表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

舞踏会編終了!

 お兄様の下に戻れば、先ほどと変わらず王太子殿下がいた。

 まだ殿下がいらっしゃったのかと目を向ければ、本当にいるだけといった風。

 殿下の目がうつろなのは……きっと光の加減でそう見えるだけだろう。


 そういうものなのだ。

 そうであってもらわねば。

 わたくしの精神衛生のためにも。

 お兄様がいくらつやつやしていたとしても。

 にこやかにそれを観しょ……見守っていたとしても。


「楽しかったんだね。よかったね」


 疑問ではなく断定。

 実に美しい笑顔で言われたので負けじと微笑む。

 声の聞こえない周りには仲のよい兄妹に映るのだろう。


「えぇ。ジェラルド様と踊るのは本当に楽しかったですわ」


 ありがとうございましたといえば、隣を見上げればにかりといつもの笑み。


「俺も楽しかった。アイリーンと踊るのは無理がなくていい」


「では、また次も誘ってくださいますか?」


「舞踏会で会ったときには頼もう」


 次の約束をすることはあまりないが、ジェラルド様ならばいいだろう。

 これで今後もお兄様から出されるであろう課題を達成しやすい。

 快く承諾してくださったが、心なしか遠い目をしていらっしゃったような……。

 おそらく侍従様が……。

 やめておこう、聞くのは。


 豪胆な彼の珍しい表情を、なんともいえない感情を持ちながらも見守っていれば、いつの間にか復活していらっしゃった殿下にも


「アイリーン嬢、私ともまた踊っていただけますか?」


 と誘われる。

 殿下からのお誘いを断るような女だと思われているのだろうか?

 誘いかけていただければ、もちろん不躾に断ることなどしないというのに。

 ()()()()()対応することはあるかもしれないが。


「えぇ、ぜひ。機会がありましたら」


 にっこりと夜会仕様よそゆきの笑みとともに返す。

 あら?少しばかり王太子殿下の空気が重くなったような?


 そんな殿下をひっぱり、ってお兄様、それは不敬で……今更ですね。

 なにやら話しているようですが聞こえません。

 それにジェラルド様も加わり……


 楽しそうですわね、お兄様たち。

 男同士の密談ですか。

 そうですか。

 仲間はずれだとかいじけてなどおりませんわ。


 だって


 にやにやと人の悪い笑みを浮かべているお兄様はすでに弄りモードだ。

 これは混ざらないほうがいい話だというのが分かる。

 なんともお可哀相に。

 とは思っても、こちらにとばっちりがあると困るので何も言わない。


 密談(?)が終わったのか離れた3人。

 王太子殿下は少し力のない笑みを浮かべて、ではまたと去っていった。


 基本的に王太子として自信を持って行動していらっしゃる殿下が、力なく立ち去るとは……。

 これは一応妹として、諌めておいたほうがいいのだろうか。


「もう、お兄様ったら!殿下に何を言ったんですの?ひどい顔してらっしゃいましたわ」


「うーん。元凶は僕じゃないんだけどねぇ」


「あら、そうでしたの?」


 ここに続くはずだった申し訳ありませんは、お兄様の言葉を聞き、飲み込むことになった。


「追い討ちはかけたけどね」


 お兄様、いつにもまして煌めいてらっしゃいますわ。

 ところで、追い討ちをかけること(それ)と元凶であることと何が違うというのだろうか。


「まぁ、これで覚悟するだろ。できなきゃそれまでだ」


 少し鋭い目つきでそうおっしゃるジェラルド様。

 普段であれば取り成し役を務めるジェラルド様までそんなことを言い出すとは……

 わたくしにはわからない何かがあったのでしょうということで片付けることにした。


「さて、俺も行くかな。またな」


 次のお声が掛からないうちにお帰りになるのだろう。

 実に去り際はあっさりとしていらっしゃった。

 まぁ、また近々お会いする――それが舞踏会なのか、家の都合でなのか、お兄様関係でなのかは分からないが――だろうし、今までのお互いの付き合いを考慮しても別れを惜しむ必要はない。

 お兄様もわたくしが課題を達成していることだし長々と居座るつもりもないのだろう。

 失礼にならない程度の時間でお暇することとなった。









 あれから、殿下は舞踏会でお会いするたびにダンスに誘ってくださるようになった。

 それが何度か続くと、今度は王宮でのマリベル様主催のお茶会へと向かう途中で話しかけられるようにとなっていった。


 なぜ今更、と思わないでもないが、殿下も気兼ねなく話せる女友達が欲しかったのだろうということで自分のなかでは落ち着いた。

 何しろ話す内容と言えば、デビュタントした妹(=マリベル様)への贈り物は何がいいだろうか、最近の令嬢の流行は何かといった話が主なのである。

 周りには男友達しかいなかったであろう殿下のこと、いくら男であったとしても、いや男であるからこそ女性のそういった話を必要とする場面も多いのだろう。

 男では耳に入りづらいであろう流行について話していく。


 なんと勤勉な方だろう。

 顔もスタイルもいい、家柄は国内一だし、性格もよい。

 勉強もできるし、武術のほうはお兄様に言わせればまだまだらしいが、そもそも武官ではないのだ。

 そこまでは必要ないだろう。


 ここまででもすばらしいのに、さらに女性の流行まで気になさるなんて。

 もしかして意中の方ができたから聞いてるのかしら?

 それとなくお聞きして手伝ったほうがいいかしら?

 これでもそれなりに人脈を築いてますもの。


 とお兄様にお聞きしたら、満面の笑みで撫でられた。

 何故です。

 このまま居てくれればいいんだからね。

 といわれれば従うほかない。


 お兄様の笑みには逆らいません。









 舞踏会と言えば、ジェラルド様にお会いしたときにもお相手していただいている。

 先日、ジェラルド様のうちで開かれたお茶会に行った際、侍従様にお会いしたので、愛の鞭は着々と実を結んでおりますよ。とご報告しておいた。

 それはそれはにこやかにそうであるならば嬉しい限りですと仰っていた。


 それとともに殿下がいらっしゃる前での言葉遣いについても伝えておいた。

 決して、決して仕返しとかではない。

 女として扱われないことは昔からのことである。

 これはジェラルド様の将来のために行っていることなのだ。

 という言い訳を心の中でしつつ、若干申し訳ないことをしたとも思う。


 目に見えて侍従様の機嫌が悪くなった。

 いや、表面はいつも通りにこやかだが、後ろに見えてはいけない何かが見えてしまっている。

 お茶会ということで他の方もいらっしゃり、その場では何もなかったが。

 ジェラルド様を拝んでおこう。


 当の本人は訳も分からず、何をしているんだ?と聞いてきただけだが。

 あれはおそらくお茶会が終わった後、怖いことになるだろう。


 そう、今回は珍しくジェラルド様も参加される。

 普段、昼間はお城に出勤していらっしゃるが、今日は非番ということで参加を命じられたらしい。

 侍従様に。

 もう一度言う。

 侍従様に。

 

 とはいえ、大人しく参加していたのは最初の挨拶から少しの間だったが。

 その後はジェラルド様にわたくしが好きな花が咲いたから、と誘われて庭園を見て回ったりしたが、実質はお茶会のご令嬢から逃げ出しただけである。

 成長は微々たる物だが、それでも女性の扱いがまともにできるようになっただけでマシである。

 わたくしに対する接し方は変わらないが取り繕えるようになっただけいいのだ。

 いままでと同じように接していく。


 そうして接しているだけだが、ご令嬢たちには十分だったのだろう。

 噂が流れ始める。


誤字脱字がございましたら、お知らせください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ