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まだぐるぐる中

 殿下からの申し込みも予想していなかったが、そこに恋愛感情があるなどというのは、  ()  ()  ()  わたくしの想定の範囲外であった。

 なぜ、こんな単純なことを思いつかなかったのだろうか……。


 いや、恋愛感情がないと思うのは、正直な話、仕方がないと思うのだ。


 突然だが、わたくしは侯爵令嬢である。

 また、ハウエルという王家の腹心というべき家柄であり、顔の造作は整っているほうだと言えるだろう。

 であるから、当然わたくしは優良物件である。


 貴族であるということもあって、当然のように結婚=政略結婚。

 であるから、優良物件であるということも含め、当然、申し込みがあったとしても、血筋、家の名あるいは外見を望んだ申し込みであって、恋愛感情をもって申し込む者はいないと思っていたのだった。


 つまり、似たような条件の人間がいれば、そちらでも構わないのだろう、と思っていたのだ。


 だからこそ、わたくしは選ぶ側でいられた。

 わたくしが好ましいと思う者という選び方でよいと思っていたのだ。


 しかし、ここへ来て、恋愛感情を持った申込者が現われてしまった。

 そんな方を、今までと同じように扱って良いものだろうか。


 ぐるぐると考えていたが、はっと気がつく。


 そもそも本当に殿下はわたくしに恋愛感情を持っていらっしゃるのだろうか。

 殿下も同じ条件の人間がいたら、そちらを選ぶのではないだろうか?


 わたくしが好きだと思ったきっかけは笑顔だったらしいが、現在でもそんな純粋な思いでわたくしを望んでいるのだろうか?


 あのお方について何も知らないわたくしには分からない。

 お兄様を信じるのであれば、わたくしのことが好きらしいが、それはお兄様が言ってらっしゃるだけだ。


 王太子殿下の周りも、うるさくなってきているだろう。

 次期国王陛下として、王妃となる妻を娶り、子をなす必要がある。

 そういった周囲に折れて、候補者筆頭であったわたくしを選んだのではないのだろうか。


 であるならば、わたくしの基準で選んでいいのだろうか。


 でも、万が一にも恋愛感情があったら?


 いや、やはり王太子殿下は優秀な方だ。

 そんな理由で選んだりしないだろうか。


 知らないことが多すぎる。

 分からないことが多すぎる。


 見えない答えにうなっていれば、ドアがノックされた。


 考えている間に、肘掛にもたれかかるような姿勢になっていたらしい。

 顔を上げ、しかし返答をする元気がない。

 返事をしないでいれば、あちらから声が掛かった。


「エレナ?聞こえるかい?」


 お兄様の声だ。


「お前は悩みだすと悪いほうへ悪いほうへ考えるから、いや、その性格はハウエルの人間として良いことだとは思う。だけど、今の状況においては良いとはいえないし、きっと答えが出ずにいると思うから、あいつの指南役として、幼いころから傍にいた者として、一つだけ言っておくよ。マックスに会うまで答えを出そうとはするな」


 はっと起き上がる。


「あいつの気持ちが分からないのは仕方がない。あいつのことを知らないのも仕方がない。あいつがもたもたしていて、伝えなかったんだからな。急に申し込みをしてきて疑うのも仕方がないことだ。だからな、あいつから、あいつ自身から言葉を貰うまでは答えは出すな」


「そうね」


 ぽつりと同意する。

 知らないのなら、知ろうとしなければ。

 分からないのなら、分かるように、分かるまで聞けばいいのだ。

 逃げるのをやめなければ。

 答えを出すのは、それからでも遅くはないだろう。


「僕から言えることは、それだけだよ。落ち着いたら、出てきてご飯を食べよう。お腹がすいてると、余計に悪いことしか考えられなくなるものだからね」

 

 と、くすくす笑いながら言って、またあとで、と部屋の前から去っていったようだ。





 あの後、夕食の際にお父様から殿下が明日いらっしゃる事を聞いた。

 先ほど、伝え忘れたらしい。


 しかし、それほど慌てることはなかった。

 聞きたいことがある。

 知りたいことがある。

 そのためにも会わなければならないのだから。

 それが早いというのは、歓迎できることだった。


 ジェラルド様のときと同じように、お兄様が同席するようだ。

 それを聞き、少し安心したのもある。

 いくら聞く覚悟を決めたとはいえ、お会いするだけでも緊張するのだから。






 朝、目覚めはよかった。

 天気もよかった。

 いい日になりそうだ、と思えるほどに。


 すぐに否定することになるのだが。


 朝食後、侍女たちに囲まれて磨き上げられることとなった。

 殿下がいらっしゃるのは午後だとお聞きしているのに。

 早まったのか?と聞けば、殿下がいらっしゃるのに、いつも通りでいいと思っているのかと怒られた。

 侍女たちにとっては大事らしい。


 おかげで何も考えずに、過ごすことができたことは感謝すべきなのだろうか。


 わいわいと姦しくドレスを選んでいる侍女たちに、着せ替え人形よろしく、次々と着替えさせられる。

 最初は少女たちの王道とも言うべきカラーのピンク、瞳に合わせて紫、初夏であることを考えて爽やかな若草色、空のように明るい水色と様々な色を着せられた。

 侍女たちの意見がまとまらず、最終的にはお兄様の意見で藤色のドレスにパールをあわせることとなった。






「なんでこんな大事に……」


「まぁ、侍女たちでは、なかなかお会いできるような相手ではないしね。仕方がないんじゃないかな?」


 ぐったりとしたわたくしと、それを見て楽しそうにするお兄様。

 素晴らしく美しい笑みを浮かべられたお兄様は、何も知らないご令嬢たちが見たならば、うっとりするほどの麗しさをお持ちだ。

 わたくしには悪人にしか見えな


「エレナ?」


 その笑みをたたえたまま、こちらを見たお兄様。

 思考が透かされたのだろうか。


「来たみたいだから、出迎えにいこうか」


 違ったらしい。

 窓際に立っていらっしゃったお兄様には、馬車が到着したのが見えたのだろう。

 お兄様の言葉に頷き、立ち上がると、自分の姿を見直した。

 特に乱れている様子はない。

 よし、と一つ気合をいれ、王太子殿下を迎えるため、玄関へと向かった。





 玄関に着くと、ちょうど王太子殿下が入ってきた。


「ようこそお越しくださいました」


 そう言って、腰を折ったお兄様に合わせて、わたくしも礼をする。


「そう、硬い挨拶をしないでくれ。今日は、私からお願いがあって伺ったんだ」


「はい。殿下。このようなところでする話でもありませんし、部屋にご案内しましょう」


「あぁ、お願いするよ」


 にこやかに交わされる言葉に、何もはさむことができなかった。

 先ほどまで忘れていた緊張が、やってきたらしい。


 本当に、この方が?と思ってしまう。

 すべてをお聞きしなければと思う。


 そして何も知りたくないと思う。


 すべてが終わった後、わたくしは冷静に選べるだろうか。


 お兄様が、こちらに一瞬視線を寄越した。


 俯きがちになっていた視線をまっすぐと前に向ける。

 すべては王太子殿下のご意向を聞いてからの話だ。

 今は、ハウエル家の娘として、アイリーン・ハウエルとして、逃げずに立ち向かおうではないか。

誤字脱字がございましたら、お知らせください。


お兄様がいいところを持っていきます。

そして次回はやっと王太子殿下の本心暴露!

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