番外編 家族で修学旅行 (後編)
結局、まずは男女に分かれて大浴場に行くことになった。
「じゃあ、まずは男同士で親睦を深めようぜ! ほら行くぞ、秋斗君」
「アキト、お前に色々教えてやるぜ。いろいろなー」
「ははは。いい兄ができたな、秋斗」
「勘弁してよ、ハル先輩。・・・ハル先輩の話だって色々聞かせてよ。
もちろん実体験で。色々、あるでしょ?」
「うっ・・・」
「なになに? 春樹、聞かせろよ」
テンションが上がったままみんなでゾロゾロ廊下を歩く。
これ以上うるさくすると、「お客様、お静かにお願いします」って民宿の人に怒られるよ。
子どものように騒ぐ男達を見てママ達はくすくすと笑う。
「男性陣も楽しそうね。負けないようにこちらも楽しみましょ」
「さくらちゃん、秋斗とのなれそめ、聞かせて欲しいわ」
「この子達、可愛いのよ。初々しくって」
ヤバい。矛先がこっちに向いてきた。
「私のより、ママと弥生さんのお話、聞きたいなあ」
「まあ、そうね。じゃあ、みんなで恋バナしましょ」
「あ、せっかくの温泉なんだから、お肌の美容についても教えてあげるわよ」
「あら。それ、私も教えて欲しいわ。今の化粧水、あんまり合わないの」
「お風呂上がりにすぐ保湿して・・・」
このペースでしゃべってたら、あっと言う間に茹だりそう。
お風呂から出た後。
宣言通り、パパ達は貸し切り風呂にそれぞれ連れ立って行った。
はるにいは一階のお土産屋さんを見て来ると言って出て行った。
広い畳の部屋はお布団でいっぱい。
襖で仕切られる二部屋だから、家族で分かれるか男女別、かな。
部屋には私と秋斗君の二人だけ。
ちらりと見ると、浴衣に紺の上を羽織った秋斗君は・・・すごく色っぽい。
というか、ステキ。かっこいい・・。
「そんなに見られると照れちゃうよ、さくらちゃん」
ハッとすると、秋斗君もこっちを見ている。
私、ちらっと見てるはずが、いつの間にかガン見してた!?
「・・はあ。まいったなあ。ハル先輩が変なこと言うから、意識しちゃうよ」
秋斗君はため息をついて、隅に寄せられたテーブルにぐったりと顔を伏せた。
「だいじょうぶ? のぼせちゃった? 秋斗君」
心配になって顔を覗き込むと、両腕が伸びてきて、抱き寄せられた。
「わわっ」
突然の行動に驚いてバランスを崩す。身体が傾いて、ぼふんと倒れた。
あ。
お布団ひいてもらってたんだった。
布団の上に倒れた私と、その上に倒れた秋斗君。
きゃあ! か、顔が超近いっ!
ちょっとでも動いたら、触れそうな距離にある秋斗君の顔。
バチっと目が合った私達は、二人して目をまん丸にして真っ赤になった。
「わ、ご、ごめんっ、さくらちゃん!」
「う、ううん。だ、だ、だいじょうぶ」
飛び跳ねるように秋斗君は横に退いて、私に手を差し出して起こしてくれた。
ふと、見た窓の向こうに、ぽっかり浮かぶまあるいお月様。
「わあ」思わず呟いた私の言葉に、秋斗君も窓の外を見た。
ハッとしたように窓に駆け寄る。
「おいでよ、さくらちゃん。ベランダ、出れるみたいだから」
秋斗君に誘われて、ベランダに出てみると、まるで別世界のようだった。
周りの建物は低くて空がすごく大きい。星がものすごく良く見えた。
「きれい・・・」
「ね。おれ、ここに来た時から、夜になったら絶対星を見ようって、ずっと待ってたんだ。この辺り、外灯も少なそうだったし」
待ってた?
えっと?・・そんな感じなかったような。
秋斗君はちょっぴり気まずように頭を掻く。
「・・・だって、ハル先輩が変なこと言うし、
もう、おれの頭ん中、さくらちゃんでいっぱいだよ。本当に。
あんなに楽しみにしてたのに、忘れるとか・・自分でもビックリなんだけど。
おれの中の優先順位、星座観察より、さくらちゃんのがめっちゃ上位だよ」
「・・・こ、光栄です」
恥ずかしさで変な受け答えをしてしまうと、くすりと笑われた。
ちらりと見ると、いつもの優しい笑顔。
秋斗君の顔がそおっと近づいて、ちゅっとほっぺにキス。
おでこにも、ちゅ。
そして、唇にも・・・
「おーい、さくら? あっきとー? カギあっけてー?」
!?
はるにいの声に、私達は肩を跳ね上げて目をパチパチ見合わせた。
「ハル先輩・・・ワザとじゃねえの? あれ・・・」
がっくしと首をうなだれる秋斗君。
「さーくーらー!」
「あ、ハイハイ、今開けるってば!」
さっきよりボリュームアップしたので、私は慌てて立ち上がった。
ドアを開ければ、ニヤニヤと笑う悪戯ッ子なはるにいの姿。
ベランダから戻って来た秋斗にからんで行く。
「あっれー? もしかして俺、おジャマでした?」なんでニシシと笑ってる。
赤くなった秋斗君がアレコレ言い返して、それをまたはるにいが言い返して。
やいやい言い合ってるうちに、ゲームで勝負だ!って鞄から携帯型ゲーム機を取り出した。旅行先に何持ってきてんのよ、はるにい・・・。
と思ったら、秋斗君も当然のように取り出した。あるんですか!
「さくらもやろうぜ。お前の得意なやつも持ってきてっからさ」
「うん! やるやるー!」
ということで、ロマンチックな雰囲気から一転して、ゲーム大会になった。
温泉から戻って来たパパ達も参加して、ママ達が「もういい加減にしなさい!」
ってストップをかけるまで勝負が繰り広げられた。
帰りの道中でも、はるにいがフラっとどっかに行っちゃってバスに乗り遅れたり弥生さんがお土産を悩み過ぎてなかなか買えなかったり、ママがジュースをこぼしちゃって近くのショップにスカートを買いに走ったり、色々あった。
でも、どれもみんな楽しくて、「なにやってんだよー」って笑ってた。
わいわい多賑わしの家族旅行になりました。
またみんなで行きたいな。
どうも、ありがとうございました\(^o^)/




