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2月14日は世間様はバレンタインだと言うので、愛の告白をするのに相応しい日だと思い、投稿。

本日2話投稿の1話目。

出番のなかった王太子の心情吐露が思った以上に長いので、ぶった切って2話にしてあります。

 王太子殿下に席を勧め、わたくしたちも殿下の許可の下、正面に座った。

 お茶が用意されるまで、お兄様と殿下は世間話をしている。

 指南役とその生徒という気安さを感じさせながらも、いつもとは違い、マクシミリアン様と呼んでいる。


 侍女たちを下げさせ、一息入れる。


 しばしの無音。

 かちゃりという小さな音。


 殿下はわたくしをまっすぐと見据え、切り出した。


「アッカー家からの婚姻の申し込みがあったことは知っている。そのうえで、お願いしたい。私と結婚してくれないだろうか」


 まっすぐな目。

 はっきりとした言葉。

 その裏に隠れる不安。


 一息置き、わたくしも口を開く。


「お聞きしたいことがございます」


「もちろんだ。なんでも聞いてくれ」


「では、遠慮なく質問させていただきます。まずは、殿下は、何故わたくしを望まれるのでしょうか? お兄様から、殿下の幼いころの話はお聞きしましたが、わたくしにはそれが刷り込みのように思えてなりません。殿下の今のお心は、本当にわたくしにあるのでしょうか?」


 そういうと、ぐっとつまり、顔を俯かせる。


(……やはり、恋愛感情など)


「…………聞いたのか」


「はい?」


「私が一目ぼれした話を聞いたのか……」


「え、えぇ」


 それは、わたくしに返答を求めているのか曖昧な言葉ではあったが、一応は答えておく。

 はぁぁと深いため息をつき、顔を挙げられると、キッとお兄様を一睨み。

 対するお兄様はニヤニヤしており、全くこたえていなかったが。


 意味のないことと分かったのか、もう一度ため息をつくと、わたくしに視線を戻した。


「ある、と言ったら困るか?」


「えっと……、本当でしょうか?」


「……仕方がないな。最初から話そう」


 少し肩の力を抜いて、そう話し出した。


「最初は、そう、幼い恋心だった。マリーに紹介されて、アイリーンを見た瞬間にかわいいと思った。笑顔が綺麗だと思った。そして、それはとても良いことだと思った。父上の言う、王妃の条件に合致していたからだ。きっと彼女を娶りたいと言っても、父は許してくれるだろうと思った」


 そこで一つ区切り、紅茶を一口飲む。

 なるほど、先日お兄様に聞いた殿下の話は、殿下の中でしっかりと繋がりがあったのだと、どうでもいいことがふと頭を掠めた。


「問題は、どうしたらアイリーン嬢を娶れるかだった。幸いにも兄であるルーフォが、指南役として私の近くにいたからね。ルーフォに尋ねた。結果的に、今のままでは娶れないと言われ、剣術に勉学にと励むことになった。……きっとルーフォは幼い子供が言うことだ、いずれ気も変わるだろうと思っていたんじゃないかな?」


 ちらりと視線を向ければ、お兄様は素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。

 が、おそらくそうなのだろう。


「国について学んでいくうちに、ハウエルがどのような家かは学んだよ。男も女も関係なく剣術を学ぶこと。それだけでない武器を持つこと。だから、アイリーン嬢が当然、剣を嗜んでいることは知っているよ。いや、嗜む程度ではないよね。それで、身を守れるほど扱えるはずだ」


 そうだろう? という視線にこくりと頷きで持って返す。


「すべてを学んだ後、私はあなたを王妃に相応しいからと思い、あなたを選ぼうと思った時期がなかったわけじゃない。けどね、それはすぐに言い訳だったと分かったよ」


「わかった?」


「実を言うとね、ハウエル家について学んだ後、アイリーン嬢が訓練している姿を見たことがあるんだ。ルーフォに頼んでね。その時に思い知らされたよ。様々な理由をつけて、誰もがあなたが将来の王妃に相応しいと認めればいいと、思っていただけだったんだとね」


 ちらりとお兄様を伺えば、頷きでもって返される。

 

「あの日見たあなたを綺麗だと思った。剣術という確固たる武器を持っているから、信じることができる自分の力を持っているから、あなたは美しく笑えるのだと思った。そして、そんなあなたを愛おしいと思った」


「愛おしい……ですか」


「あぁ。幼いころに感じたのは純粋な好意だった。そうだな、お気に入りの花を見つけたと言うような、本当に純粋な。そこにいてくれればいいというだけの。今はね、あのころほど純粋ではないかもしれない。けれど、昔と変わらず、いいや、成長したあなたは、あの頃以上に美しいと思う。貴族社会にその身を置いて、尚、その地位に溺れることなく、只管に理想とする姿を目指しているあなたは、私にはとても美しく見えた。そして欲しいと思った」


 大人になると欲が出てきてだめだね、と苦笑した殿下が嘘を言っているようには見えない。


「それにね、預けられると思ったんだ。あなたになら、私の心をすべて預けてもいい。いいや、預けたい、と。そして、叶うのなら癒して欲しい、守って欲しいとも思っている」


「預ける、ですか」


「そう、私と言う存在を、私自身を私足らしめる心をあなたに」


「心を?」


「私は将来、王になる。これは立太した時点で、よほどのことがない限り決定事項だ」


「そうですわね」


「王は孤独だ。国の頂点に立ち、国のため、民のため、すべてを賭けなければならない。反対に言えば、そうあるからこそ、王なのだ。王として認められるのだ。そういう立場にあることを、嫌だと思ったことはない。むしろ、そこに立てることを誇りに思っているよ。ただ、誰もが私を王として見る。それには耐えられないのだ」


 その苦悩は、一貴族でしかないわたくしとて、時々感じるのだ。

 それが王太子殿下であれば、更にだろう。

 この国で王太子殿下と呼べば一人しか指さないのだから、それ以外で呼びかける者は少ないだろう。

 

「今はまだ王太子という身分であるにもかかわらず、私をマクシミリアンだと認識して話してくれる者はどれだけ居るというのか。王太子ではない、次期国王でもない、私個人を見ている者がなんと少ないことか。……それが寂しいと思う。もし、王になったらと思うと、ぞっとする。陛下と呼び続けられるうちに、マクシミリアンは消えるのではないかと恐怖を覚える。私は、私がマクシミリアンであるということを忘れたくはない。手放したくはない」


 そこで一度切った殿下は、こちらを見て微笑む。


「私はあなたを見て、その個人としての心を預けてもいい、いや、預けたいと思った。その笑顔で癒して欲しいと思った。舞踏会で見せる完璧な笑みではなく、剣技が上手くいって喜んでいるときのような自然な笑みを私にも向けて欲しいと思った。あなたの傍にいれば、私はマクシミリアンのままでいられると思った」


 美しい微笑みは自嘲へと変わり、諦めようとも思ったんだ、と続けた。


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