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48 あの日の約束

*****


郵便ポストに届いた一通の手紙。

部屋に戻って開くと、相変わらずビシッと綺麗に便箋に並んだ細かい文字。

この字を見るのは高校のとき以来。六年ぶりくらいかな。なんだか懐かしい。



『お元気ですか? さくらさん。

私は今、航空宇宙開発事業の、無人衛星を作ったり、衛星からの宇宙の様子を観察し分析する仕事をしています。

忙しく責任の重い仕事ですが、新しい発見や感動があり、とてもとてもやりがいのある楽しい日々です。

宇宙は無限に広くて謎だらけです。私の知能でどこまで解明できるか、わくわくしています。』


手紙を読んでいると、頑張ってる弘幸君の顔が浮かぶ。

自分にとって、一 番ぴったりの仕事を見つけれたんだ。よかったなあ。


『また会える日を楽しみにしてます。

その日が晴れることを願っていて下さい、さくらさん』


晴れ? なんのことだろう?

首を傾げてると、ピピーピピピーピと携帯の着メロが鳴る。

秋斗からの電話。職場から直接掛けて来るなんて、珍しい。


「秋斗、今、弘幸君から手紙が来たの。懐かしいね。

元気でやってるみたいだよ」

「こっちには郵便が来た。図鑑とか色々、詰め合わせ。

ずっしり重い本みたいなのが送られて来たから何だろうと思って開けたら、あいつの手書きの天体記録で、マジびっくりだよ。

衛星から撮った写真と、その説明が書いてあって、ホントにすごい。

すごいとしか言いようがない。やっぱあいつ、天才だ。

論文に起こすための下書きだからもう捨てるだけだし、やるよって。

うちの科学館で 使ってくれって書いてあった。

最高だよ! 職員一同大喜び。持つべきものは友達ってことだなぁ」

電話越しの、興奮気味な秋斗の声。

よっぽど嬉しかったんだ。




*****


秋斗は大学を卒業してから、学芸員の資格を取って科学館に就職した。

あれだけ子どもの頃から通い詰めてて、高校生も大学生のときにもバイトしてたから、顔パスみたいな感じで。

職員さん達に「やっと正社員で来たかー」って言われたらしい。



私は坂北介護老人ホームの管理栄養士として働いてる。

週に四日の出勤なので、今日みたいにお休みの日は、ママと手芸をしたりお菓子作りをしたり、秋斗のお母さんと買い物をしたり。

もちろん、家事も頑張ってこなしてる。

中学生の頃から主婦みたいってはるにいに突っ込まれてただけあって、慣れたものですけど。今はホントの主婦。


私達は大学を卒業してすぐに結婚した。

お互いに仕事が始まるとタイミングを合わせるのも大変だし、お互いの両親も大賛成だったし、早く一緒に暮らしたいし、ということで即決定した。

って言うか、初プロポーズは中学生のスーパーのあの時だしね。


今は秋斗のご両親と同居している。

結婚する前も頻繁に遊びに行ったりお泊まりしたりさせてもらってたし、大歓迎されてお嫁に来たから、非常にすんなりこの家族の一員になれた。

秋斗は最初、新婚さんだし近くにアパートでも 借りようか?とも言ってくれたけど、私が同居にしようって言った。

二人でいる時間も家族みんなで過ごす時間も、どちらも大事にしたいから。

お母さん達はとても喜んでくれた。



「ただいま、さくら!」

スーツ姿の秋斗は帰ってくるなり一直線で私のところにやって来て、ぎゅうっと抱きしめてキスをくれる。

愛情表現豊かなのは、ずっと昔から変わらない。

っていうか、昔よりも遠慮ない。

新婚さんだし、いいじゃんって言って、ところ構わず抱きしめてくるのは嬉しいけど恥ずかしいからヤメテください。



お互いに仕事をして、同じ家に帰って来て、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る。朝、目が覚めると隣に秋斗がいて、おはようって眠そうな顔で笑ってくれる。

ああ、幸せだなあって、いろんな時に感じる。







*****


今日は秋斗は朝からご機嫌。朝食にココアをいれてもらって私もご機嫌。

秋斗は完璧に私好みのココアを把握したようで、今じゃあ世界一美味しいココアをいれてくれる。


カレンダーを捲りながら、もう結婚してから三年も経ったのかと改めて思う。

早いもんだなあ。


今日はかねてから計画してた小旅行。

隣の県の温泉宿に、一泊二日する。宿の近くに、星が綺麗に見えるスポットがあるんだって秋斗が張り切ってて、一週間くらい前から星座の話を聞かせてくれたから、予習もバッチリ。



宿は情緒あふれる日本宿。部屋着のゆかたも可愛くて部屋に露天風呂がついてて、夕飯もとっても美味しくって大満足だった。

なんか、いつか二家族みんなで行った京都旅行を思い出しちゃう。

あの時はパパのはるにいも秋斗もはしゃいでたなあ・・・。


食事を食べ終わると、秋斗がそわそわと時計を見た。

「さくら。着替えて外に行こう。よく晴れてるから、サイコーだよ」



夏の夜は気持ち良い。

秋斗はカバンを背負いながら、ちらりと時計に目をやる。

「なあに? 時間が気になるみたいだけど、なにかあるの?」

「ショーが始まるんだ」

弾んだ声で秋斗が空を仰ぐ。


私もそれに倣った。すっかり真っ暗になった夜空は雲一つない晴天。

都会のように周囲の電灯に邪魔されることなく、驚くほどたくさんの数の星達を見せてくれる。

「ペルセウス座の流星群だよ。今年は今までより多くの星が流れる。

ここは空気も澄んでいて明かりもないから、きっとよく見えるはずだよ」

じっと空を眺める。

まだ、星は動かない。それでも満天の星が輝く夜空はとても綺麗。

ロマンチックでうっとりしちゃう。


「ペルセウスは、ギリシャ神話に出てくる英雄だよ」

「メデューサを退治したのよね。で、ペガサスに乗るんだっけ?」

「お。よく覚えたね。

神話にはまだ続きがあるよ。天馬ペガススに乗ったペルセウスは、海に人柱にされていたアンドロメダ姫を助け出すんだ。

怪獣ティアマトはメデューサの首を見て石になる。それがくじら座だよ。

ペルセウスはアンドロメダに恋をして、二人は結ばれる」

「すてき」

秋斗は優しく笑って、そっと私の肩を引き寄せ、顔中にキスをくれた。

くすぐったくて笑いが漏れる。




「相変わらずですね、お二人さん」




この声・・!?

ばっと振り返るとそこにいつからいたのか、人影があった。


「やっと来たかー」 秋斗は、よっと立ち上がる。

私はただただ驚くばっかりで声が出ない。


「お久しぶりです、さくらさん。ますます綺麗になりましたね。

私が知ってる あなたより、今のあなたの方がずっと綺麗だ。

愛されてるってことですかね」

にっこり笑うその人は、間違いない。

十年前タイムマシンで未来に帰った浅井先生、 その人だ。

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