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35 弘幸君

「また来たんですか。暇ですね、あなたたちも」

呆れたような顔で本を閉じる子どもの先生。子どもの先生って言い方も変だけど。


昨日と同じ、白いカッターシャツに黒の上下のブレザー。

そう言えば、昨日も同じ服着てた。

「あの、その服は制服なんですか?」

気になったので聞いてみる。

「・・・いえ。私服です。施設から支給された物です」

ちゃんと質問に答えてくれた。目線はどこか別のところを向いてるけど。


「・・支給される服って、色々あるんですか?」

「いえ。全部同じ物です」

「はーい、ストップ、ストップ」

急に秋斗がちょっと大きい声を上げた。


「なあに? 秋斗」

「君たち、会話が堅いよ。ってゆーか、さくらまで、なんで敬語なの?

同い年だよおれ達。普通にしゃべりなよ」

「あ。そうだった」

だって、なんかすごい近寄り難いオーラ出してるし、先生みたいだし。


「そうだな、呼び方から変えよう。おれのことは秋斗って呼んで」

「私も、さくらって呼んでね。えっと、先生・・は変だから、弘幸君って呼んでもいいかな?」

弘幸君は眉をしかめて、ハテナ顔をする。誰ソレ?みたいな。


「未来の浅井先生から聞いたんだ。施設での名前は浅井ヒロなんだろ?

けど、本当の名前は浅井弘幸って言うんだって。おれはヒロユキって呼ぶから。

改めて、よろしく」

秋斗はすっと手を差し出す。

「ほら、握手。おれの名前、呼んでみろよ。呼び捨てね」

「・・・よろしく、お願いします。・・・アキト」

恐る恐る出された手を、秋斗はガシッと力強く握った。弘幸くんの肩がビクッとはねる。

「ヒロユキ、ほっそい腕だなー。運動してる?

あー、大人の浅井もひょろひょろだったもんなあ・・・。

机に向かってばっかだと体がおかしくなっちゃうぞー。そうだ、今度ボール持って来るからさ。サッカーやろうよ。ここに来る途中に広い公園あったし」

「は、はあ」

流されているよ、先生。

秋斗のペースに乗っけられてる。流石は秋斗。



*****


それから毎日、昼の三時に弘幸君に会いに行くのが私達の日課になった。

夏休み中だから部活動はあるけど、熱中症などの心配もあるので長時間の過剰練習は禁止されている。朝八時から始まってお昼の二時か三時頃には終わる。


最初はピリピリと警戒しまくっていて、三人でいても秋斗と私が話すばかりだった。

弘幸君に話しかけても 「ふうん」とか「へえ」「そうですか」と返してくれるくらいで、ほとんど会話は続かない。

それでも、秋斗は学校での面白い友達の話とか、サッカー部で部員同士が大ゲンカした話とか、科学館での話とか、色々聞かせてくれた。

私も、弓道部の話とか、はるにいが最近家でハマってるゲームのことを話した。



そんな感じで何日か過ぎたある日。

いつも本を開いて視線を落としながら、軽く頷くだけだった弘幸君が、秋斗が星の話をし始めたらパタンと本を閉じた。


「おれ、天体が大好きなんだ。星座を見てるだけでワクワクするし。

親の影響もあって小学生の時からプラネタリウムに入り浸ってたよ。

初めて自分で織姫と彦星を見つけた時は嬉しかったなー」

「・・・今の季節だと、わし座のα星アルタイル、はくちょう座のα星デネブ、こと座のα星ベガが見えますね。あと、天の川銀河も」

「天の川銀河?」

聞き慣れない言葉に首を傾げる。

「天の川の正体は太陽のように自ら輝く星の大集団です」

「そう。そしてこの大集団は一つの銀河を作っているんだ。すごいよね。

あのもやもやっとした中に、別の宇宙が広がってるなんて」

弘幸君の説明に秋斗も興奮気味に話し出す。


「ここの屋上は星が見える? あの外灯はずっとついてるの?」

秋斗が指を指しているのは屋上の柵に取り付けられたいくつかの外灯。

「・・さあ? 夜にここに来たことはないで。部屋の窓から見るぐらいしかしないからよくわかりません」

「えー? もったいないなあ。さくら、今度は夜に来ようか。ここは周りに商店街とか商社ビルも少ないし、きっとうちの辺りより、星がよく見えるよ」

秋斗の目がキラキラ輝いてる。

これは今夜にでもまた来たいっていいそうな顔だな。

そうねって返したら、「じゃあ今夜の六時に・・いやまだ明るいからなあ。でも

あんまり遅い時間はまずいしなあ・・」ってブツブツ悩みだした。

それがおかしくて笑ってしまう。


「ふふ。秋斗は星のことになると夢中になっちゃうのよ。

弘幸君も好きみたいね」

「星に限らず宇宙に興味があります。宇宙は限りなく広くて、謎に満ちているから。学んでも学んでも解明できないことだらけで・・・」

「そうそう。だから惹かれるだよね」

こんなにしゃべる弘幸君は初めて。秋斗も意見を交わせる相手が見つかってすごく嬉しそう。

大人の先生も図鑑とか、辞典、いっぱい持ってたんだもんね。

子どもの頃から好きだったんだ。


その後もしばらく二人の星談義は続いた。

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