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金木犀ノハナ

作者: 鹿本 浴衣

 金木犀の花は嫌いです。鼻腔をくすぐるような、ふわりとしたあの気品高い香りが嫌いです。それでも私の体はその香りがお気に入りらしいのです。秋風にどこからか運ばれてきた香りに、はたと私の足は動かなくなるのです。

 そうして香りを放つその木を探して、ゆらゆらと路地裏を練り歩くのです。見つけられずにゆらゆらと。

 ある日、秋雨のあがった夜。濡れたアスファルトを月が照らす夜。一枚の黄色い絨毯があるのです。穴が開いたようにたくさんの黒が混じる黄色い絨毯が。

 香しい、私の嫌いなあの匂いが、ほんのわずかに残滓のように漂っています。

 その絨毯の上を歩いていくと、ある家の庭に、やっぱり残りかすのような、ただ固そうな葉を繁らせているだけの木があるのです。

 そうして私は両の頬を濡らすのです。


 あの香りが嫌いになって6年が経ちました。いつも気づいた時には散っているから、残りかすしか見られないあの花は嫌いなのです。見た目はきちんとしているのに、何かが足りない木を見るたびに、何度も何度も思い出してしまうから。

 もう6年が経ちました。私はまだ、許容できずにいます。

 香りの強い花を供えるのはあまりよくないそうですね。

 それでも今度は黄色い花が鈴なりについた枝をもってきましょう。

 きっとそれまでには私も変わってみせます。

 必ず、花のついているうちに見つけましょう。

 あなたが好きだと言っていたあの花を。


 

 初恋でした。また、会える日まで。

昔、カクヨムに投稿したものの再掲です。

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