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日数数え間違えてたので、夕方の投稿に……。
アイリーンお悩み中です。
部屋に戻ったわたくしは、椅子に座り込んでしまった。
考えもしなかったのだ。
結婚相手として王太子殿下を、などとは。
マリー様や王妃様が勝手に周囲に漏らしているだけで、王太子殿下自身がわたくしを望んでいるなどとは思いもしなかった。
先ほどの話から刷り込み、という言葉が過ぎったが、お兄様に釘を刺されたことを考えると本気なのだろう。
最近は確かにお話することは多くなっていたとはいえ、結婚まで考えるような中ではな
(いいえ。これは逃げですわね。)
殿下は噂の怖さを知らないお人ではない。
だからこそ、今までどのご令嬢とも舞踏会などといった、やむを得ない場合以外ではあいさつ程度で済ませてきたはずだ。
ダンスとて毎回人を変え、踊っていたはずで、決まった人間と毎回踊るなどしなかった。
こうした努力によって、近しい女性の噂など一切流れなかった。
努力が、まさかわたくしとの婚姻を考えていたからだっただなんて、夢にも思わなかった。
そういえば王太子妃になろうと躍起になっていた女性がいたような。
いや、当然多くの者が望むわけだが、それとは少し違う熱量を持った女性が頭をよぎる。
面倒なことにならなければいいのだが。
そういった面倒なことが考え付いてしまうと、ついつい恨み言を言いたくなる。
はっと思考を王太子との関係に戻す。
ついつい逃げ腰、及び腰になって、別の話に思考が移ってしまう。
恋愛は、わたくしには関係のない話だと何処かで思っていたらしい。
お父様が恋愛結婚至上主義を掲げているにもかかわらず、だ。
どうしても自分は高位貴族だという意識があるせいだろうか?
貴族は高位になればなるほど、家の権利、関係が娘の婚姻に関わってくる。
そう、教師たちに教わってきた。
だからわたくしもそういったことを考えて相応しいと思われる方々の中から、ハウエルの基準を満たし、わたくしが人柄を好ましいと思える方と選ぼうと思っていた。
貴族の娘が、自由に婚姻相手を選べるのは、素晴らしいと思っていた。
お父様に感謝しなければいけないと思っていた。
しかし、今となっては……。
頭を一つ振り、思考を戻す。
そういったことは後回しだ。
今は王太子様との婚姻について考えなくては。
一つ一つ、冷静に。
まずは、そもそもわたくしにこの婚姻は断るという自由があるか。
これがなかったら、悩む必要もないのだが、実際は断れないこともない、と言ったところか。
爵位として、ハウエルの上には公爵があり、その地位を与えられているのは三つの家だ。
これら公爵家にも当然女性はいるが、殿下と近しい年齢の方は一人だけ。
しかしながら、その方はすでに結婚している。
あとは未だ幼く、才覚に関して未知数である以上、そのような方を王太子妃にというわけにはいかない。
このような事情もあって、侯爵家のわたくしが王太子妃候補筆頭になっていたわけだ。
とはいえ、わたくしの曾祖母が降嫁してきた王女である。
そのことを考えると、他家とのバランス上、断るということは可能である。
他の侯爵、伯爵家にも年のころの合うご令嬢はいるのだから、かまわないだろう。
そこで一つ安心する。
王家からの正式な申し込みであり、殿下自身がわたくしに好意を持っていらっしゃるという話を聞いて慌てていたらしい。
どうしよう、ということしか頭になかったが、断れるという前提があるのだ。
あとはわたくし次第。
殿下にハウエルを娶るものとなれる資質があるか、ジェラルド様とどちらのほうがバランスがとれるか、そしてわたくし自身が夫とすることができると思うのはどちらかを考えればいい。
そう、いつも通り、冷静に。
資質に関しては、ジェラルド様はもちろんのこと、王太子殿下とてお兄様のお墨付きだ。
貴族社会的なバランスとしては、ジェラルド様に軍配が上がるものの、問題があるかといわれれば問題はない。
対外的には王太子妃候補者から筆頭を選んだだけ、とも取れるからだ。
曾祖母が王家より降嫁してきている以上、近しいとは言えるが、実はその前は曾祖母の代からさらに五代ほど遡らなければ王家の血はなく、問題があるほどの近さであるとは言えない。
となると、問題はわたくし自身の考えなのだ。
王太子殿下を夫として見ることができるか、と言われれば、わからないとしか言いようがない。
ジェラルド様とて、好ましいとは思うものの、好きだから結婚を前向きに考えたわけではなく、率直に言ってしまえば、条件――ハウエルの基準を超えられるもので、わたくしが結婚できると思えるくらいには好ましい方――上素晴らしいお人であったからだ。
わたくしが結婚できる、夫とすることができると思える方は、わたくしを受け入れてくださる方だと思っている。
王家の盾となり、剣となるという覚悟を見守ってくださる方。
身に着けた猫を面白いと言ってくださる方。
女としての魅力に欠けるわたくしの体を努力の証と認めてくださる方。
付いた傷を勲章だと笑ってくださる方。
文官になれるほどに叩き込んだ知識を頼もしいと受容してくださる方。
わたくしを作っているすべての事を知り、受け入れられる人がいるだろうかと思いながらも、それを理想にしてきた。
受け入れてくださる方がいらっしゃらなければ、両親にも兄にも義姉にも申し訳ないが、領地にある離れの屋敷で一人、暮らしていこうと思っていた。
自由恋愛に託けて、貴族の責任とも言われる婚姻から逃げようとしていた。
そんな中、ジェラルド様からの申し込みがあった。
考えれば考えるほど、わたくしの理想とも言える方だった。
ジェラルド様はわたくしを知っている。
その上での申し込みだったのだ。
最初は戸惑いはしたが、わが身を任せてもいいかもしれないと思える方だった。
わたくしをと望んでくださるのはきっとこの方だけだとも思った。
そこへ王太子殿下から申し込みがあった。
王太子殿下のことは、ジェラルド様ほど知らない。
ただ、分かることもある。
一つはわたくしが剣を扱えることを知っているということ。
王家の方である以上、ハウエルのことは学んだだろう。
その中には、未だにハウエル家の女が剣を嗜むことも、含まれていたはずだ。
一つは、殿下がおそらく本気でわたくしとの婚姻を望んでいるということ。
ハウエルの基準を超えるほどの剣技は、王族に必要ない。
王族であれば力があることは好ましいといえど、正直なところ王族が先陣を切るような戦いというのはないし、王族に刺客の相手をさせるような能無しは騎士の中にはそうそう――ごく一部、ぼんくら能無し貴族が爵位に任せて無理やり紛れ込んだりするが、訓練についていけず除名される――いない。
それなのに、わたくしとの婚姻のために鍛えてきたとは……。
王太子殿下がやらなければいけないことは、それだけではないというのに。
現在、王位継承権をもつ男というのは王太子殿下しかいない。
マリー様も王位継承権を持つが、やはりそこは男性優位であると言わざるを得ない。
であるから、王としての教育も当然されてきたはずだ。
そちらもしっかりとされてきたというのは、周囲の噂から分かる。
陛下の名代として行かれたご公務などでの評価も高く、書類などもすでに手伝い、いつでも継げると言われているのだ。
王の学ぶべきことは政務に関することだけではない。
民たちの生活も学び、隣国のことも知っていなければならない。
そんな中で、幼い頃の思いそのまま、わたくしを得るためだけに腕を鍛えてきた。
これで本気かと疑うのは、きっと失礼だろう。
しかし、わたくしにとって衝撃であり、疑わずにはいられない。
(わたくしは女として求められている?)
家柄でも、華やかと評価される顔の造りでもなく。
純粋にわたくし個人を?と。
だからこそ、思い悩んでいるのだ。
わたくし自身、恋などという思いを抱いたことはない。
わたくしにも喜怒哀楽があれど、唯一と思えるほどの愛しいという感情を持ったことはなかった。
感情というものは、「これがそうですよ」と見せることができるものではない。
所詮、人それぞれだということは知っている。
愛というものを問うた時に、父は「個人的な感情で、初めて守りたいと思った人間だった」といい、母は「舞踏会の会場でどこにいても探せた」と言った。
ますます分からなくなったので、幼い頃、考えることを放棄した。
そして、決めたのだ。
わたくしにも好ましい・好ましくないくらいの好悪感はあるのだから、条件に合った中から、好ましい人物を選ぼう、と。
なのに。
(相手が好意を持って申し込んでくることは、わたくしの考えの中に存在していませんでしたわ!!)
想定外のことが起こってしまった。
誤字脱字ございましたら、お知らせください。
長くなったので、ぶった切りました。
アイリーンはどうしても恋愛思考にならない。
完璧なお嬢様だけど、恋愛を知らないお嬢様。
彼女はどうなるのでしょうか。
ブックマークが3000件越え、評価100人越え。
本当にありがとうございます。
また、PVが40万人越え、ユニークも12万越えました。
皆様、つたない物語に足を運び続けてくださり、ありがとうございます。
今後も精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。
感想欄での感想でも、活動報告のコメントでも、いつでもご意見等々お待ちしておりますので、何かございましたら、お書きください。
たまにとんでもない間違えをしておりますので(汗)
前回は読みづらいというお話は特になかったようですので、こちらの書き方に統一していくと思います。
よろしくお願いいたします。