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37 母親

翌日、私と秋斗は先生のご両親の住む実家に行くことにした。

駅近く、坂南商店街の裏にある住宅地。意外とうちから近いところで驚いた。

自転車で三十分かそこらで行ける距離だ。

こんなに近くに住んでいるのに、どうして先生は会いに行こうとしないんだろう。

大きめな一戸建てのお家。

いきなりピンポンを鳴らしてもただの怪しい人だと思われちゃうかな・・。

家の近くまで行くと、ちょうど玄関が空いて、誰かが出て来た。

私達はさっと物陰に隠れて様子を見た。



赤と黒の派手な服、茶色の髪、真っ赤な唇。

齢はうちのママと同じぐらいだと思うけど、かなりケバい格好だ。

ブランドのロゴが大きく入ったバッグを持って、ハイヒールをカツカツ鳴らしてどこかへ行ってしまった。


「・・すごい。あれ、ヒロユキの母親なのかな? え? この前のあの人?」

「他にも誰かいるのかなあ。あ・・」

ちょうど隣の隣の家のおばさんが、家の前を掃き掃除している。

聞き込み調査をしてみることにした。


おばさんは噂好きおしゃべり好きだったようで、ちょっと世間話とかすると、こちらが聞かないことまでどんどんペラペラとしゃべってくれた。


あの家に住んでるのは浅井夫妻二人だけ。

昔は感じの良い夫婦だったそうだが十年前に息子を亡くしてから、

人が変わってしまったのだと、おばさんは可哀想に気の毒にを連呼した。

今では働きもせず二人とも毎日酔っ払ってフラフラしているらしい。

なにで稼いでいるのか株や不動産でもやっているのか、どうせろくでもない方法だろうって眉を寄せて話す。

女の方は派手な格好でしょっちゅう出掛けているけど、最近男の方は姿を見せないから、別れたのか、病気にでもなってるんじゃないかと言う。


このおばさんの推測で語られたこの話をどこまで真に受けていいものかわからないけど、でもさっき見たのは本当に先生のお母さんみたいだ。



「十年前、弘幸君を施設に入れてから、おかしくなったってことよね。

近所では亡くなったって思われてるの? ひどい!」

「金は施設から研究の協力金でも受け取ってんのかな」

「うーん、どうやって話しかけたらいいんだろ。あーゆうタイプの人、あんまり周りにいないし、苦手・・」

「ああいう系がが得意な奴はそうそういないと思う。

どっちにしろ今日は出掛けたばかりですぐ帰って来るとは思えないし、無理だね。

また明日、出直そう。ちょっと時間は早いけど、ヒロユキのとこへ行こうか」


とりあえず今日は偵察だけ。あとはじっくり策を練ってまた来ることにしよう。


「今日はクッキー焼いてきたんだ。先生は甘い物好きみたいだったし、 弘幸君、食べてくれるかなー」

「ヒロユキが食べなかったらおれが全部食べるよ」

あははと笑う。




弘幸君は初めて食べたらしいクッキーをとても気に入ってくれて、ほとんど一人で食べ尽くしてしまった。

弘幸君が持ってきた図鑑を熱心に見ていた秋斗が食べようとして

「もうないの!?」と騒いでいておかしかった。


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