表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

さて、噂とは?

 流れ始めた噂というのはどちらをとるのだろう?というものだ。

 どちらというのは王太子殿下とジェラルド様のことらしい。


 いわく、お会いすれば毎回舞踏会で踊っている。

 必ず踊るどちらかに決められたのだろう、と。


 そんなつもりはまったくないのだが。


 噂というものは常に本人を無視した広がりをするものなのだ。

 お二人にもそんなつもりはないだろうに、ちょっとした行動がこうも取り沙汰されるなんて、注目されている方は大変だとつくづく感じる。

 





 たしかに王太子殿下とは舞踏会で踊るし、王城でもお会いすれば多少の立ち話はするようになった。

 しかしありえないだろう。

 今更になってそんなことを言い出すだなんて。

 条件だけならそろっていたのだ。

 わたくしを選ぶのであればいつでもできただろう。

 それこそ怪我をする前であっても。

 口さがない人は妹であるマリベル様が怪我をさせたから王家として責任を取るおつもりだと言っていたが、それならもっと早く来るであろう。


 かと言って、もう一人のジェラルド様もありえない。

 あのお方はわたくしを女として見ていない。

 ハウエル家の人間として、同列に立つ者として見ている。

 ともに戦ったことはないが、表現としては戦友というのがもっとも相応しいであろうか。

 そうでないならばもう一人の兄といったところか。


 これだから特定の男友達を作るのは面倒なのだ。


 ジェラルド様の方はまだいい。

 これはわたくし自身、覚悟していた噂であるから。

 しかし王太子殿下はないだろう。

 あのお方は王太子殿下として有力な貴族の娘であるわたくしの家に配慮しているだけなのだろうから。


 とはいえ、噂が流れているというのが現実である。

 最近はこんな勘違いした噂のせいで、王太子妃狙いのご令嬢方からの視線が痛い。


 仕方がないので誘われるお茶会には積極的に参加し、変な噂が流れているらしいですわね、わたくしが王太子妃なんてありえませんわよねと話している。

 お兄様にも噂、特に王太子殿下に関する部分の否定をしてもらっている。


 その相談した際、お兄様が「あの野郎、ちまちまとやりやがって。それでも男なのか」などと呟いていらっしゃった。

 何のことだかさっぱり分からなかったが、お兄様は反射的に猫様を被りつつ、笑顔でそう言われたので、わたくしとしては非常に恐ろしかった。





 こうした努力をしているにもかかわらず、噂はなかなか消えない。

 そもそも、わたくし側に選ぶ権利があるかのような言われ方はいかがなものかと思うのだが。


 噂が消えないことと、この言われようにはしっかりと理由がある。

 王太子|(推奨派)とジェラルド様|(推奨派)が(こぞ)って、この噂がまるで事実であるかのような扱いをしているのだ。


 そういった事情を踏まえて、結果的にわたくしがどちらの手を取るのかという噂となっているようだ。

 わたくしはどちらの手も取るつもりはないのに。









 ちなみに王太子様推奨派筆頭がマリベル様と王妃様である。


 王妃様にとって、姉と慕うお母様の子供が嫁いで来ることは喜ばしいことであり、マリベル様もわたくしとの、はっきりとした繋がりが出来ることを望んでいらっしゃるようである。


 王家、ひいてはそれを支える大臣たちとしても、いくら現役を退いたといっても未だに軍部との繋がりを持つお父様と、軍部の中でも将来有望視されているお兄様、そんな実力者を有する家と繋がりを強固にすることは望ましいことなのだ。


 その上、わたくしの人柄もよくよく知っており、王妃などという大役に着こうとも潰れないであろう精神力を持ち、国内女性陣の取りまとめ役としても十分だろうという高い評価をしてくださっているようだ。

 また、わたくしの両親は権力欲があまりないので、王家に嫁ぐ者としては好ましい。

 爵位も侯爵家であれば十分である。


 そして何より、王太子という立場にもかかわらず、どんな縁談も受け入れなかった殿下が多少なりとも興味を持った相手がいるのなら、気が変わらないうちに決めてしまえという周囲の思惑がある。


 一番そういった話にうるさいであろう大臣方が賛成していることもあり、王妃様・マリベル様のお二人は積極的に婚姻を勧めてくる。

 先日もマリベル様主催のお茶会にて


「エレナ」


「はい、いかがなさいましたか?」


「エレナはいつわたしのお義姉様になってくださるの?」


「はい?」


「あら?王宮では持ちきりよ?エレナが王太子妃になるって。違うの?」


「マリー様。それはありえない話でございます。わたくしが王太子妃になるなど罷り間違ってもありえません」


「そう……。わたし、エレナがお義姉様になってくれると嬉しいのだけれど」


「マリー様……。わたくしと致しましてもマリー様の義姉となるのはやぶさかではございません。しかしそれとこれとは話が別なのです」


「残念だわ」


しょんぼりと肩を落とされたのを見て罪悪感が沸く。


「……。マリー様、畏れながら婚姻という繋がりがなくてもわたくしはマリー様の姉のつもりでございます。公式の場でなければいくらでも姉と呼んでくださいませ」


「本当?!嬉しいわ!わたしもエレナのことお姉様だと思っていたから嬉しいわ」


 といった方向で収めることとなった。

 とはいえ、あきらめてはいらっしゃらないようだが。


 王太子殿下ご本人は何を考えてらっしゃるのか。

 本当に面倒なのでとっとと婚約していただきたいものである。









 一方、ジェラルド様推奨派はといえば、筆頭はもちろん侍従様である。

 お仕事大好きな(あの通りの)お方であるから、元々婚約者探しに難航していたらしい。

 一見、無骨な武人らしい外見をしていらっしゃることも相まって、蝶よ花よと育てられたご令嬢方には敬遠されてしまうようだ。

 侍従様も跡継ぎが、と心配していらっしゃった。


 そこへ来て、わたくしとの噂。

 お互い性格は理解しているし、嫌いあっているわけでもない。

 これを逃す手はないとばかりに、お茶会等で聞かれても積極的には否定しないだけでなく、噂をジェラルド様寄りに勘違いするよう、曖昧に返答していらっしゃるようだ。


 ジェラルド様のご両親はといえば、我が家(侯爵家)とはお兄様のご友人という繋がりだけで、家同士の繋がりがあったわけではない。

 そんな中、今回の婚姻によって、繋がりの強化が出来、心配だった嫁問題も解決する。

 正直なところ、これ以上ない良い縁談として後押ししている状況だ。

 

 最近のジェラルド様宅のお茶会には必ず招待されるし、参加の返事をすれば必ずジェラルド様も参加される。

 もちろん、ジェラルド様の意思ではないのだが。


 そしてそこから早く離れたいジェラルド様が、わたくしを連れて会場を抜け出す。

 わたくしを連れて行くのは、そうすれば侍従様からもお母様からも咎められないからだ。

 そこで、ここぞとばかりに侍従様が


「まったく。ホスト側の長男が抜け出すとは……。みなさま、申し訳ありません」


 などと呆れたという表情を作りつつ、白々しく謝り


「まぁ。いいですのよ。意中のお方が傍にいるとなれば、二人きりになりたいと思うものですわ」


 という言葉を招待客から引き出すのだ。

 それに周りのご婦人方が同意する。


「いつ発表されるのかしら?楽しみだわ」


 と言われれば


「あの通り、自分の感情に任せて動くお方ですから、長年仕えておりますが、さっぱり分かりませんね」


 と苦笑で返す。


 というのが定番化してきている。

 侍従様の誘導とご婦人方の興味によって、噂は沈静化するどころか益々広がっている。


 そうでなくともお茶会というのはご婦人、ご令嬢方が中心で基本的には仕事がある子息は混ざらないものなのだ。

 にもかかわらず、わたくしが参加する際にはジェラルド様が必ず顔を出す。

 これだけで十分意中の人扱いとなってしまうのだ。

 侍従様の誘導なくとも噂は広まっただろう。









 こうして当人達を取り残したまま、どちらかとの婚姻が当たり前であるかのように認識されていった。


誤字脱字がございましたら、ご連絡ください。


ちょっとは恋愛色入れられたでしょうか?

(政略的)恋愛色ではありますが(笑)

本人たちの心情は次話、で書けたらいいなぁと思っております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ