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ぼくのしんぞう@がんばらない


 かくして僕は少女の家に足を踏み入れることに成功した。

 名も知らぬ少女の。

 名も知らぬ……。


「ねえ、君、名前は?」

「私? 私はミア・ミザル」


 よし、これで彼女は名も知らぬ少女から名前は知ってる少女に格上げされた。

 だから何って感じだけど。


 少女――ミアの部屋は狭く、ベッド一つとテーブルが入るので精いっぱいだった。

 仕方なく僕はミアのベッドの上に座っていた。

 お世辞にも高級そうには見えないベッドだったけれど、昨日僕が眠った路地のタイルの上よりはよっぽど柔らかかった。


 床に座ったミアは、僕を見上げたまま、


「あなたの名前は?」

「僕? そんなたいした名前じゃないよ。えーくんとでも呼んでくれればいい」

「じゃあ、えーくん。あなたはどうしてギルドに入れなかったの?」

「スキルのせいだよ。本当、産業廃棄物みたいなスキルでね。文字通り死ぬほど役に立たない」

「そうなの? あなたくらい強ければ、冒険者としてもやっていけそうだと思うのだけれど」

「残念だけど、こういうふうに戦えるようになったのは学校を卒業してからなんだ。だから、ギルドに入るにはちょっと遅かった。間が悪いんだ、僕って」

「ふうん。私を助けてくれたのも、間が悪かったわけ?」

「どっちかというと、魔が差した……かな? ところで飲み物とかないの?」

「……えーくん、君、図々しいって言われない?」

「卒業してから、遠慮してたら生きていけないってことに気付いたんだ。あ、勘違いしないでね。僕が卒業したのは魔導学校であって童貞じゃないから」

「誰も聞いてないわよ、それ」

「そう? 知りたがってるように見えた」

「デリカシーがないとも言われないかしら?」

「なんでわかったの? 君、もしかして僕のストーカー?」


 やれやれという顔をするミア。


「話を変えるようで悪いけど、ミア、君はどうしてギルドに入れなかったの?」

「簡単に言うと、部族のせいだわ」

「部族?」

「そう。見て」


 言うと、ミアは僕に背を向けて、いきなり上半身に着ていたものを全部脱ぎ去った。

 彼女の白い肌が部屋の明かりの下にさらされる。


「わーお、こんなところで女の子のストリップが見れるとは思わなかった」

「そう? じゃあ、一生の思い出にして」


 だけど、さすがの僕も気づいていた。

 彼女の背中に大きく描かれた刺青のようなものに。

 それは、古代文字と呼ばれる文字の羅列だった。

 そしてそれこそ、彼女があの忌まわしきジャギア族であることを示すものだった。


 ジャギア族。


 魔導王国グラヌスに最後まで抵抗した蛮族。

 グラヌスが創られた千年前以来、その血を継ぐ一族が北の地で暮らしていると聞いたことはあるけど。

 本物を見るのは、僕も初めてだ。


「すごい……」

「偽装魔法で隠して入学して、卒業するまでは良かったのだけれど、そこまでだったわ」

「まあ、隠し事は良くないっていうしね」

「…………」


 ミアが僕を睨む。

 怖。


 僕がビビったのを見て満足したのか、ミアは服を着なおす。


「どうしてジャギア族ってバレたの?」

「偽装魔法が解けてることに気付かなくて、背中の呪印が見られてしまったの。決まっていた魔法研究者の仕事も取り消し。挙句の果てに、君みたいな変な人に捕まってる」

「それは災難だったね。心の底から同情するよ。だけど、魔導学校は卒業できたんだろ? スキルは貰ったの?」

「貰ったわ」

「だったら、ギルドでもなんでも君を欲しがってるところはあると思うけど。少なくとも、裏路地のごろつきなんかよりはよっぽどマシな奴らがさ」

「血で人を選ぶような人たちの中に、マシな人間がいるとは思えない」


 僕から言わせてもらうと、かなり贅沢な悩みなんだけどな。

 口には出さないけど。


「じゃあさ、実家に帰ったらいいじゃない。北の方にいるんだろ、君の一族は」

「無理だわ。私は一族から逃げ出してきた身だもの」

「つまり、ここにとどまるしかないってわけ?」

「そうね」

「この部屋はどうやって借りてるの?」

「お金はあるの。貯めてたから」

「へー、ちなみにどうやって稼いだの?」

「聞いてどうするの?」

「僕も試そうかと思って」

「えーくんには無理だわ」

「どうしてさ」

「男だから」


 あっ、察し。

 そういう仕事(・・・・・・)ね。

 っていうかさっき処女って言ったじゃん。

 あれ、嘘か? 嘘じゃないのか?

 あー、でもそういう行為に及ばなくても、若い女の子はおじさんに頼めばお金くらい貰えるのか。

 闇深そう。



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