僕はHPが少ない
薄れゆく意識の中振り返ると、男が嫌な笑みを浮かべて、僕の背中にナイフを押し込んでいた。
あ、こいつさっきの下半身露出男だ。
足元がふらつく。
傷口から血がドバドバ出てくる。
最近貧血気味だと思ってたけど、そんなことなかったらしい。
まあ、これも仕方ない。
次回は気を付けよう。
僕は、目の前にうずくまる女の子は笑いかけてみた。
だけど、女の子は引きつっていた顔をさらに引きつらせるだけだった。
うーん、ちょっと残念だ。
そして僕は地面に倒れこみ、間もなく死んだ。
それからすぐに蘇った。
目の前にはさっきと同じ、うずくまった少女。
背後にはナイフの気配だ。
振り向きざま、相手に右手を叩きこむ。
「ぐえっ!」
男が汚い声を上げて、気絶する。
僕はもう一度辺りを見回してみた。
全員倒したらしい。
よし、今度はうっかり刺されるなんてことはなさそうだ。
「えーと、もしかしたら聞くのは2回目かもしれないけど、君、大丈夫?」
「だ、大丈夫、です」
女の子は小さい声で答えた。
「そうか、怪我は?」
「な、ないです。ちょっと擦りむいたくらい」
「何もされていない?」
「はい、大丈夫です」
「まだ処女?」
「はい、まだしょ……はい?」
「いや、なんでもないよ」
よかった。
性的な乱暴は受けていないらしい。
どうにか間に合ったな。
目の前の処女、もとい少女はさっきから変なものを見るような目で僕を見ている。
なぜだろう。
女の子を集団で路地裏に連れ込むような奴らより、僕の方がよっぽどまともなはずなのに。
……あれ、待てよ。
僕、この子をどこかで見たことがあるような気がする。
例えば、魔導学校とかで。
「ねえ君、もしかして魔導学校の生徒だったりする?」
「!」
露骨に驚いたような顔をする少女。
「そうか、やっぱりね。見たことあると思った」
「もしかして、君もなんですか?」
「隠してたつもりはなかったけど」
「ああ、なるほど、どうりで」
「どうりで、何?」
「私もあなたに見覚えがあるって思ってたところ」
「ははーん、以心伝心ってやつ? 気が合うね」
「さっきこの人たちを倒したのだって、魔導学校で習った護身術でしょ?」
「そうそう」
護身術だけは、僕の得意科目だった。
保身が得意なのかもしれない。役人にでもなっておけばよかった。
「でもどうして、こんなところにいたのよ?」
「奇遇だね、僕も今それを君に訊こうと思ってたところだよ」
「私は別に、来たくて来たわけじゃないわ」
「僕だってやりたくてこんな生活してるわけじゃない」
「……ギルドに入らなかったの?」
「入れてもらえなかったからね。君は?」
「私も」
「へえ、詳しく聞きたいな。ここじゃなんだから、ちょっと場所を移そうか」
「どこへ?」
「君の家とか」
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