8 公園
「・・・あの、ね。さっき、学校の廊下でぶつかった人が、中学の・・科学の、・・あの、浅井先生だったの」
「浅井が!?」
「よくわからないんだけど、うちの学校の先生になったみたいで、よろしくお願いします、とかって挨拶されて。
私、すごくビックリしちゃって、その・・手を振り払って逃げて来たの。
その勢いで秋斗に電話しちゃって。あの、ごめんね。別に、なにかあったわけじゃないから。
・・・もしもし、秋斗?」
私が話している時に反応がないのは珍しい。
浅井先生の名を聞いて、怒ったんだろうか。
三年前も、先生に対して秋斗はいつもぷんぷんぷんぷんしてたもんなあ。
「秋斗、もう切るね。ごめんね、授業中に。私も学校戻らなきゃ。
今日、放課後、時間があったら・・・」
「さくら、今どこ?」
「え?っと、坂北公園のすぐそば・・だけど」
携帯から聞こえる秋斗の声は怒ってる感じじゃないからとりあえずほっとする。
「すぐ行く。公園のいつものとこにいて」
「ええ? ちょ・・」
ブツリと電話は切れた。
折り返して掛けても繋がらない。
いつもはこんな一方的なこと、絶対する人じゃないのに。
・・やっぱり先生のこととなると秋斗はムキになる・・。
*****
私が公園に着くと、本当に五分もしないうちに秋斗が自転車を飛ばしてやって来た。
「さくら!」
自転車を乗り捨てて、走ってすごい勢いで私を抱き締める。
「秋斗? あの、何もされてないよ?」
「わかってる。でももうちょっと」
「もー・・」
と言いながらも、秋斗にこうやって抱きしめてもらうのはすごく好き。
秋斗は細く見えるのにがっちりしてて、抱きしめて両手でぎゅうってしてもらうと、なんとも言えない安心感がある。もちろんドキドキはするけど。
しばらく秋斗は動かなかったけど、恥ずかしくなって私はそっと秋斗の胸に当てた腕に力を込めて身を離した。
「あ、あの、ありがとう。わざわざ、来てくれて」
「いつでも呼んで」
そう言って、にっと笑ってくれた。秋斗の笑顔を見るとほっとする。
二人でいつも座る公園の端のベンチに腰を下ろす。
私はさっきの出来事をもう一度秋斗に話した。
先生の言ったことは、まあ、省略して、だけど。あんなの話したら秋斗が怒り出すのは目に見えてるし。
「浅井・・・。ホントしつこいなー、あいつも。
しかも坂西女子の教師になってくるとか、ストーカーだろ、それ。訴えたら勝てるレベルじゃない?」
「ホント、どうやってやったんだろうね」
秋斗とは両手を上に伸ばして、そのままベンチの背もたれにのけ反った。
「あー、これから毎日、さくらがあいつの授業受けるのなんて、考えただけで イヤだ。あー、いっそセクハラでも訴えよっか」
「無理よ、そんなの。三年前もそうだったけど、先生は授業は完璧にやる人だったし。食物科学は週に一回あるかないかくらいの授業だから、そんなに毎日顔を合わせることはないと思うし。大丈夫だよ」
「えー?」
秋斗はまだ納得いかないって顔。