ご注文はソクシですか?
そして、目を覚ます。
ちょうど隣では、客が席を立ったところだった。
さっき店を出たはずの客が。
要するに僕のスキルは、死んだ瞬間、その少し前の時間からリセットされる能力なのだ。
ね? 無意味でしょ?
当然ギルドから声がかかることもなく。
卒業したから寮からも追い出され。
実家に帰るわけにもいかず。
こうしてふらふらした生活をしているというわけだ。
スキルが【即死】に決まるまでは、いくつか僕に声をかけてくれたギルドもあった。
でも、そのどれもが今は音沙汰なしだ。
魔導学院の生徒というだけで勝ち組なんじゃなかったのかよ。
僕は食事代を払って、店を出た。
外はもう暗くなっていて、仕事帰りだろう人たちが大勢いる。
魔導学校は、この魔導王国グラヌスの首都であるシュルルツに置かれていた。
僕は惰性で、この首都シュルルツに居残っていた。
本当はもう死んでしまっても良かった。
だけど、仮に僕が死んでも、多分このスキルのせいで再び生き返ることになるだろう。
誰からも必要とされず、帰る場所もなく、そして死ぬことすら許されない。
これが、僕のスキル【即死】というわけだ。
ふと、路地裏の方で悲鳴が聞こえた気がした。
興味本位で覗いてみると、薄暗い路地の奥にはうごめく複数の影があった。
そしてその中心に、小さい影。少女のようだ。
ああ、納得。
これはつまりアレだ。
男たちが少女を無理やり路地裏に連れ込んで、大勢で乱暴するっていうお決まりのアレ。
どうしよう。
はっきり言って僕は正義感の強い方じゃない。
だけどまあ、今日は機嫌が悪い。
街の荒くれ相手に憂さ晴らしするのも悪くないだろう。
「やあ、君たち、楽しそうだね」
僕は路地裏に足を踏み入れ、努めて明るく彼らに声をかけた。
人影が一斉に僕の方を振り向く。
少女を押さえていた一人なんかは、自分の下半身を露出させていた。
うーん、嫌な方で予想通り。
「なんだ、てめえ!」
僕の一番近くにいた男が怒鳴ってくる。
多分、見張りをやらされている下っ端だろう。
「無職童貞ヒキニート、趣味は読書以後よろしく」
「あ?」
男が間抜けな顔をした瞬間、僕はその顎に上段蹴りをぶち込んでいた。
骨が砕けた音がした。
集団に動揺が走るのを、僕は感じた。
体は勝手に動き、気づけば僕は集団を全滅させていた。
少女は壁際でうずくまり、震えている。
「やあ、君、大丈夫?」
少女が顔を上げた。
その瞬間、僕の背中を何か冷たいものが突き刺したのを感じた。
ナイフだ。
あっ、死んだ。