シンダラリセット その①
「次の相手が待ってる。あの扉の向こうだ、落ちこぼれ」
「落ちこぼれに負けた君のことを、僕はどう呼んだらいい? 急転直下こぼれ?」
「魔導学校のぶっちぎりエリート様だ……」
囁くように呟いて、ロットは全身から血を吹き出しながら絶命した。
……やっぱり、学歴に拘ってるじゃないか。
まあ、いいさ。
とにかく時間がない。
「ミア、まだ大丈夫?」
『……大丈夫だわ』
「本当? 声に力がないけど。いつもみたいに勇気と元気と希望に満ち溢れたポジティブ思考の塊みたいなミアの姿を見せてよ」
『私がそんな風だったことが、今までに一瞬でもあったかしら?』
「いや、ないね」
『無いものはねだらないことね、えーくん。人は逆立ちしても水の中で呼吸はできないでしょう?』
「おっと、それはどうかな。魔導学校で習ったんだけど、実は人間は水の中に住む生物から進化したんじゃないかっていう説があってね」
『えーくん。私は今にも死んでしまいそうなのよ。そんなかわいそうな私のために、一刻も早く解毒剤を取ってきてあげようとは思わないわけ?』
「うーん、今まではそのつもりだったんだけど、僕、自分で自分のことをかわいそうっていう女、あんまり好きじゃないんだよね」
『……えーくんのいじわる』
「もちろんミアは別だよ! よーし、僕、ちょっと頑張っちゃうぞ!」
とは言っても、ミアの容態があまり好ましくないのは事実らしい。
そうじゃなかったら、さっきの戦闘中も何かしらアドバイスをくれただろう。
ミアを死なせるわけにはいかない。
「いいかい、ミア。ここは僕に任せてくれればいい。今は休んでいてくれ」
『じゃあ、お言葉に甘えて』
交信魔法の向こう側で、ミアの気配が消える。
眠ったのかな?
このまま永眠ってことにならなきゃいいけど。
……いや、冗談じゃないな。
僕は、ロットが言っていた、カウンターの向こうのドアに手をかけた。
敵の数は、恐らくあと二人。
あの白髪ホモともう一人、僕の知らない奴がいるわけだ。
友好的かつ従順な人だといいけど。
ドアノブを回し、ドアを引く。
「ん?」
なんか変だ。
なんか、胸の中が空っぽになった気がする。
僕はそんなに無感情な人間だろうか。いや、そんなことはない、こともない。
なんとなく、自分の胸の辺りを触ってみる。
……嘘だろ。
僕の胸の中心には、文字通り大穴が開いていた。
血が噴き出す。
呼吸ができない。
意識が遠のく。
――死ぬ。




