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本日2話連続投稿。
2話目なので、1ページ戻ってご覧ください。
「昨年、やっと自信が持てて、申し込もうとした直後にあなたが怪我を負い、領地へと戻ってしまった。そこで一年と言う期間ができて、ゆっくりとあなたについて考えていて、初めて思ったんだ。愛おしいと思った相手に、王妃という責務を負わせるのは酷ではないか、と。恥ずかしい話、それまで自分がハウエルの基準を超えることしか、考えていなかったんだ。ルーフォには最初から、心を得ることを条件に出されていたのにね。本当に自分のことしか考えていなかったんだ」
それらの言葉は、自虐的に放たれた。
「それから、考えて、考えて。あなたが幸せであればいいと思ったんだ。マリーの兄として、時々会うことができて、舞踏会でも踊ってもらえて。もう、それで十分だと思った……。だからね、噂が流れ始めたときに、正直びっくりしたんだ。自分はこんなにも欲望に忠実に生きていたのか、と。それでもダンスに誘うことを止められなかったんだけどね。とはいえ、あなたが結婚すれば諦めて、適当なご令嬢を娶るつもりだったんだ。王妃に相応しい令嬢を」
あれらの行動に自覚はなかったのか、と思うとつい、珍しいものを見る目で見てしまう。
あの殿下が。
「だけどね、あなたに婚姻の申し込みがあったと聞いて、しかもそれがアッカー家からだと聞いて、居ても立ってもいられなくなった。ジェラルドとは仲がいいようだし、きっとあなたはその婚姻を受けると思ったからね。あなたが誰かの妻になるということが、こんなにも受け入れられないことだとは思いもしなかったよ。それからすぐに父上から許可を取り、正式申し込んで、今に至る。というのがすべての流れだよ」
すべてを話した殿下は晴れ晴れとしたご様子。
わたくしとしては、何がなんだかさっぱり整理できていないのだが。
「あぁ、そうそう。最初の質問は私の心があなたにあるか、と言う質問だったよね。今までの話を聞いてもらえば分かると思うけど、もちろんあるよ」
止めを刺された気分だ。
「エレナ。エレナ。大丈夫かい?」
「え、えぇ。大丈夫でございましますわよ」
「……大丈夫じゃなさそうだね」
隣でお兄様がやれやれと肩を竦めていらっしゃる気がするが、今は相手をしていられない。
本当にわたくしを愛していらっしゃるらしい。
どうしたらよいのだろうか。
「アイリーン嬢。質問はあれだけでよかったのか?」
その言葉にはっとして考える。
「殿下はわたくしが剣を扱えることを知ってらっしゃるんですわよね?」
「あぁ、さっきも言ったけど、実際扱っているところも見たよ」
「わたくしはハウエルの人間として、王家の盾となり、剣となるという覚悟を持って今まで生きてまいりました。どう思われますか?」
「光栄なことだね。でも、これからは私を、私の心を守る存在になってほしいかなと個人的には思うけれど」
「わたくしは普段はこんなに大人しくないんですのよ? 猫を被っていますし、必要とあらば不正を暴いて蹴落とすことくらいはやりますわよ」
「王妃としては頼もしいことだね。私の前ではその猫を脱いでくれるとうれしいな」
「では、当然、普通のご令嬢のように柔らかい、女性らしい体をしていないことはご承知の上ですわよね?」
「そうかい? 踊ったときの様子では、女性らしいと思ったけれど……まぁ、そのへんのご令嬢方とは違うということも承知の上だよ」
「傷物ですわよ。傷を理由に無理やり娶らされたと言われるかもしれませんわ」
「口さがないやつは放っておけばいいし、そもそも申し込んだのは私のほうだよ? それに傷物だなんて思わない。それは君の覚悟の証だろう?」
「その辺の文官よりも頭が回る自信がありますわ。そんな女、うっとうしいのではなくて?」
「すぐにでも王妃の仕事ができそうだね。うっとうしいとは思わないよ。むしろ馬鹿では王妃として困るしね。だからあなたが頭のよい人でよかったと思っている。」
「兄である僕が居るって言うのに熱烈だねぇ」
「もう、ここまできたら開き直ったほうが良いでしょう?」
「開き直りすぎだと思うけどね」
黙ったまま成り行きを見ていたお兄様は、一区切りついたことを察したのだろう、茶化すようにこちらの話に入ってきた。
「質問は終わりかな?」
「あと、ひとつ。」
「何かな?」
「何故、すべてを教えてくださったのでしょうか? あの、殿下の心情をすべてわたくしに教える必要はなかったでしょう?」
「うん。そうだね」
「何故……」
「そうだなぁ、ひとつはあなたに心情を伝えずにただ申し込むだけで終えていたら、あるいはただ心はあなたにあるんだと伝えたら、あなたは私が王妃に相応しいと思ったから選んだと思いかねないと思ったんだ」
「マックス。よく分かってるじゃないか」
「その辺りはよくルーフォから聞いていたしね。ふたつめは私が聞いて欲しいと思ったから。あなたに知っていて欲しいと思ったからだよ。話すだけでこんなにも心が軽くなるとは思わなかったな」
「随分と素直だねぇ。開き直った君って本当に怖いね」
「あなたに言われたくありませんよ。あとは」
「まだありますの?!」
「ふふ。これで最後だよ。話せば少しは同情して、気にしてくれるかな? という私の打算だよ。あなたは優しいから、きっとこんな話を聞けば、私のことを考えてくれるでしょう?」
「君ってやつは……」
「こういったことは、あなたから学んだんですよ、ルーフォ。周りを上手く使えるようになることも上に立つ者の仕事だ、とかいっていろいろと教えてくださったでしょう? それを今使って何が悪いんです。あなたの教育の賜物ですよ。胸を張ったらいかがですか?」
「そんなこと教えたかな? ほら、僕はただの剣術指南役だよ? そんなこと教えたりできないよ」
「まぁ、いいでしょう。私が勝手にあなたを師だと言っているだけなので」
「なんでこんなに可愛くない子に育ったんだろうね? ね、エレナ。」
「へ?」
「……僕の妹はやっぱり可愛いね」
答えられない質問だっただけに、ちょっと詰まってしまったわけだが、それがお兄様には好ましいものに見えたらしい。
頭を軽くなでられた。
「で、エレナからの質問は終わりかな?」
「はい。とりあえずは」
「そうか」
「その、お受けするかどうかは……」
「あぁ、分かっているよ。すべてはあなたに委ねます。ただ、どうか悩んで欲しい。王太子だからと切り捨てないで欲しい」
「……分かりました。悩ませていただきます」
不安そうだった殿下は、ぱぁっと明るく笑うと立ち上がり、暇を告げた。
今後も舞踏会では相手を申し込むだろうが、それくらいは許してくれ、と最後に言い残して。
誤字、脱字等ございましたら、お知らせください。
久々に出てきた王太子様。
めっちゃしゃべってもらいました。
王太子様もいろいろ考えていたのですよ回
少しは王太子の人気回復したかしら?
ちなみに、今回は?とか!とかの後を空白入れてみました。
そのほうが読みやすいですよーみたいなのを見かけたので、実践しましたが、読みやすさ的にはどうなんでしょう。
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