6 ヤキモチ妬いてる
私はぎゅっと自分の手を握った。
「あ、あのね! あの、えっと、私・・・」
勢いよく言いかけたのはいいけど、なにからどう話そうか、頭の中は真っ白で、次に言うべき言葉が出てこない。
「あの・・・えっと・・」
「いいよ。そんなに焦らなくても、ゆっくりで。
おれはパン食べてるからさ。さくらの言いたいこと、じっくり考えて」
ポンポンっと私の頭を撫でて、秋斗はコロッケパンの袋を破る。
これ美味しいんだよねー、なんて言いながらもぐもぐ食べ始めた。
私は焦ると言いたいことが言えなること知ってるから、いつも秋斗はこうやって、一息つく時間をくれる。
こういう優しさがたまらなくうれしい。
パンを食べ終えた秋斗は、水筒をぐいっと傾けてぐびっと飲んで「ごちそうさま」と手を合わせて、くるっと私の方に向き直った。
「もう、いいかな?」
秋斗の顔を見て話す自信はなくて、視線が落ちる。
「あ、あのね、秋斗。ずっと・・話したいことが、あって」
「うん」
「あの、この前の話・・・私がやきもち妬かないって話」
「うん」
秋斗はひとつひとつ相槌をくれる。
私は自分の手を膝の上でぎゅっと握った。
「あれ、違うの! そうじゃないの。
本当は、いっつも・・・ずっと、秋斗の周りで仲良さげに話してくる女の子達に、秋斗に 近づかないで!って、思ってた。
中学の時も、秋斗はいつもみんなに人気があって、みんなが・・秋斗のこと好きだったし、今も、きっと絶対モテてるんだろうなあって思うと、すごく不安で。坂西高にはどんな可愛い子がいるのかな、とか勝手に想像しちゃうし。
・・・でもそういうの、言えなくて」
「・・うん」
「あ、秋斗には秋斗の生活があるんだから、私以外の女の子と話すのなんて当たり前だって頭ではわかってるし。そんなワガママ言って、嫌なやつだって思われたらやだし。
あ、あの、別に、すっごく我慢してたとか、そういうわけじゃないの。
その方がいいって思って、たというか。
そういうものだと思ってたというか・・」
言いたいことはたくさんあるけど、うまく言えなくてもどかしい。
こんなんで伝わるんだろうか。
「・・・でも、この前、秋斗に言われて、やきもち妬かない私は、秋斗のことそんなに好きじゃないって思われてるような気がして、・・・それは、もっと嫌だから。
私、すっごく秋斗のこと好きだから・・!」
秋斗の手がぎゅっと私の手を握った。
「ストップ、さくら」
「え?」
「続きは家でやろう。ここでは、ちょっと、ね」
「え? え?」
何がなんだかよく分からずにハテナ顔の私に、秋斗はちょっと赤い顔でわしわしっと自分の頭を掻く。
「めちゃくちゃ嬉しい。さくら、すごい、かわいい。
あー、ヤバい。今、無性に・・キスして抱きしめたい。押し倒したいっ」
「なっ、なにを・・」
いきなりのトンデモ発言に、私の顔はボンって火がついたってくらい熱くなった。
「でも、ここじゃ目立つし、理性を総動員して止めとく。
さくら、今日は終わるの何時?」
「・・四時、です」
「オッケー」
手を繋いだまま秋斗はベンチから立ち上がる。
「おれは三時だけど四時まで自主トレしてく。一緒に帰ろう。
よっし、じゃ、午後もがんばるかなー」
私も立ち上がると、ぐいっとそのまま引き寄せられる。
「さくらの気持ち、言葉で聞けて、めちゃくちゃ嬉しい。
帰ったらいっぱい、いちゃいちゃしよ」
「!」
繋いでた手がゆっくり離れてく。名残惜しそうに秋斗の手が私の熱くなってる頬を撫でた。
じゃあねと手を振って秋斗は微笑んで走って行った。
角を曲がる手前でもう一度手を振ってくれる。
心臓がどきどきどきどき鳴ってる。きっと私、今、すっごく赤い顔してるよー。
時計を見ると二時少し前。
・・弓道場に行くのは、もうちょっと呼吸を落ち着けてからにしよう。
*****
その日の夕方、秋斗が遊びに来てくれた。
部活の時にあんなことを言ってたから、一体なにをするのか、緊張でガチガチになってた。だって、いちゃいちゃしようって・・!
ちなみに、私達はまだキスまでの関係。
押し倒したいとか、口ではしょっちゅうそう言うことを言ってくる秋斗だけど、その度に私が固まるのを見て、冗談だよって笑い飛ばしてくれる。
美穂には、三年も付き合ってて、まだなの?って呆れられちゃってるけど。
ドキドキしながら、秋斗と私の部屋に行こうとしたら、リビングでゲームをやってるはるにいに捕まった。
「アキト、対戦しようぜ!」
ということになっちゃって。
結局、秋斗は帰る時間までずっとはるにいとゲームしてた。
私はママとお料理しながら、内心、ホッとしたような、ガッカリしたような・・なんだか複雑な気持ち。