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第一人者  作者: 近衛 キイチ
第一章
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墓場

 クゥイーは先に宿へ戻り、村人が全員帰った後も僕とレイはその場にいた、ダリネスの遺体を見ている時よりも、このお墓を見ている方が寂しい気持ちになる。

 本当に彼が死んだ事を理解した様な気がする。

 この世からその姿とその記憶や経験が永遠に失われた。

 ほんの数日前に知り合っただけなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうか、自分の気持ちの整理を付けようと彼の墓を見つめていた。


「クゥイーはあんな風に言うが、ダリネスの気持ちも分かる、傭兵として活躍できれば、一代限りだが貴族名と封地を得る事も不可能ではない、旅の駄賃が足りないとか色々な場所を見て回れるとか、そんな気紛れだけじゃなかったと思う」

 息子の墓を前にレイは呟く、独り言の様に小さな声だったので、僕は返事をせずに視線を少しだけレイの方に向ける。


「魔王が斃されたとして、この大地から争いが無くなる訳ではない、レムリニアスの死後何がおきた、各地の司令官の起こした叛乱により、大王の国は引き裂かれ、それらは小国として独立したという話ではないか、大王からすれば、自分の国で千年以上も内戦を続けている様に見えるだろう。

 今の状態で魔王を斃したからといって何が変わる、船が好きで虫を殺す事もできなかったあの王子を殺す事で何かが変わるとは思えない。

 英雄でもない庶民は稼いだ金の半分以上を搾取され、他人の地を耕す事に労力と時間を奪われる、それが永遠に繰り返されるだけだ。

 実際は誰が支配者になろうとも同じ事かもしれない、我々が欲するのは明日を不安の無く生きられる世界なのだが、魔王を斃したとしてそれが実現するのか疑問だ、今すぐに善人になる事のできない者達が、魔王が斃された時に変わる事ができるはずもない」

 独り言かと思ったが違った。レイは最後に僕の方を向きさらに言葉を続けた。


「気にする事ではない、自分自身が予言したからと云って、現世で再び魔王を斃さなければならない義理も義務もない、誰かが自分を救ってくれると思い込み、他人にそんな大任を押し付けて勝手に期待をする方が悪い、望むものなら自分達の力で得るべきだし成されるべきだ」

 平静を保っていたレイだが、やがて語気を強くし早口に言葉を並べ始める。

「何を救い、何を護るというのだ、死んだのにその傍から税や遺産の分け前を奪い取る事が正しい事か、幾重もの税により稼いだ金は奪われ手元に残るのは僅かな額しかない。

 親が死んだ後、長男以外の子供は乞食のような生活を強いられ、最後は村の片隅で惨めな老人として一生を過ごさなければならない」


 話している内に彼の表情は暗くなり、最後には右手で顔を覆い、泣いているのかと思う様な声になる。

「娘を持てば持参金を用意するために家が潰れる事もある。

 気前の良い金持ちと巡り合わない限りは、何れクゥイーも店に出なければならないだろう。

 息をするのも辛く苦しいこの世界の何所に価値がある。

 魔王ライオネルはそこらの詩人が詠う様な卑怯な男だと思うか、初めは交渉により王位を求め、宣戦布告を行った際には、王達に一年の準備期間を与えたのだ、巷で流れる魔王の姿に恐れる者達は、彼を恐怖の対象としか見ていないが、ベイル家がこの国の王座に戻ろうが、シーダ家の治世が続こうが、我々にとっては何時までも辛く厳しい生活が続くだけだ」

 言いたい事を言い放ったレイは、自分に言い訳を発する時間を与えずに、夜の準備のために来た道を戻る、そして、僕はダリネスの墓の前で呆然とするしかなかった。

 

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