34 十六歳の浅井先生
これは、先生から預かった、秘密兵器。
「十六歳の私は恐ろしく人を疑っています。
施設の人間も学校の人間にも、回りの人間すべてに、嫌気がさし始めたころです。
下手なこと言って近づいても逃げられてしまうでしょう。
嘘をついても見破られてしまうし、信頼も損ないます。
正直にありのままを話した方がいいと思います。
もちろん、 それだけでは疑うでしょうから、これを。
それを見せれば、おそらくあなた達の言うことを信じると思いますから」
そう言って封筒を預かったけど、これが一体何なのか、私達もよく分からない。
手紙でも書いたのかと思ったら、製図とかの図面のようなものと、数字と英語がびっしり書いてあるだけのものだった。
子どもの先生は不信そうに紙を受け取ると、え?と小さく声を出して、食い入るようにその紙を見ていた。
そして数分後、彼は顔を上げてこう言った。
「・・・まいったな。・・・未来の私と、というのは本当のようですね。
そうですか。私は タイムマシンを発明するんですか。まるで小説の話のようですが、事実だと思えるだけの証拠を見せられては疑えません。認めましょう」
耳を疑った。本当に、あの紙を見ただけで信じちゃうの?
「あ、あの。信じてもらえるんですか?」
「まあ、少なくともこれは、本物でしょう。
この内容は、私の頭ん中にあるものです。私以外の人に書くことはできません。
あなた達の身元は不確かなままですが。
未来の私がこれを預けることができる人物だということでしょう。
・・・それで? はるばる未来から、私に何の用ですか?」
秋斗がずいっと先生の目の前に出る。
一歩下がった先生は、訝しげな目で秋斗を見ている。警戒する犬のようだ。
「おれたちと友達になって欲しいんだ」
「・・・ともだち? 何のために?」
先生は眉をひそめる。
「おれたち、二十五歳の浅井先生に科学を教えてもらったり、タイムマシンで何度も助けてもらった。
先生のこと、最初は苦手だったけど、色々話してるうちに、いい奴なんだって思ったんだ。
で、おれたちと同い年の十六歳の浅井先生がここにいるって聞いてさ。
ぜひ会って話したいって思ったんだ。だから来た」
理由は分かり易く、単純に。
秋斗はいつものにこにこ笑顔で先生に近づいて行く。
「・・話なんて、何も話すことはありません。私と関わっても、何もメリットはありませんよ。知識を流すことも施設に禁止されていますし」
予想通り、先生はすぐに拒否した。
でもそれくらいじゃ秋斗の笑顔は崩れない。
「いいだろ? 別にメリットが欲しくて友達になりたいわけじゃない。
単純に、浅井という人間に興味がある。話がしてみたい」
「・・話をするのは構いませんけど、私はあなたたちに興味はありませんよ。
それで良ければ、どうぞご勝手に」
そっけなくそう言って、先生は持っていた本を開いた。
これは、えっと。
まあ別にいいよってこと? 勝手にしていいよって言うなら、勝手にさせてもらいますとも。いいよね。
「また会いに来たいんですけど、いつなら会えますか?」
そう尋ねてもなかなか返事が返ってこない。
「あの・・」「明日も来るから。いいだろ?」
秋斗がちょっと強引に言い放つと、子どもの先生は小さくため息をついた。
やれやれ、みたいな感じで。
「・・いつも、だいたい夕方は、屋上に出て本を読んでいます」
やった!
思わず秋斗と顔を見合わせた。
これは大きな一歩だ。




