道だということだな」
「変な仲間意識を持たれても困るんですけど」
「そうかな。だったら俺がここで殺してやる。死んでしまえばもう二度と困るようなこともないだろうからな」
「余計なお世話ですよ、それは」
「なに、心配するな。さっき逃げた女もすぐに殺してやるからな。せっかくだからお前の目の前で殺してやるのもいいな。お前はあの女がみじめに死んでいくのを見ながら死ねるというわけだな。人が苦しみながら死ぬ瞬間ほど、見ていて気持ちのいいものはない……そう思うが、どうかな?」
「僕は痛かったり苦しかったりするのは嫌いです。やるなら即死で頼みますよ」
「その希望には答えかねるな。やはりお前と俺は同じ殺人者にして相容れない存在というわけだな」
「勘違いして貰っちゃ困るんですけど、僕は好きで人を殺してるってわけじゃないんですよ。ギルドが僕を雇ってくれていれば、僕はきっと真面目に働いていたでしょう。人殺しとは縁のないところでね」
そもそも、どうしてこいつは僕のことを知ってるんだ?
……ロプテさんが喋ったのかな。
こんなことならもっとひどい目に遭わせておけばよかった。
いや、むしろ真摯な態度で説得しておいたほうがよかったのだろうか。
人の心って難しいなあ。
「さて、殺人鬼」
「えーくんって呼んでくれますか? ……親しみを込めて」
とにかく今は、この状況を打破しなきゃならない。
あーあ、せっかくの里帰りだっていうのに、ろくな目に遭わない。




