49 弘幸君とマリー
「せ、先生? どうして? ま、まさかまたタイムマシンで!?」
私の発言に、秋斗と先生は目を合わせてぷっと吹き出した。
「さくらさん、タイムマシンはあの日を最後にもう壊れてしまいました。もうありませんよ」
「え? じゃあどうして?」
「さーくら。おれたちは今、何歳?」
「え? 二十六・・・あ」
秋斗は、にやっと意地悪な笑みを浮かべる。
「わかった? タイムマシンで来たんじゃなくて、飛行機で来たってこと。
ホント、久しぶりだな。ヒロユキ! あれ。ちょっとたくましくなったなー」
二人で肩をたたき合ってじゃれ合ってる。
私ってば、自分が二十六歳なの忘れてた。
だって先生があの時のままだから・・・って当たり前か。
あの時の先生二十五歳って言ってたっけ。
「弘幸君、だ」
「はい。ようやく会いにこれました」
「・・・いやだ。すごく驚いちゃって。恥ずかしい。もう、秋斗。
弘幸君と会う約束してたなら言ってくれたらよかったのに」
「あはは。サプラーイズ。びっくりした顔のさくら、かわいかったよ」
「もー! からかわないでっ」
先生はくすりと笑う。
「以前、アキトと約束したんです。
十年後のペルセウス座の流星群を一緒に見ようって。
約束を果たしに来ました。晴れてよかったですね」
・・・そっか。十年後の約束を取り付けてたなんて、二人ともすごい。
「見てもらいたいものがあるんです。えっと、紹介したい人も。車のところまで来て下さい」
少し歩いたところに車が停まっていて、その前には女の人が立っていた。
金髪の外人さんだ! 私達を見るとにっこりほほ笑んだ。
「紹介します。こちらマリエッタ・クリスティーン。
私のパートナーです。研究所ではいつも彼女と共に仕事をしています」
「ハイ。マリーです。初めまして。あなたタチのことは、ヒロからいつも聞いてるワ。会えてうれしい、ヨロシクね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
マリーさんは軽くハグをしてきた。爽やかな香水の匂いがしてドキドキしちゃう。
「アキト、これは私が設計したテレスコープなんだ。
先週ようやく試作品が完成して、来月からは市場にも出る予定」
「うわあー! すごい!」
二人が囲んでいるのは、うちにあるやつの五倍くらい大きな立派な天体望遠鏡。
さっそく覗いて秋斗は興奮状態で、すごい!を連発してる。
「アキトがくれたアイデアもいくつか参考にさせてもらったよ」
「うっそ!? すっごい感動!」
「ここ。ここに新機能が搭載されてて凄いんだ。ここの・・」
丁寧に説明する弘幸君も、うんうんと聞いてる秋斗も楽しそう。
昔を思い出す。
二人で星座や宇宙の話で盛り上がってたっけ。懐かしい。
「さくらサン、少し、話し、したい。いいですか?」
「え?あ、も、もちろんです。私のことは、さくら、でいいですよ」
「ありがとう。ワタシもマリーと呼んで下さい」
マリーと二人で、車の横に広げたシートに並んで座る。
肩までの金色のサラサラな髪を掻き上げて、くいっとメガネを直した。
綺麗な人。 ホント、肌も真っ白だし、目もブルーで。鼻も高いし。
知的な美女って感じ。
こんな人と一緒にいるなんて、先生ってば。
「どしたの?」
ついじーっと見てしまった。
「あ、い、いえ。あの、マリー、すごい綺麗な人だなって。
先生は大変ですね。毎日こんな美人さんと一緒にいたら緊張しそう」
「わお。アリガト。
あなた、カワイイ人ね、ホントに。ヒロが言ってた通りだワ」
マリーはくすくすと笑った後、でも・・・と視線を落とした。
「・・ヒロはワタシといても緊張なんてこれっぽっちもしないわ。
ワタシ、女として意識されてないもの。
ワタシはヒロにとって、仕事上の、ただのパートナーなの」
ふう、とため息をつく横顔がさみしそうで胸がツキンと痛んだ。
「ね? ヒロと一緒にいたのは、十六歳の一年だけというのは本当?」
マリーは一転して明るい表情で聞いた。
「うん。弘幸君と会ってたのは、期間で言うと二カ月くらいかな。
とても短い間だったけど、すごく楽しくていい思い出なの」
「ヒロは、あまりアレコレ話さないタイプなんだけど、でも、あなた達の話はしてくれたわ。デスクに写真があるのよ。
今の自分があるのは二人のお陰だって。笑って話してくれた。
ワタシ、だからあなた達に会いたくて、一緒に付いて来たの」
「マリーは、弘幸君のこと、好きなのね」
「モッチロン! 世界一素敵だもの。学者として研究者としても尊敬してるし、 人として、オトコとしてすごく魅力的だと思うわ。アイシテルわー」
堂々と胸を張ってそう言うマリーがカッコいい。
私なんて、結婚した今でも愛してるなんて言葉、恥ずかしくて言えないのに。
「・・・でも彼はワタシをそういう目で見てくれないのヨ。
あくまでも同僚というか、仕事面でのパートナー。ピシッと線を引かれちゃう。
そういう真面目なところも好きだけど、ツライ時もあるわ。
もう何年もパートナーをしてるのに。アタックしても交わされちゃうし・・」
「そう・・・。でも、今日ここに来たのも仕事なの?」
私の問いかけに、マリーは大きな目をパチパチした。
「・・・ノー。個人的な用事だけど、一緒に来てって」
やっぱり。だとしたら、きっと、そうなんだろう。
さっきも赤くなってたし。
「弘幸君も、マリーのこと、ちゃんと考えてくれてるよ、きっと」
「ホント? だったら、うれしい」
私達に紹介してくれたんだし、そういうことだろうって思う。
弘幸君は私と一緒で、言葉にするの苦手っぽいけど。
何か決心をして、今日ここにマリーと一緒に来たんじゃないかな。
次回、最終回です!




