おっちゃん
息抜き、暇つぶしにどうぞ。
「よッ!」
何が『よッ!』だ。
今年の夏、おっちゃんが帰って来た。あの世から。
なんだか、驚くのもしゃくなので
「よ、おかえりぃ! 元気だった?」
と、素っ気なく流してみる。
「そりゃあもう! 生きてた頃より数倍元気だったよ」
人のせっかくのボケを、ボケで返すとはけしからん幽霊だ。
おっちゃんが昨年の夏に亡った時、私は通夜では全く泣かなかったが、葬式では周りが引く程号泣してあげた。
しこたま病気を抱えて、朝夕山ほど薬を飲んでいたのは知っていたが、私が訪ねて行った時のおっちゃんは、それほど具合が悪そうな様子もなく、なんだかんだで長生きするもんだと信じていたのだ。
それが急に倒れて入院、退院、ポックリ。
と、おっちゃんの死に様は、実にリズミカルで呆気なく、なんだかすぐには信じられなかった。
「で、なんか用?」
「なにを〜ぉ? 人が折角、あの世から会いに来てやったのに、なんだその態度は!」
「だって、今更何を言えというの。葬式でちゃんと泣いてあげたじゃん。ちゃんと見てた?」
「あー葬式ね。あれ、欠席した。だって高校野球は見逃せないだろ?」
「高校野球よりも自分の葬式のほうが見逃せなく無い?」
あーもう、疲れる。このボケ幽霊め。
「あ、じゃあ質問!」
私は手を挙げる。
「はい、西藤小町さん。」
おっちゃんは私を指差す。
「天国には行けましたか?」
「あーそれ? いきなりキタかー? でもだめ。言えない。秘密事項に抵触する」
「なんだよ、ケチ。じゃあもういい」
「え〜?なんか聞いてよー」
幽霊のくせにメンドクサイ。
「んじゃ、閻魔様はいた? アカシックレコードとか見ちゃったりした?」
「閻魔様って人は会ってないけど、それっぽい役職の人はいたね。
で、アカシックレコード……って、何?」
「ふーんそうなんだ。あの世って面白い?」
「まぁ俺は楽しくやってる。で、アカシックレコードって何?」
「いやあ、良かった。元気そうで」
「ねえ、アカシックレコードって、何?」
「メンドクサイ」
「むっ、憑くよ?」
うざっっ!!!!
「ね、ちょっと帰ってくれる? おっちゃん、家族のとこには行かなくていいの?」
「いやーうち、実は今、坊さん来ててさ。お経あげてて、TV見れないんだよね」
「おっちゃんなんか祓われてしまえ! 悪霊退散! 南無阿弥陀仏っ!」
「や〜ん!」
「50過ぎの男(幽霊)が、『や〜ん!』とか言うなっ!」
「……でさ、ちょっと、オリンピック見せて? 11時から野球やってるんだぁ♪」
「どうせなら北京に行って下さい。幽霊なんだから」
「お、なるほど」
そう言って、おっちゃんは消えた。
結局テレビを見に来ただけかい。
来年の甲子園の中継で、客席におっちゃんが見えたとしても、私は意地でも驚かない。
どこまでもアホらしい話でスミマセン。
楽しんでいただけたら幸いです。